第2話 「旅立ち」

文字数 2,437文字

 生まれた子供達の成長は、早い。
 あっという間にハイハイ、そしてよちよち歩けるようにもなった。

 俺は、ふと良い事を思いついた。
 前世で見かけた事のある、乳母車仕様の大型散歩カーを嫁ズと相談して製作したのだ。
 良く保育士さんが、街中でガラガラ押すあれ。
 好奇心旺盛な我が子達は、目を離すとすぐちょろちょろするのでこの散歩カーが一番安全なのだ。

 エモシオンの町へ出発する俺。
 パパ……すなわち『俺命』な、愛娘のタバサとシャルロットが大声で叫ぶ。

「パパ、いや!」
「パパ、だめ!」

 ああ、典型的な2語文。
 寂しいから、出発しちゃ駄目よって事か!
 大丈夫、大丈夫、パパはすぐ村へ帰って来るから。

 イーサンは、ママのレベッカがすぐ傍に居るから、動揺せずに黙って見ている。
 パパの俺よりも、ママにくっつく事が多い。
 概して男の子は、ママっ子だ。

「どこ?」

 ぽつりと呟いたのは、クーガーの息子レオ。
 ちなみに、レオは寂しがったりしてはしない。
 旅立つママの行き先を、不思議そうに聞いただけだ。

「どこも何も、ママは仕事だよ、レオ……待ってな」

 愛息の質問に対してクーガーも簡潔に、低く凄みのある声で言い放っただけである。

 ちなみにクーガーは、元女魔王だけあって結構なスパルタ主義だ。
 躾が厳しく、決して息子を甘やかしたりしない。
 他の嫁にも息子への方針を伝えて、徹底させている。

「じゃあ行って来るぞ! リゼットは身体に気をつけてな」と、俺。

「シャルロット! 用事を済ませたら、パパとすぐに帰るからねぇ」と、ミシェル。
「留守番宜しくね~」と、ソフィ。
「では、皆様行って参ります!」と、クラリス。

 俺達が手を振ると、留守番組も応える。

「クッカが、ちゃ~んと留守を守りますよぉ」と、クッカ。
「旦那様、そちらこそ気をつけてくださいね~」と、リゼット。
「イザベルおばさんに宜しく~」と、レベッカ。

 俺達も再び、返事を戻す。

「お~う」
「あいよぉ」
「了解!」
「任せてぇ」
「お土産、楽しみに待ってて下さいね」

 そろそろ時間と見て、ミシェルが合図をすると馬車が動き出す。
 車輪は大地を踏み締めながら、ゆっくりと回って行く。
 ちょっと走れば、すぐ村の正門だ。

「ガストンおじさん! 出かけるよ、宜しく~」

 開門を促す、ミシェルの声。
 打てば響く、逞しい門番様の声 。

「おうよぉ! 開けろ、ジャコブ!」

「了解だぁ」

 ガストンさんが村外の様子をしっかり確認してから、ジャコブさんが正門を開けた。
 この正門を出て、更に外柵の門を開け、やっと村外へ出るのである。
 俺が来た頃に比べれば、村の防壁もかなり強固になった。
 村の周辺にゴブなどの魔物が殆ど居なくなった今は、山賊など人間の暴徒が一番注意する敵だ。

 内柵と外柵の間は青々とした農地が広がっており、柵で囲われた放牧地の中ではブタやニワトリなどの家畜も、安心して遊んでいる。
 ゆっくりと走る馬車に向けて、農作業を行う村民達から一斉に声が掛かった。

「行ってらっしゃ~い」

「ケン、気をつけてな~」

「エモシオンで良い商品仕入れてくれよぉ」

「ばしばし買うからね」

 俺達も大声で応える。

「はいよ~」
「任せて~」
「待っていてねぇ」

 以前、エモシオンの町で商品を仕入れて帰って来たら、村中の人が殺到して吃驚した事がある。
 それ以来最近は、大空屋で買い物をする事が村民達の楽しみにもなっているらしい。
 仕入れに行く度に知恵を絞って、新製品を仕入れるからだ。
 当然、村民の役に立つ商品が前提。
 大空屋は買取も行っているから、村民の貴重な収入源となっている。 
 余剰品を大空屋で売り、得たお金で買い物をする。
 元々、そのような傾向はあったのだが、こうなると村の経済の中心と言って良い。

 外門を出てから街道までは暫く草が踏み固められた狭い村道が続く。
 他者の気配は全くない。

 そろそろ頃合だろう。
 何が頃合いかって?
 転移魔法発動のさ。

 俺は、嫁ズへ声を掛ける。

「お~い、そろそろ行くぞ~」

「「「「了解!」」」」

 その瞬間!
 馬車は、煙のように消え失せていた。

 30分後……

 俺達を乗せた馬車は、何事もなかったかのように街道を走っている。
 ひとけのない雑木林に魔法で転移して、さくっと街道に入ったのだ。
 
 俺の計算では、あと数分程度でエモシオンへ到着する。
 この町は、色々と思い出深い。
 ミシェルの辛い過去を知り、ミシェル&レベッカと深い絆を結べた町だ。
 
 領主オベール様の娘ソフィことステファニーと、運命の出会いをした事も。
 飯を食っていたら、いきなり下僕になれとか言われて吃驚したっけ。
 それで、お仕置きにお尻ぺんぺんして一気に仲良くなったんだよな。
 ステファニーが危機に陥り、あの救出劇。
 そして、結ばれた。
  
 大変な事もあったけど、両方とも、今となっては良い思い出だ。
 
 ふと、視線を感じる。
 傍らに座っているソフィも同様らしく、俺の顔を見て微笑んでいた。
 俺は、そっとソフィの肩を抱き寄せる。
 ソフィも鼻を鳴らして甘える。
 結婚してから2年経っても、俺は嫁ズ全員と相変わらず熱々なのだ。
 
 やがて、計算通りの時間でエモシオンの正門前に到着した。
 相変わらず入場待ちの人々がずらりと並んでいる。
 俺は馬車を止めると、門番のひとりへ近付いた。

 ソフィ=ステファニーの事は秘しているが、ミシェル母のイザベルさんが領主オベール様の奥方になって以来、俺達は堂々と領主様の親族を名乗っている。 
 俺の顔も当然覚えられていたので、門番の顔が破顔した。

 手を挙げた俺は、軽く一礼して来訪を告げたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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