第1話「謎の幽霊美少女」

文字数 2,764文字

 ボヌール村から向かって、西に位置する森がある……
 この森の中には、リゼットが見つけた、我が村の貴重な財産である『ハーブ園』がある。
 いろいろな意味で、思い出深い場所でもあり、先日クラリスと行って来たばかりだ。

 でも西の森は、村周辺の、他の地域に比べると危険度が高い。
 最も規模の大きい東の森ほどではないが、かなり広いし、木々がうっそうと茂っていて、視界も良くない。
 
 加えて、目印となる極端に高い木や、周囲や森の中に特徴的な山や丘もないから、とても迷いやすい。
 地形も平たんではなく、相当アップダウンがある。
 
 更に、様々な魔物や肉食獣が跋扈している。
 その中で、最も多いのがゴブリンである。
 単体ではそんなに怖くはないが、奴らは繫殖力が強く、夥しい数の群れで行動する。
 常人が運悪く出くわしたら、確実に喰い殺される。

 最初にこの異世界に来た時、リゼットを助ける為、戦って……
 つまり俺の初陣以来だから、奴らとは、ずっと長い『付き合い』になる。
 一時期、俺が結婚した直後、ゴブリンを含め、魔物は著しく減った。

 だが、数年前からまた、多く出没するようになっている。
 以前聞いた話だと、この異世界で魔物は繁殖するだけではなく、違う次元からも来ると言う……
 まるでいたちごっこである。

 この西の森には、もっと怖い要素もある。
 外部の魔の者を、強烈に引き寄せる力もあるらしいのだ。

 かつて魔王だったクーガーとその配下達、グリフォンのフィオナ、そしてテレーズこと妖精女王ティターニア様までがこの森に現れた。

 他にも、敢えて言ってはいないが……
 挙げれば、きりがないくらい事例がある。

 西の森には絶対に何かある。
 もしかしたら、不可思議な異次元と繋がっているかもしれない。
 これまで数多の異界や別の世界へ行った俺にはそんな確信が持てる。
 良く聞く『神隠しスポット』と同じかも。

 またいずれ、結構な事件が起こるだろうなんて……
 思っていたら、案の定、起こった……

 俺が従士達と、西の森をパトロールしていた時……
 いつものように……これってテレーズと会った時の『くだり』と一緒だけど……
 まあ、それは置いといて。
 
 以前魔王軍の最前線基地が造られた……
 つまりクーガーの配下で、不死者(アンデッド)の魔法使いバルカンが巣食っていた崖に、また「ぽっかり」と穴が開いていたのだ。
 結構大きい穴で、馬のベイヤールさえ、楽々入れる。

 その穴の奥からは、黒い瘴気が湧き上がっていた……
 思わず俺が拳を握りしめ、緊張し……

『おいおい、何かやばい気配がするぞ』

 と言えば、妖精猫(ケット・シー)のジャンは華麗にスルー。

『いえいえ、ケン様、俺はパス。活躍シーンは、主へ一切お任せします』

 心にもない事いいやがって!
 女子が居ないと、すぐこれだ。
 
 相変わらずな、ジャンのノリ。
 しかし、ここはお約束で、ケルベロスの厳しい教育的指導が入った。

『ダネコ、アイカワラズ、サイテイダナ』

『あ~っ、お前、ケルベロス! 俺の事、また駄猫って言いやがって! それも最低だとぉ!』

『アア、ソノトオリダ』

『駄猫と、もう言わないって、俺に何度約束した? お前の言う、男の約束とは、そんなに軽いものなのかよ!』

 男の約束……それは確かに大事。
 しかしごつい見かけによらず、とても口達者なケルベロスに……
 ジャンが議論(ディベート)で敵う筈がない。

 いつもの通り、立て板に水。
 ケルベロスのトークがさく裂する。

『オロカモノ! オマエガ、イツマデモ、ナマイキナタイドヲ、マルデアラタメナイカラダ。ジュウシタルモノ、コノヨウナトキハ、ミズカラ、センジンヲ、シガンスベキダ。ナサケナイヤツメ』

『う~っ』

 またまた猫対犬、宿命の喧嘩が勃発?
 と言っても、これはいつものじゃれ合い。
 大した事ではない。

 頃合いを見た俺が、手を挙げて言い合いを制した上で、妖馬ベイヤールも入れて計4名は穴の入口へと近付いた。

 ……やはり、バルカンの時と同じような気配がする。
 つまり中は不死者か、それに近い存在が巣食っている……という事だ。
 絶対、このままにしてはおけない。

 と、思ったら、何と穴の入り口にもいきなり、何かの気配が現れた。
 つまり、俺達のすぐ傍に。

「うわ!」

 さすがに声が出た。
 吃驚した。
 従士達も警戒している。

 しかし、『そいつ』は襲ったりはして来なかった。
 え?
 敵意がない?
 それに相手の姿が見えない。

 これは「もしや!」と思った。
 同じ不死者(アンデッド)でも今回は……
 亡霊(スピリット)とか、幽霊(ゴースト)(たぐい)なんだろうと。

 子供の頃は大の怖がりだった俺。
 幸い、実際に見た事はないが、当時から想像力に満ち溢れていたから、幽霊が怖くて仕方がなかった。

 故郷を離れ、都会に来てから出会った中に、やたらと霊感を主張する先輩も居た。
 大抵は「おい! そこに居るぞ、お前の背後に」とか言うのだ。
 俺が「わ!」とか言うのを凄く面白がっていたっけ……
 あの先輩も……
 今は、どうして居るのだろうか?

 などと、昔の感傷に浸っている場合ではなかった。
 早く、目の前の不死者を何とかしなければ。

 うん!
 不死者には、葬送魔法。
 これがお約束。
 一番効果があるからね。
 
 ちなみに、ゾンビやグール、スケルトンには火の魔法も効く。
 だが、精神体の幽霊には、多分効かない。

 でも、特別な理由がない限り、いきなり戦わないのが俺のモットー。

 だから、まず念話で呼び掛けてみた。
 多分、話は通じないと思うけど。

『おう! そこのアンタ、一体何者だ?』

『…………』

 案の定、反応はない。
 相手に害意があるかどうかは、分からない。
 だけど、少しでも脅威の可能性があるならば、俺は、愛する家族や大事な村民を守らなくてはならない。

 と、決意を固めて、その見えない気配へ対し、葬送魔法を発動しようとした瞬間。

『ちょっと、待って!』

 いきなり俺の魂に声が響いた。
 それも若い女子の声である。

『貴方、その魔力! ……す、凄い魔法使いみたい! お願い! 葬送魔法を撃つのは待って!』

『え?』

『ねぇ、ぜひ、頼みがあるの、今、波長を合わせるわ』

 波長?
 何、それ?

 と俺が考える間もなく。

 すううっと、俺達の前に…… 
 真っ白で独特なデザインの衣裳を纏った、金髪碧眼の美しい少女が現れたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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