第197話
文字数 759文字
☆
上島が案内してくれたのは、大通りから一本裏にはいった雰囲気のある小料理屋だった。木戸を開けて店にはいると愛想のいい女将がでてきて、奥にあるこじんまりとした個室にすぐ案内された。
「じゃあ乾杯」
霜を降らせたようなキンキンに冷えた細長いグラスに、絶妙なバランスで注がれた白い泡とビール。持ち上げたまりあのグラスにカチンと音をたててグラスを合わせると、彼はごくごくっと一気に飲み干した。
「夏のビールってやっぱり美味いよね」
喉を潤す程度でグラスを置いたまりあが上島の飲みっぷりを見つめていたら、彼が笑った。
「ごめんね。この後送ってあげられなくて」
「元々電車で帰ろうと思っていたし大丈夫です。それよりお仕事前にビールを飲んで大丈夫ですか? 車もあるし」
このあと上島は職場に戻って仕事をするらしい。やはり彼は相当忙しいのだろう。そのなかでまりあに会う時間を捻出して、話をしようとしている。そう思うと彼のようにごくごくとビールを飲む余裕などない。本気で対峙しないと上島のペースに飲み込まれてしまう。そう考えたまりあは背筋を伸ばす。
「ちょっとくらい飲んでも支障ないからへーき。あ、車ね、今日はもう運転しないから心配しないで。あそこの駐車場は会社で契約してて、置きっぱなしにしても大丈夫だから」
一方の上島はリラックスした様子で小鉢に箸をつけて口に運ぶ。そこでまりあもようやく、目の前にある品のいい黒い小鉢に視線を落とした。
からりと揚げたなすと湯引きされた鱧 の上に、細かく繊切りされたミョウガがたっぷり乗っている。その横に花穂じそが彩りとしてちょん、と添えられている。それを見ただけでまりあは涎が出そうになる。連鎖反応で腹がぐうと勢いよく鳴ってしまった。考えてみたら食欲がなくて、まりあは朝からろくな物を食べていなかったのだ。
上島が案内してくれたのは、大通りから一本裏にはいった雰囲気のある小料理屋だった。木戸を開けて店にはいると愛想のいい女将がでてきて、奥にあるこじんまりとした個室にすぐ案内された。
「じゃあ乾杯」
霜を降らせたようなキンキンに冷えた細長いグラスに、絶妙なバランスで注がれた白い泡とビール。持ち上げたまりあのグラスにカチンと音をたててグラスを合わせると、彼はごくごくっと一気に飲み干した。
「夏のビールってやっぱり美味いよね」
喉を潤す程度でグラスを置いたまりあが上島の飲みっぷりを見つめていたら、彼が笑った。
「ごめんね。この後送ってあげられなくて」
「元々電車で帰ろうと思っていたし大丈夫です。それよりお仕事前にビールを飲んで大丈夫ですか? 車もあるし」
このあと上島は職場に戻って仕事をするらしい。やはり彼は相当忙しいのだろう。そのなかでまりあに会う時間を捻出して、話をしようとしている。そう思うと彼のようにごくごくとビールを飲む余裕などない。本気で対峙しないと上島のペースに飲み込まれてしまう。そう考えたまりあは背筋を伸ばす。
「ちょっとくらい飲んでも支障ないからへーき。あ、車ね、今日はもう運転しないから心配しないで。あそこの駐車場は会社で契約してて、置きっぱなしにしても大丈夫だから」
一方の上島はリラックスした様子で小鉢に箸をつけて口に運ぶ。そこでまりあもようやく、目の前にある品のいい黒い小鉢に視線を落とした。
からりと揚げたなすと湯引きされた