第18話「男達の目覚め」

文字数 2,086文字

「う~……………」
「あうううう………」
「くうう……………」

 と、ある洞穴の中で倒れていた10人の男達が目を覚ました。
 周囲は明かりが全く無く、真っ暗闇だ。

「な! な、何も見えないぞ、お~い! 明かりを点けろぉ!」

 闇に響いた大声は冒険者クラン挑戦者(プローウォカートル)リーダーのバルナベである。
 命令された魔法使いがひと言、ふた言詠唱すると空間がほんのりと明るくなった。
 魔法使いの手元に淡い光が立ち昇っている。
 主として迷宮探索用に使う、灯火の魔法を発動したらしい。

 その場に居る面々を見渡したバルナベ。
 大きく頷く。

「うん、全員無事だな」

「何とか……」
「怪我はないみたいですぜ」
「まだ眠い……」
「ここはどこだ?」

 全員が、お互いの無事を確認する。
 幸い、怪我もしていないようだ。

 辺りを再び見回して、言葉を発したのはサブリーダーのティボーであった。

「リーダー、俺達はどうしてここに?」

 (もっと)もな疑問である。
 男達は記憶を呼び覚まそうとした。
 ……確かクランは、王都で情報を得た。
 王都の凄腕と噂される情報屋へ、ばか高い金を払って。
 
 万全の準備をして、はるばる長い旅をして、南に位置するオベール騎士爵領内の森へ来た筈なのだ。
 情報屋から教えられた洞穴を、一生懸命探している途中だった……気がする。

 眉間に皺を寄せたバルナベが、腕組みをして唸る。

「なぁ、ティボー……俺達って……確かこの辺りの森を探索してたよな……」

「ああ、確かそうですよ」

 すかさず答えるティボー。
 信頼するサブリーダーの言葉を聞いた、クランリーダー、バルナベの記憶が徐々に甦る。

「でもここはどこで……どうして? ……そ、そうだ! 俺達は遂に情報通りに洞穴を見つけた、そして中へ入ったんだぜ、きっとそうだ!」

「おお、そうだった」

 男達の記憶が途中で遮断されている。
 何か人為的な不思議な力が働いていた。
 先程まで自分達がある男と交わしていたやりとりを全く覚えていない。
 それどころか擬似の記憶が新たに植えつけられているのだ。

 バルナベが、頭を振りながら言う。

「と、いう事はここはグリフォンの洞穴だ。俺達何かが原因で倒れていたんだろうけど……そういえば用意していた牝馬はどうした? 毒水は?」

「今は……見当たらないですぜ」

「そうか、見当たらないか……ならば仕方がないか」

「うん、今更じたばたしても仕方がない。仰る通りですよ、バルナベさん」 

 仕方がないなど、普段の彼等なら絶対に言わない。
 冒険者が明確な理由もなく目的を放棄するなどありえない。
 
 グリフォンを狩ると言う目的で金と時間をかけてこの辺境の地まで来たのだから。
 それに牝馬と毒薬は強靭なグリフォン狩りをする際には最も大事なツールである。
 無いなら、まともに狩りは出来ない。
 どうやらバルナベ以下クランメンバー全員の判断力も狂わされているようだ。

 何か……
 底知れぬ魔法の力に違いなかった。

「とりあえず奥へ進んでもっと探索しよう。もしグリフォンが居たら倒してお宝を奪うのだ」

 約1時間後……

 クラン挑戦者(プローウォカートル)は洞窟内をくまなく探索したが、宝やグリフォンどころか何も発見することは出来なかった。

 クランメンバーは皆、首を傾げている。

「う~む、おかしいなぁ……」
「あの情報屋は超一流だし、ネタは絶対確実だと聞いたのに」
「俺達も何度もいい目を見させて貰ってますからね」

 しかしバルナベはさすがにリーダーだ。
 引き際を心得ていた。
 一見がさつに見える彼だが、時は金なりを地で行く性格でもあった。

「こんな何もない洞穴に居ても仕方がない……出よう」

 バルナベが手を挙げて撤退の指示を出した。

「そうですね。じゃあ皆、撤収だ」

 ティボーも同意し、クラン挑戦者(プローウォカートル)は洞穴から出る事にしたのだ。
 リーダー達が先頭に立ち、クランメンバーが重い足を引き摺るように歩き出す。

 先頭のバルナベが悔しそうに吐き捨てる。

「もしかしたらグリフォンの奴め。お宝を持って、ここから移動したかもしれん……ならば早く外へ出よう」

「附近にある別の洞穴って可能性もありますし、急いで手掛かりを探しましょう」

 ティボーも顔をしかめて頷いた。
 前向きなリーダー格ふたりに対して、他のクランメンバーは不機嫌そのものだ。

「畜生! 骨折り損だぜ」
「面白くねぇ!」
「糞っ!」
「最悪!」

 暫し歩くと前方から明るい光が射して来た。
 まもなく出口であろう。
 その時であった。

 きえええええ~ん!
 けあああああ~ん!
 きえおおおおお!

 外界で鋭い咆哮が轟いた。
 
 バルナベとティボーが驚いて駆け出し、クランメンバーが続く。
 
 外に出た彼等が見たのは、遥かに高い上空を悠々と舞う5体のグリフォンであったのだ。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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