第11話「レベッカと王都で⑤」
文字数 2,389文字
俺とレベッカは王都を歩いている。
レベッカにとっては、昨日から今朝にかけて、とっても実り多き時間であった。
そう、うれしはずかし……
初めての王都入場デビューから始まって、露店での開放的な昼食を楽しみ……
買い物を兼ねて、巨大な市場を見学。
ボヌール村の大空屋とは比べ物にならないくらい、多忙な宿屋――白鳥亭の夕食を手伝い……
その夕食、すなわちアールヴ特製のハーブ料理に驚き、舌鼓を打つ。
そして夜は……俺と愛の『ちょめちょめ』に燃え……
起きたら、またも素敵なハーブ料理の朝食を満喫。
俺との『ちょめちょめ』以外は、いずれも未知の体験であっただろう。
今日も天気は、雲ひとつない快晴。
天気同様、晴れやかな笑顔を見せるレベッカの傍らで、心地良い疲れに包まれた俺はホッとしている。
何故かって?
うん!
いろいろ良い予感がするからだ。
ひとつはレベッカに、待望の第二子が授かる予感。
もうひとつは昨日レベッカが見せた前向きな姿勢で、今回の旅の目的が上手く行く予感だ。
そんな事を考えていたら、レベッカが俺を呼ぶ。
「ねぇ、ダーリン聞いてっ」
「ん?」
「私さ、昨日はい~っぱい良い事あったんだけど……特に
「カルチャーショックって? ああ、もしかしてアマンダさんの作る料理か?」
「ええ、そうなの。ウチの村でもハーブ作ってるし、ハーブ使った料理だって作ってる。でもアマンダさんが作った昨夜のハーブ料理は全然味が違う……凄く美味しい……味付けが独特で」
レベッカの言う事は理解出来る。
確かに、アマンダさんの作る料理は感動モノ。
何度食べても、その度に感動する。
間違いない。
「だよなぁ……多分、アールヴ秘伝の味なんだろう」
俺が同意したら、やはりというか……レベッカが拳を握って突き上げる。
おお、彼女、何か決意したみたいだ。
「ダーリン、お願い! 私、あの料理、覚えたい」
おお、やっぱりか……
まあ、誰でも、そう思うだろう。
あのハーブ料理を、いつでも食べたいって。
でも、これ「歴史は繰り返される」って奴だ。
俺は……ちょっとだけ、口籠りながら、
「うん……一応、我が家にレシピはある。それを基に作る事は出来る」
「え? ウチにレシピがあるの? ならどうして? 私、今迄食べた事ないよ」
レベッカの疑問は尤もだ。
でも真相は……
「……いや、俺達、本当はもう食べているんだ。だけど、家では敢えて言うな、頼むから、察してくれ」
「え? 私達が食べてる? あ! もしかして……」
ここまで話が進めば分かる。
レベッカは、自分の前に泊まった人物の顔を思い浮かべたに違いない。
まあ念の為、伝えておこう。
「うん、その、もしかしてだ。以前泊まった時、グレースもお前と同じ事を考え、アマンダさんからレシピを聞き出して持ち帰った」
「え? でも……じゃあ」
レベッカの頭の中を、様々な考え――可能性が巡っているのが分かる。
一番残念な顛末も含め……
そうさ、レベッカ、その一番残念な結果なんだよ。
「うん、家の中ではあまり大きな声で言わない方が良い。残念ながらグレースは、あの料理を再現出来なかったんだ」
グレースは、出来上がった料理をいきなり出して家族を驚かせたかった……
しかし計画は失敗……密かに闇へと葬られたのだ。
察してくれたレベッカは、
「……う、分かった。後でこっそりグレース姉と相談する……ふたりで協力して、必ずリベンジする」
「ああ、それが良い。
「だよねぇ……」
納得して、決意を新たにするレベッカ。
そして、
「でさ、話は変わるけど……私達、これからどこへ行くの?」
話題を「がらり」と切り替えたレベッカは、期待で目をキラキラさせていた。
「うん! お楽しみの、サプライズ企画だ」
「サプライズ企画? 吃驚するの? 私」
「ああ、多分な。まあ、行けば分かる……とは言っても、俺も行くのが初めての場所なんだ」
うん、実は……
これから行くところは、俺も未体験。
以前泊まった時に、アマンダさんから教えて貰った場所だから。
教えて貰っただけで、前回の旅の時は行かなかった。
リゼットからの提案を貰い、改めて思い出した場所である。
「へぇ~、ダーリンも初めて? じゃあ、私、期待しちゃおうかなぁ」
「ああ、絶対面白いと思う」
そんな事を話しながら、俺とレベッカが到着した場所、それは王都の商業ギルドである。
商業ギルドは5階建て……
高い壁に囲まれており、正門には門番が立っていた。
王宮や創世神教会の規模には遥かに及ばないが、王都では冒険者ギルドと並んで、大きな建造物ということだ。
普段、小規模なボヌール村で暮らしている俺には、この商業ギルドがとても大きく感じる。
レベッカも同様らしい。
「へぇ、凄く大きな建物だね。ダーリン、ここ?」
「ああ、ここだ」
「建物の雰囲気は、お役所っぽいけど……何があるの?」
「まあ、黙って俺について来い」
俺はレベッカの手を掴み、「にこっ」と笑う。
種明かしは、中へ入ってからの、お楽しみって事だ。
「もう! 黙って俺について来いって……そういう言い方は、大好きだけど……分かった! ダーリンについて行くよっ」
手を握られたレベッカも、俺を心底信じているから……
更に期待を膨らませたらしく、満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに頷いたのであった。