第25話「奇跡の再会、奇跡の邂逅④」

文字数 2,535文字

 ここでクラリスは、大きく息を吐いた。
 改めて、全員を見渡しながら、話を続ける。

「そして運命は……離れ離れになったふたりに、なおも過酷な試練を与えました」

「…………」

「……残念ながら……クミカさんは、旦那様に会う直前、無念の死を遂げたのです」

「…………」

 部屋は相変わらず、静まり返っていた。
 
 自身の描いた絵の説明をする、クラリスの目が潤んでいる。
 突如襲ったクミカの悲劇を、深い悲しみを……
 まるで、共有するかのように……

「お気の毒に……小さな子供のころから長年……クミカさんが想い望んだ願いは……遂に叶わなかった……」

「…………」

 と、その時。
 いきなり、クラリスの声のトーンが変わった。
 辛い悲しみを、何とか押さえるような響きから……
 しっかりと、強い意思を告げるように。

「でも! ……この世界で旦那様とクミカさんは、奇跡の再会をしました。前の世界で交わされた約束は、とうとう果たされたのです」

「…………」

「もしも……幼いふたりの、運命的な出会いと、子供らしく微笑ましい約束、そして最後に……この世界における、『奇跡の再会』がなければ……」

「…………」

「私達はこうして、家族には……なれなかった……」

「…………」

「……皆さん、ご自身のたどって来た人生を……良く……思い起こして下さい」

「…………」

「……ここに居る中で、何人かは……クミカさんのように……無残にも……人生が途中で断ち切られ、既に亡くなっていたかもしれない……」

「…………」

「運良く、生きながらえた人も、……全く違う人生を……歩んでいるでしょう……別の人生が、今よりも幸福なのか、不幸なのか、それは、分かりませんが……」

「…………」

「でも! 私達は巡り合い、こうして無事に、ずっと! ……とても幸せに暮らしています。それは……旦那様とクミカさんの出会い、……そして……奇跡の再会が……あったから! あったからこそなのです!」

「…………」

「だから、この絵のタイトルは……『奇跡の再会』なのです」

「…………」

「私達は、何があっても、絶対に忘れてはいけません」

「…………」

「この絵に……『奇跡の再会』に描かれているのは、私達家族の……ユウキ家の……まさに! ……まさに、原点となる光景なのですから……」

「…………」

 絵の説明をする、クラリスの声だけが響き、誰もひと言も話さない部屋で……
 俺は……思う。

 ……ありがとう、本当にありがとう、クラリス。
 この場に居る全員が、お前に感謝しているだろう。

 俺達家族は……
 『奇跡の邂逅』を見て。
 更にまた、『奇跡の再会』を見て……
 より絆が深くなった。
 
 心と心が更に、固く固く、結ばれたんだ。
 そう、確信出来るから。

 笑顔のクラリスへ、感謝の気持ちを籠め、深くお辞儀をした俺は……
 再び『奇跡の再会』を見た。
 
 絵の中の俺とクミカは……相変わらず、幸せそうに微笑んでいる。
 最初に震えた心が……今度は温かくなって来る……
 大切な家族を守ろうという、強い気持ちも満ちて来る。

 そして、俺はつい……
 クッカとクーガーを見た。
 どのような思いで、『奇跡の再会』を見ているのかと。
 
 少し驚いた。

 何と、ふたりは……
 手を固く繋いで、絵に、じっと見入っている。
 まるで絵の中の、俺とクミカのように、しっかり手を繋いでいるのだ……
 俺が、初めて見る光景だった……
 
 そしてサキも、クーガーと手を繋いでいた。
 クーガーを真ん中にして、左側にクッカ、右側にサキという並びだ。

 3人は……泣いていた……
 
 俺への、純粋な愛だけが残った……
 クミカの記憶を持たない、クッカが涙ぐんでいる。
 でも……
 真剣な眼差しで、唇を「きゅっ」と結んで、絵を正面から、しっかりと見据えている。
 
 一方、はっきりしたクミカの記憶を……
 前世で報われなかった無念と、俺への深い愛の記憶を持つ、クーガーの目からは……大粒の涙が溢れている。
 感極まって、顔をくしゃくしゃにして泣いている。
 気が強い、いつも凛としたクーガーは、滅多に泣かない筈なのに……
 
 多分……
 クッカとクーガーふたりとも、俺と全く同じ想いなのだろう……

 更に……
 クッカとクーガーに加え、サキまでが……
 『奇跡の再会』を見て……
 クーガーと同じく、思いっきり泣きじゃくっていた。

 ……転生者サキが、夢魔リリアンの生まれ変わり、実は3人目のクミカである……
 という衝撃の事実を、家族の中では俺しか知らない。

 魔王クーガーの、魂の欠片(かけら)から生まれた……
 悪に染まった魔王の、唯一の良心だった夢魔リリアンは……
 夢として創られた、今は存在しない、俺とクミカの幻の故郷で……
 この絵と同じ光景……
 桜の花びらがいっぱいに舞う中で、俺に抱かれながら砕け散った。
 
 その後……
 神々に認められたリリアンは転生し、俺の元居た世界でサキという完全な別人格となった。
 そんなサキが、俺と……奇跡的に巡り合う事が出来た……
 
 生まれ変わったサキには、リリアンの記憶も、クミカの記憶もない。
 しかし……
 たとえ記憶がなくとも……
 永遠の別離をした深い悲しみと、奇跡の再会を果たした大きな喜びという、未知の感情が生まれたのかもしれない。

 ああ……
 いつかサキにも、『真実』を話す事が出来たら良いな……

 胸が、一杯になった俺は……
 泣きながら、『奇跡の再会』を見つめる、『3人のクミカ』を……
 そっと……見守っていたのであった。

※『奇跡の再会、奇跡の邂逅』編は、これで終了です。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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