第45話「道連れ①」
文字数 2,194文字
初恋の相手であるクミカと、永遠の別れを経験した、俺の辛さを共有してくれたのだ。
かつて俺の話を聞き、泣いてくれた妖精王オベロン様、アンリのように……
そっと寄り添って、励ましてくれるって……とても嬉しい。
素直な俺の気持ち。
いずれ……
フィリップには真実を伝える事になるだろう。
少年の彼が成長し、真実をしっかり受け止められる時に。
実は、違う形で俺の初恋が実った事を。
以前アンリに告げたようにして……
転生した俺の本当の出自と共に、ちゃんと伝えようと思う……
でも今回だって、話はこれで終わらない。
俺はフィリップへ、ぜひ伝えたい事がある。
彼が生まれて初めてする旅の、『メインテーマ』とも言える事だ。
「フィリップ」
「はい、兄上」
「お前は今、生まれて初めての旅をしている。同じ領内のボヌール村という、小さな旅だけど」
「はい! 楽しいです!」
同じ領内の本当に小さな旅……
でも幼いフィリップにとっては大旅行だ。
見るもの、聞くもの、そして実際に体験する事、全てが未知なのだから。
ここから少し話が深くなる。
理解して貰うのは難しいかもしれないけど……
俺も一生懸命説明しよう。
「だけどお前は、生まれた時から既に旅をしているんだ。お前だけじゃなく俺もだし、誰もがね」
「生まれた時から旅ですか? 僕も? 兄上も?」
フィリップは不思議そうに首を傾げた。
無理もない。
まもなく、7歳になるくらいの子供には難しいかもしれない。
「そうだ、生まれて生きる……つまり人生って旅そのものさ。出会いと別れの繰り返しなんだ」
「出会いと別れ……」
うん、俺も実感する。
人生は出会いと別れの繰り返し、その積み重ね。
いろいろな考え方があるし、否定はしない。
あくまで俺の私見だが、生まれた時からひとりきりで生きて来た人なんて、この世には居ないと思う。
ありきたりな言葉だが、人間はひとりでは生きられない。
一見、ひとりで生きている人も……
自分の全く面識がない、見ず知らずの人達により、何らかの形で支えて貰っているからだ。
「うん、俺やお前が生まれた時……初めて出会ったのは親だな。パパとママだ」
「ああ、そうですね」
フィリップは、ようやく頷いてくれた。
生まれてから、初めて出会った人が『両親』というのは、理解出来たようだ。
「分かるか? 更にお前の場合で言えば、城館の人々、エモシオンの人々、そして俺と俺の嫁に出会い、アンリと出会い、俺の子供達と出会い、そしてボヌール村の人々に出会った」
俺がそう言ったら、フィリップは少し遠い目をした。
記憶を、一生懸命手繰ったらしい。
そして、納得したらしく大きく頷いた。
「はい! 兄上が仰った以外にも、いっぱい出会ってます。じいや、ばあや、カルメンとか」
「はは! だな! 皆、お前と人生の旅を共にしてくれた、そしてこれからもしてくれる人達だ」
「人生の旅……そうですね」
「うん! でも全員がずっと、お前と一緒に旅をして行くわけじゃない。パパやママみたいにずっと一緒の人も居れば、もう会わない人も居るだろう?」
「わ、分かります! あ、兄上はどうなの?」
先ほど同様に、「ぐいっ!」と身を乗り出し、俺へ迫るフィリップ。
俺がこれからも「一緒に旅をする!」と、はっきり言って欲しいに違いない。
真剣な表情のフィリップがつい可愛くなり、微笑んだ俺は言う。
「俺か? ……残念ながら、お前が生まれた時には居なかったが……」
「…………」
「今は一緒だ。俺とフィリップは、これからずっと、人生の旅を共にして行く道連れなのさ」
「あ、ありがとうございますっ! で、でも、そういうの道連れって言うんですか?」
「ああ、道連れだ」
「み、道連れ? 初めて聞きました」
確かに、道連れって、聞き慣れない言葉かもしれない。
少し説明してやろう。
「ああ、旅は道連れ世は情けって言葉があるんだ」
って、俺が言ったが、
「ええっと……む、難しいです」
と悩むフィリップ。
うん!
分かる。
確かに難しいよ。
「ははは、ごめんな。
「い、意味は? 教えて下さい」
俺が軽く流しても、フィリップは食い下がった。
おお、向学心がもの凄い。
偉いぞ、フィリップ。
じゃあもっと、分かり易く説明しよう。
「OK! この村へ来る時にどうだった? もしひとり旅で来たとしたら?」
俺がそう言ったら、フィリップは真っ先にゴブリンの襲撃を思い出したらしい。
「う、ううう……死んでいたかも」
フィリップは一生忘れないだろう……
初めて経験したリアルな戦いを。
この世のものと思えない怖ろしい魔物の咆哮。
俺も含めた人間の雄叫び。
倒される魔物の断末魔の声……
もし自分ひとりで旅をしていたら……
今頃生きて、ここには居ない……
想像して、己の死を確信したらしいフィリップは……
青ざめた顔を強張らせ、震えあがってしまったのである。