第22話「陰謀」

文字数 2,701文字

 翌朝、俺とジュリエットは早く起きた。
 ちなみにヴァルヴァラ様から貰った金があるので、昨日のホテルに連泊だ。
 さっさと支度をすると、ホテルの豪華な朝食を食いながら、今日の最終打合せをした。

 昨夜はあの後に英雄亭で飲みながら、じっくり打合せをしたのは言うまでもない。
 それだけ今回の事情は複雑で入りくんでいるから。
 打合せの内容は少し重かったけど、ジュリエットと飲む酒は楽しかった。
 調子に乗って、少々飲み過ぎたかもしれない。

 閑話休題。

 昨日ギルドマスターから引き出した情報によれば、ラウル王子はまだ15歳の少年だそうだ。
 15歳といえば、俺が転生してこの異世界へ来た時に管理神様が設定した年齢。
 少しだけ……懐かしい。

 午前9時……

 俺とジュリエットは、時間ぴったりに王宮へ赴いた。
 何と話はバッチリ通っていて、すぐに門番に中へ通され、数人の騎士が付き添いラウル王子へと引き合わされる。

 案内されたのは、ラウル王子の私室。

 跪いてチラ見すれば、15歳のラウル王子は、身長170㎝くらい。
 素直で真面目そうな金髪碧眼の少年だった。

 身体はある程度鍛えているかもしれないが、全体的にまだ細身で華奢。
 内緒でレベルを見たら、まだ15くらい。
 それなりに戦えるけど……
 どこからどう見ても、竜みたいな強大な魔物を単独で倒せる戦士とは思えない。
 あっさり、返り討ちに会うのが落ちだ。

「私がラウルである。この度はご苦労、世話をかける」

 ラウル王子が名乗られたので、俺達も挨拶。
 主役はジュリエットなので当然彼女が先。

「私はジュリエット、ランクAの冒険者です、今回王子の供を致します」

 相変わらず凛とした声。
 ラウル王子の視線がジュリエットへ向けられる。

 そうしたら何と!
 ラウル王子ったらトマトのように赤くなっている。
 どうやら……ジュリエットの美しさにひとめぼれしてしまったらしい。
 まあ、金髪麗人の綺麗なお姉さんは好きですか? って感じだものね。
 俺だって、嫁ズが居なければ惚れていたかもしれないし。

 ああ、いかん。
 俺も挨拶しなきゃ……

「お、俺は……「成る程! そなたはジュリエットと申すか! 頼むぞ」ケンと……」

 ああ、ラウル王子ったら、身を乗り出してすっごい気合。
 ジュリエットを熱く見つめてる。
 完全にベタ惚れだ。
 俺は完全にオマケ扱い。
 まあ……良いけど。

 ラウル王子に挨拶した後、大広間で10時から彼の父である王様に謁見。
 ここは当然ラウル王子が主役。
 「我が息子よ、誉れ高き勇者として、悪辣な竜を倒せ」と王様から厳かな声で言われてる。
 対する王子は、少年らしくきびきびした声で「父上! 勇者として全力を尽くします」とか言ってる。

 俺達は単なるお供だから、王子の背後で何も言わず跪いていただけ。
 まあ、こんなモノだろう。

 そして俺とジュリエットの視線はさりげなく第一王子のアダンへ注がれていた。
 年齢はラウル王子より3つ上の18歳、栗毛の巻き髪。
 底意地の悪そうな目で弟を見て、ニヤニヤ笑っていた。

 俺は軽く息を吐いて、ラウル王子へと視線を戻したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 1週間分の食糧、そして馬3頭。
 俺達に与えられたのはそれだけ……武器防具も自前。
 メンバーは王子と俺達の計3人のみ。
 王族だというのに騎士の護衛さえつかない。

 やっぱりこれは……
 ラウル王子を抹殺する為の陰謀だ。
 領地を荒らす竜を、巧く倒せれば儲けもの。
 ラウル王子が死ねば、真の目的を達成する。

 冒険者ギルドのマスターの心の中にあったのは、この依頼が第一王子アダンが仕組んだ陰謀という事だった。

 実は弟ラウル王子は、兄アダンとは腹違い。
 ラウルは王様が王宮の侍女に手を付けて産ませた子なのだ。
 母の侍女はラウルを生むと同時に亡くなったという。

 時が流れ、ふたりの王子は成長した……
 正室である王妃が生んだアダンに比べて、ラウル王子は戦士としての素質が遥かに高い上に性格も温厚であった。
 その為、王宮どころか国中の人望まで集めて行く。
 最近は巷で、『未来の勇者』なんて称えられているようだ。

 兄のアダンは、それが面白くない。
 王妃の子で、父から直々に指名された皇太子だから王位を継げるのは確実。
 なのに、自分より『良く出来た弟』を疎ましく思ったのだ。
 片やラウルは自分の出自を理解していて、大それた野心はない。
 純粋な気持ちで、兄の為に尽くそうと思っている。

 しかし兄の妄想はどんどん膨らんで行き、終いには父の王がラウルに継承権を与えるのではないかと思い込んでしまった。
 アダンは腹黒い王宮魔法使いを巻き込み、偽の予言を行わせ、ラウルを勇者として竜退治に行かせるよう父に働きかけた。
 それも騎士なしの単独でと。

 良く言えばお人好しの、悪く言えば暗愚な父は長男の言う事を真に受けてしまう。

 しかしアダンにも良心の欠片(かけら)は残っていたらしい。
 ラウルを単独で行かせるのを、さすがに思いとどまったのだ。
 
 かと言って大事な家臣である、自分の騎士が犠牲になるのはNG。
 なので冒険者ならあとくされなく、しかも使い捨てになると考えた。
 その為、冒険者ギルドのマスターを未来の地位と多額の金で買収したのだ。
 
 買収されたマスターは『カモの冒険者』が来るのを待っていた。
 しかし冒険者だって馬鹿じゃない。
 誰もが、死ぬと分かっている依頼を受けなかった。

 そんな時、何も知らない俺とジュリエットが来たという次第。
 チャンスとばかりに依頼を振ったのだ。
 ランクSに昇格という『餌』をちらつかせて……

 ここまで真実を知ってしまった俺とジュリエットは、いろいろ相談した。
 哀れな運命を背負ったラウルへどう告げたら良いか、またはその後どうするか?

 結論は……ラウルの意思を尊重しようというものだった。 

 王都を出て、馬に揺られて1時間。
 もう結構来たから、そろそろひと休み。
 本当は無理にひと休みしなくても良いんだけれど……

 ここはラウル王子と腹を割って話す必要があるから。
 当然、休憩を持ちかけるのはジュリエットの役回り。

「王子、少し休まないか?」

「分かった!」

 案の定。
 ラウル王子は、ジュリエットの誘いに大きく頷いてOKを出したのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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