第4話「変身自慢といつもの喧嘩」

文字数 2,541文字

 俺の変身魔法の発動は、うまく行った。
 全員が満足行く風貌になれたからだ。 

 まず俺が30歳くらいの渋いイケメンな風貌の魔法使いに、次にケルベロスは狼のような猛犬に、ジャンはワイルドな山猫に、そして最後のベイヤールは翼のないペガサスのように派手な白馬に……

 何故目立つようにしたのか?
 中途半端な雰囲気よりは派手にやった方が印象に残り易いのだ。
 そうなると本来のケン・ユウキには絶対に結びつかない。
 いわゆる逆手である。

 俺が着用した衣装は渋いカーキ色の麻製法衣(ローブ)、携帯する武器も普段は使っていない銀製ロングソードにした。

 ここから従士達と念話で話す。
 まずは変身後の姿を褒める。
 普段のコミュニケーションは重要。
 「どうせ言わなくても分かるよね?」みたいなツーカー考えは厳禁だ。

『ケルベロス、とても恰好良いじゃないか、野性味溢れているぞ』

『ケンサマ、アリガトウゴザイマス!』

 渋い、灰色狼の風貌になったケルベロスがにやりと笑う。
 精悍な魔狼という感じが格好良い。
 
 このケルベロスに矢鱈とライバル心を燃やすのが妖精猫(ケット・シー)のジャンである。

『なあ、ケン様! 俺は、俺っちはどうっ?』

『ああ、ジャン。お前もワイルドで優雅な雰囲気が出ているぞ』

 ジャンの風貌は、アメリカ産ボブキャットにしてやった。
 こっちも、お世辞抜きで恰好良いと思う。
 
 ちなみに、妖精猫(ケット・シー)のジャンには変身能力がある。
 なのに自身で変身しないのは、俺に魔法を掛けて貰い、同条件でケルベロスと張り合う為。
 男の見栄と意地って奴だ。

 こうなるとジャンはケルベロスを挑発する。

『あはははは! ケルベロスめ、俺は野性味だけじゃなくて、すんばらしい優雅さもあるってよ! 勝ったな!』

 しかし、ケルベロスも負けてはいない。

『アイカワラズ、オロカモノダ。オマエガ、スゴイノデハナク、ケンサマノ、マホウガ、スゴイノダ』

『ななな、何だとぉ!』

 ケルベロスとジャンは、数年前にゴブとの戦いの際にお互いを分かり合っていた。
 加えて、クーガー侵攻の際にも共に命を懸けて戦った。
 
 だから、それ以降の喧嘩は、はっきり言って馴れ合いである。
 俺にはこんな友人が居ないので少し羨ましい。
 
 嫁ズで近いのはクッカとクーガーかも。
 クッカは愛する嫁でありながら、苦楽を共にした戦友という言葉がピッタリ。
 クーガーはこの異世界での付き合いは短いが、昔からの馴染みの親友って感じ。
 ふたりとも、たまにツッコミとボケのやりとりもするから。

 『犬と猫の喧嘩』はいつもなら止める所。
 だが、今回の旅は時間もたっぷりあるし敢えて放置しよう。
 思いっ切り、ツッコミ合ってくれ。

 そして、ベイヤールは違う褒め方で行く。

『悪いな、ベイヤール。ペガサスの姿で何とか我慢してくれないかな』

 ぶひひひひ~ん!

 ベイヤールは「仕方がないな」とばかりに(いなな)く。
 
 悪魔の騎乗馬であったベイヤールは特に誇り高い。
 今の姿のベースであるペガサスよりも自分が数倍、いや数万倍も上だと思っているので褒めるのは逆効果なのである。
 普段の地味な鹿毛馬姿もそうだが、本来の姿に劣るが我慢してくれというのが礼儀だ。
 暫く、口喧嘩を楽しんでいた? ケルベロスとジャンであったが、ひとまず収まったようなので、俺は声を掛ける。

『よっし、じゃあ街道沿いの雑木林へ転移するぞ』

 俺達が村から来たと思われては不味いので、ここから転移魔法で本街道沿いの適当な雑木林へ移るのだ。
 休憩していたどこかの旅人を装って本街道に出て北上するのである。

『転移!』

 周囲の気配を再度確認し、俺達は転移したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺と従士達が馬車ごと転移したのは村道と本街道が交差する場所から北へ数キロ行った先。
 街道からちょっと奥へ入った、目立たない雑木林に着いた俺達はちょっと休憩。
 
 ケルベロスとジャンは馬車から飛び降りて、地面に寝そべった。
 俺は馬車からベイヤールを外して、(くつろ)がせる。

 お湯を沸かした俺は紅茶を飲み、従士達には適温の水を飲ませた。
 ジャンが紅茶を飲みたそうにしたが、猫や犬にはお茶に含まれるカフェインが有害らしいから絶対に駄目である。
 熱い飲みものも、猫舌でNGだろうし。

 紅茶が飲めなくて残念そうなジャン。
 代わりに「早い昼飯にしろ」と(うるさ)い。

『ケン様、俺、腹が減ったよ~ぉ!』

 ここで叱るのもケルベロス。
 お約束だ。

『コノダネコ。スコシハ、ガマンシロ』

『あ~っ、また駄猫って言ったな!』

 ジャンが悔しそうに言い返したその時。

 俺の索敵に、人間の気配が引っかかる。
 10名の人に8頭の馬。
 多分、商隊か、何かだろう。
 
 何と!
 魔物らしい大量の気配もする。
 距離はここから1kmほどだ。

「助けてくれぇ!」
「うわあっ!」

 遥か彼方の男達の声も聞こえて来た。
 この異世界に来た時もそうだった。
 懐かしく思い出す。
 俺の人間離れした聴覚でリゼットの悲鳴を聞いて、ゴブの群れから助けたのだ。
 
 ああ、いかん。
 今まさに襲われている人達が居るんだった。

 助けを求めているのがむさい男の声だという事もあるのだろう。
 ジャンが顔を顰めて、「ちょっち面倒臭い」みたいな表情になる。
 
 だけど俺はふるさと勇者。
 助けを求められたら、行かなくてはならない。
 というのは建前。
 ここにゴブの群れが居るのなら、まわりまわってボヌール村へ襲って来る可能性がある。
 だから『討伐決定』という判断だ。

 それに商隊はボヌール村へ恩恵をもたらしてくれる人達かもしれない。
 情けは人の為ならず——
 レベル99の力をだいぶ抑えて戦えば宜しい。

 俺は馬車を収納の魔法でしまい、従士達と頷き合う。

「行くぞ、皆!」

 そして、声のする方向へダッシュで走り出したのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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