第7話「家族会議④」
文字数 2,824文字
改めてリゼットが仕切り、家族会議の本番が始まった。
「衣食住の『衣』は……基本、クラリス中心で行けると、私は考えています、ねぇ、クラリス」
「はい! 今迄通り、ぜひ私にボヌール村の服を任せて下さい」
親友のリゼットに促され、いつもは控えめなクラリスが、真剣に強い口調で言う。
そう、クラリスの夢は、ボヌール村の人に自分の服を着て貰う事。
それも、ただ着て貰うだけじゃない。
クラリスは、以前こう言っていた。
「……明るかったり、可愛い服を着ると、見た目は勿論、村の人の顔も活き活きして来ます。……私、もっと村全体が明るくなって欲しいから」
今や、ボヌール村の村民、殆どがクラリスの服を着ている。
彼女の夢は、ほぼ叶った。
それに服は、販売したものだけじゃない。
相手の経済状況を鑑みて、代金を受け取れる時は、遠慮なく頂戴した。
だが……
ひとり暮らしのお年寄りで、生活がぎりぎりなんていう時は、タダで提供したのだ。
念の為、無理やりお仕着せではなく、服を見て貰い、ぜひ欲しいって言った人に限って。
ウチの村は、お互い気心が知れている。
だから、もし不要ならば、はっきりと「要りません」って言うんだ。
まあ、話を戻すと……
クラリスの村への思い入れは、凄く深いって事。
今は亡き彼女の両親の、思い出がいっぱい詰まっているから。
村の為に、全身全霊で尽くしたいという気持ちはとても強いのだ。
リゼットもクラリスの『思い』を当然、分かってる。
だから、クラリスの意思を尊重した上で、現実的なアドバイスもする。
「了解! じゃあ『衣』は変えず、今迄通りクラリス主導で行きましょう。但しサキやタバサみたいに、今回応募して来た人が弟子入りしたいって言ったら?」
「うふ! それは大歓迎です。やりやすいから本音は女性希望だし、面接はちゃんとしますけど、人手はいくらあっても良いです。但し旦那様の仰った通り、村に住むのなら、兼業で仕事が出来る人が前提ですね」
「了解! でも本当は一番消費の激しい肌着とかも、余裕があればクラリスに作って欲しいけど、どう?」
「が、頑張ります……」
口籠るクラリス……
そりゃ、そうだ。
肌着……すなわち村民全員の下着まで、ひとりで作るとなったら、どこのブラック企業だよって感じになっちゃう。
それでなくてもクラリスは、現状、農作業をメインの仕事にしているから。
「了解! でもね、いくら人の少ないボヌール村でも、全部が全部、クラリスに服を作って貰うのは無理。だから、不足分はエモシオンの店でどんどん買いましょう。それが共存共栄というイザベル奥様のお考えにも通じるから」
「はいっ!」
うん、リゼットはちゃんと分かってたし、彼女の言う通りだ。
全てが、自給自足な生活って、確かに素敵だ。
だけど実際には、なかなか実現困難。
だからお互いに、足りないものを補って、助け合いながら生きて行く。
というのが、人間の本分だと思う。
今回は、ボヌール村とエモシオンの、共存共栄というテーマもある。
相手の得意分野を尊重、敬意を持って、日々感謝して生きれば世の中は上手く行くんだ。
『衣』に関しては、更に少し議論し……完了。
まあクラリスの希望条件に合えば、採用を考えるって事で。
そんなこんなで、次の話に俺達は進む。
「さて、二番目は『食』です。個人的な意見ですが、私は一番大事だと思います」
リゼットの言葉を聞いて、嫁ズ全員が頷いてる。
俺は極限状態までの経験はないが、リゼットを含めたボヌール村出身の者は貧しい時代のボヌール村を知っている。
飢饉の時は数日食べるものがなし……なんて酷い状態もあったらしい。
前世ならば、国など行政が手を差し伸べるだろうが、当時のオベール騎士爵家は何もせず『放置』だった。
領民なんて、死のうがどうなろうが、関係ない。
自分と身内さえ、生きていれば良い。
以前のオベール様は、悪辣な王国貴族の典型だったのだ。
現在は関係が良好だから、万が一同じ状態に陥ったら、すぐ助けが来るだろうが……
そして……
今や、ボヌール村の農業は輪栽式。
簡単に言えば、休耕地を廃止して根菜や牧草を栽培し、人間と家畜の食料事情と地質を改善する方法。
結果、従来のニ圃、三圃式農業に比べ、生産量も大幅に増大。
大喜びしたオベール様の援助で、家畜も増えた。
魔物に殺されて以来、居なかったウシを安価で譲って貰い、更に他の家畜も導入。
ウシ以外には、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、ウズラなど多彩なラインナップとなった。
害を為すネズミの心配も、妖精猫ジャンと彼の『軍団』のお陰で皆無。
農作物どころか、怖ろしい疫病の発生も防いでいる。
狩りもレベッカと年配の男性数人でやっていたのが、俺とクーガーが加わり、獲物も増えた。
俺の提案した氷室の効用で、鮮度も段違い。
もう、古い鮮度の落ちた肉を、濃すぎるソースで誤魔化すなんてしないのだ。
こうなると、今迄食べた事のない、全く違う料理法で食べたくなる。
そんな需要が生まれて来ると思う。
ああ、そうだ。
以前、貰ったアーロンビア王国の香辛料はとても美味かった。
最近エモシオンには国外の調味料や食材なども入って来る。
そういったものを、効率良く仕入れて、大空屋で売れば、村民が喜ぶ。
我が家だけではなく、村全体の食事をもっと良くしたいと思う。
俺が「つらつら」考える中、リゼットは話をまとめて行く。
「他の作物との兼ね合いはありますが、新たな作物及び、村特産の新商品の開発、更に腕の良い調理人が居れば、採用したいですね。あ、念の為、例の前提ありきです」
リゼットの話に対し、いくつか提案が出た。
俺も、いろいろとアイディアを出す。
限られた村の食材だけでも、保存方法、調理方法で食のバリエーションは段違いに増えるから。
例えばと……
俺は身体に良いと思って、『酢』を使った保存食の更なる充実を提案。
または飲料、つまりワインやエールの醸造スキルを持つ人、または、お菓子造りのスキルを持つ人が欲しいって話をした。
嫁ズは全員が文句なく賛成。
酢は健康と美容に良いって話で凄く盛り上がったし、酒や甘いものは推して知るべしだ。
結局、先程の『衣』より、更に活発な意見交換が為された。
やっぱり『食』は最重要なのだ。
そうこうしている内に、
「はいっ!」
レベッカが大きな返事をして、またも意味ありげに、俺を「じっ」と見つめたのであった。