第8話「宰相兼家庭教師②」
文字数 2,819文字
つらつらと考える。
勇者が助っ人は……まだしも
宰相って何だよ?
村長くらいなら、いいけど宰相って……
それに某有名ゲームだと、大抵、裏で陰謀をたくらむ『悪役』っぽいし。
「あのぉ、親父さん。俺が宰相なんて、買い被り過ぎですって! 政治は全く素人ですよ」
「いや! 婿殿の、深謀遠慮的性格なら何とかなるぞ」
「深謀遠慮的性格? 確かに否定はしませんが、そんなものですか? 一応、村長代理なんで、小さい村くらいなら何とか頑張ろうと思いますけど……領地経営なんて、絶対無理だと思います」
「いや、大丈夫、楽勝、楽勝。私からも婿殿に貴族としてのノウハウを教える。だから腹心として、私と我が息子フィリップを大いに助けてくれよ」
オベール様とフィリップを大いに助けるか……
まあ、オベール家の安泰イコールが、ボヌール村の平和だから、それは良いんだが……
騎士爵家の宰相勇者なんて……
万が一王都へ行っていたら、王様に取り立てられた場合のマイナー版って感じだな、それ。
「まあオベール様は勿論、フィリップは、俺にとっても可愛い弟で大好きですから、助けるのは構わないですけど……そもそも勇者って言われるのも勘弁ですよ……親族として、ボヌール村村民として、オベール家と交流を図りながら、共存共栄への道を探りたいのですから」
「うむうむ、そうだな。ああなって、こうなって、よしよし……」
オベール様、俺の言う事に頷いてるけど……
何か、もう未来へのイメージが勝手に膨らんでいるみたい。
まあ、俺の言う事に反対する気配はない。
なので、俺は話を続ける事にした。
「いずれですけど、俺の第一世代の子供達も連れて来てフィリップと遊ばせます。もう少し時間はかかると思いますけど、親父さんの孫娘ララも大きくなったら必ず連れて来ますよ」
「うむ、私もステファニーとララにはもっともっと会いたいぞ! そしてフィリップの遊び相手もか。そうだな、我が息子の遊び相手が多ければ多いほど良い。次世代への交流にもつながる」
次世代交流……それは良いと思う。
俺の次のボヌール村村長が誰になるか、分からないけど……
オベール家との、友好関係発展の為に良い。
ミシェルとの娘シャルロットや、ソフィとの娘ララはフィリップとも血がつながっているし。
後は、家庭教師の実務である。
「親父さん、フィリップの家庭教師として教える内容は、俺の村での経験と騎士の子供が他家で修養する内容とほぼ同じで良いでしょうか? 魔法に関しては、素養があれば教えます。俺も嫁ズもあまり目立ちたくないので本気は出しませんが」
今迄に俺が前世と異世界通じて、人生で経験した中で、フィリップへ教えたい事がある。
事実をそのまま伝えられない部分は、うまく言葉と設定を変えて。
これは俺の子供達にも、教えると決めているけど。
……後は俺のスキルを使って教授出来る、騎士の修行である。
ヘビーな中二病の俺は知っていた。
中世西洋の騎士の修行って、結構大変だって事を。
ちなみにオベール様へ聞いた所だと、この異世界の騎士の修行もほぼ一緒である。
「おお、そうか。婿殿が教えられる範囲で構わない、婿殿の力が目立って王都へさらわれるのは絶対に駄目だからな。それにこの土地が私は好きだから、やり過ぎて領地移転も困る。なので、我が家の繁栄もほどほどで良い」
「ありがとうございます。理解して頂き、助かります。でも家庭教師に関しては、親父さんとイザベルさんにも参加して貰って、皆でやりましょう。教える科目は改めて相談して分担するという事で」
「うんうん、良いアイディアだ。私やイザベルも喜んで先生をやろう。そうすれば親子の団欒も出来て、家族全員が喜ぶ」
フィリップはまだ6歳だが、何故こんなに幼い頃から、英才教育をするのかというと。
もう少し詳しく説明すれば……
騎士って7歳くらいになると、父親の知り合いである同じ騎士の他家へ預けられる。
預かる他家は、子供へ厳しい対応をする。
預かると言っても、けして『お客さん』ではないのだ。
金で雇われた使用人と一緒で、子供はその家で懸命に給仕や家事、その他雑用をする。
いわば丁稚奉公だ。
そして修行も山積み。
騎士の基本は体力、武技、馬術だろうが、学ぶのはそれだけではない。
まずは有名な騎士の心構え……
忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、そして奉仕の精神を徹底的に叩き込まれる。
他にも語学、音楽、歌……
社交界対応の為には、ダンスなども会得しなくてはならない。
フィリップの場合は、当然未来の領主として、統治能力と帝王学も必須。
そんなこんなで7年から10年を雑用と修行。
その後、他家の主人について3年から5年、騎士見習いを務めながら実戦にも慣れる。
トータル約10年から15年の修行期間を経て、漸く一人前の騎士になるのだ。
閑話休題。
教える先生としての俺は、レベル99の魔法とオールスキル。
嫁ズもクッカ、クーガーを筆頭に様々な魔法とスキルを有している。
先生としては、申し分ない。
全ての能力を伝えてはいないが、あきらかに常人でない俺達が先生を務めるので、オベール様が喜ぶのも頷ける。
だけど……
まだまだ幼いフィリップへ、「厳しく詰め込み過ぎるのは可哀そうだ」と、個人的には思っている。
フィリップの、モチベーションの問題もある。
学ぼうとして、なかなか上手く行かないとか……
他の子供の才能を見て、嫉妬するとか……
やる気をなくす場合もありえる。
でも、フィリップはまだ6歳。
挫折を知るのは、まだまだ先で良い。
今は楽しくじっくり学ばせるのが、一番。
なので、オベール様、イザベル様、そして嫁ズと詳細や段取りを改めて相談だ。
俺が考えを述べたら、オベール様も「にこっ」と笑う。
文句なくOKという事だろう。
「分かった。婿殿の言う通りだ。フィリップの気持ちや将来の事を考えてくれ、恩に着る」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます!」
ふう!
グレースの件も、オベール家ケアの件も、無事に話がまとまりそうだ。
今回の、話し合いは大成功といえるだろう。
「婿殿、話がまとまったところで、私の家族と婿殿の嫁全員で中庭へ移動し、午後のお茶を飲まないか? 美味い焼き菓子もあるし、今日は天気が良いから気持ちが良いぞ。すぐに用意させるから」
「それは良いですね、ぜひ!」
俺は大きな声で答えると、手を差し出す。
合意の握手を求めたのだ。
すかさずオベール様も、当然心得たとばかりに、笑顔で「がっつり」と俺の手を握ったのであった。