第5話「家族会議②」
文字数 2,078文字
ユウキ家の、『家族会議』が始まった。
まずは全員で、現時点におけるアンテナショップの情報を再確認する。
念の為、これ迄の経過を簡単に総括した上、今回の会議の話をしたのだ。
ボヌール村、そしてエモシオンン双方の、『未来の移住者』という前提で、「どのような人を求めているのか、具体的な人材募集を!」という宿題が出た事を。
エモシオンに関しては、とりあえず置いといて……
我が嫁ズにはまずボヌール村優先で考えて貰う。
俺の予想通り、嫁ズは全員喰い付きが良い。
昼間のイザベルさんと同じように。
村の発展と、未知のスキルを学べるチャンスだから。
司会進行役は、いつも通り、新村長代理のリゼットである。
「イザベル様の仰った事を参考に、このボヌール村の状況も精査しましょう」
確かにその通りだ。
アンテナショップの優秀な人材は絶対に必要。
更にその人が、現在、ボヌール村に欠けているもの。
生活に直結するスキルを持って居れば、なお良い。
そんな人が、村を好きになる。
「村へ住め!」なんて、無理は絶対に言えないけど……
あわよくば、将来村へ移住してくれれば、とても素敵だって思う。
その人が、もしも村に移住しなくても……
仲良くなって、俺達家族や村民が、今迄自分になかったスキルを身につける。
そういう絵を描いている。
まじめなリゼットは、日々未来への危機感を持ち、悩んでいるようだ。
「今は……旦那様やクッカ姉、クーガー姉が居るから、不自由なく暮らせているけど……子供達の代になる将来の事も考えないと」
リゼットの悩みに対し、すぐ反応したのは、クッカだ。
「いいえ! 私やクーガーよりも旦那様のお陰ですよぉ。もし何か困った事があったら、秘密裏に、『ふるさと勇者』の旦那様が処理するでしょ? 素敵な事に旦那様はレベル99で最強な上に、オールスキルで万能。だから、何でも出来ちゃう」
クッカの言葉に、嫁ズ全員が頷く。
そして「にこにこ」して、俺を一斉に見る。
ああ、「頼りにしてますよぉ」って、熱い眼差し攻撃だ。
こういう攻撃は、本当に嬉しいけれど。
更に、クッカの話は続いて行く。
「でもリゼットの言う事も分かる……私達は全員人間。いつかは寿命が尽きて、この世からは居なくなる、仕方がないけど」
そうだ……
かつては天界の女神様だったクッカも、今は人間。
コメントには真実味がある。
とても心配そうな顔をしたのは、クラリスだ。
「そうなったら、現状のままでは、ボヌール村って、……多分元に戻ってしまうわ」
クラリスは、ボヌール村が変わる前の、辛かった時代を知っている。
怖ろしい魔物の襲撃により、両親も殺されてしまった。
だから、余計に心配なのだろう。
今の、この幸せを絶対に手放したくない!
そんな波動が、強く強く放たれている。
しかし、笑顔のまま、手を左右に振ったのはクーガーである。
「あはは、クラリス、大丈夫。生え抜きの貴女に対して、途中参加の私がこう言うのは凄く生意気だけど、元の通りにはならない」
良い意味での『反対意見』に、クラリスは驚く。
「え? クーガー姉、大丈夫なの?」
「うん! 理由は簡単、私達の残した遺産が少しは活きるから……」
「遺産?」
「ええ、クラリス、聞いて。人間関係、技術、そして物……いろいろあるじゃない。貴女の遺産は素敵な服と美しい絵だよ」
「私の遺産が服と絵……ああ、そうか、そうですよね!」
クーガーに言われ、クラリスは改めて実感したみたい。
一緒に『チーム』を組んだ、サキとタバサがしっかり受け継いでくれるって。
それに、このチームの人数は、まだまだ希望者が出て増えるだろうし。
頷いたクーガーは、更に言う。
「分かったみたいね。でもまあ、未来の事なんて、何が起こるか、誰にも分からないから、やれる事だけはやっておこうよ」
確かにクーガーの言う通りだ。
俺達が居なくなっても、多分、元には戻らない。
つまり俺が来る前の、ボヌール村の状態にはならない。
何故ならば、村の生活は著しく改善されているし、安全面も向上している。
領主オベール様との関係も、単に良好なんてものじゃない間柄だから。
でも、不確定要素一杯なのが、未来って奴。
全身全霊でやれる事をやるってのが、後悔が少なくて済む方法だと思う。
ここで一旦まとめてくれるのは、やっぱりリゼット。
「ええ、じゃあ、極めて単純に考えましょう。現在、村にないスキルを精査する。そのスキルを持つ人材が、アンテナショップに採用出来れば望ましい。いずれは移住して貰って教師役として村に迎えたい。あくまでまずは人柄重視……それで良いわね」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
俺や、黙って聞いていたレベッカ、ソフィも同意。
家族会議は、第二段階へ入ったのである。