第1話「寝言」

文字数 2,444文字

 今、ボヌール村では楽しい遊びが花盛り……
 それは、他愛もない『やりとり』から始まった……

 ある夜、俺はクッカ、クーガーと3人で寝ていた。
 最近は嫁複数とで寝る事が多い。
 ほら、皆で一緒にわいわい寝るって楽しいでしょう?
 夫婦同士だから、内緒の「ちょめちょめ」も当然しますけど。

 まあ俺が「リア充、爆発しろ!」と言われるのは当然。
 8人の、美しく可愛い嫁ズが居るから。
 敢えて受けます、厳しい非難は。
 御免なさい!
 その分、頑張って働きます!

 話を戻すと、俺は寝言を吐いたらしい。
 たまたま目が覚めていたクッカが聞いて、俺を起こしにかかったのだ。

「旦那様、起きてっ!」

「う~ん、朝?」

「いえ! 夜中です」

 きっぱり言う、クッカ。
 寝ぼけまなこで見れば、クーガーは傍らでぐうぐう寝ている。
 ああ、眠い……俺もまだ寝よ……

「寝ては駄目ですっ、起きて下さいっ!」

「うわっ!」

 思い切り揺り動かされた。
 これで完全に目が覚めた。

「あうう、何なんだ?」

 俺が驚いた声を出すと、さすがにクーガーも目を覚ます。
 眠そうに目をこすっている。

 クッカが怪訝そうに聞く。

「旦那様、ケイドロ……って何ですか?」

「ケイドロ……ん?」

 まだ眠くて、意識が朦朧としている。
 俺はまだ、夢の世界から戻っていない。
 
 だが、クッカは諦めない。
 なおも追求する。

「旦那様、ケ・イ・ド・ロ!」

「ああ、ケイドロか……って、ああっ」

 俺は驚いた声を出して、思わずクーガーを見た。
 だがクーガーの奴、知らんふりしてそっぽを向いている。
 ケイドロとは昔、子供達が遊んだ鬼ごっこの変型だ。
 先日、クーガーと昔の思い出話をした時に、この言葉が出た。
 ※妬みと陰謀編 第5話参照。

 覚えていないが、多分ケイドロの夢でも見ていたのだろう。
 クミカに追いかけられたのか、それとも俺が追いかけたのか分からない。
 つい、寝言で喋ってしまったようだ。
 
 うっわ。
 これは、まずい。
 俺と『クミカ』の昔話は、クッカにはご法度なのだ。
 クミカの魂から分離した、女神クッカと魔王クーガー。
 昔、俺と遊んだ記憶があるのは、クーガーのみだから。

 管理神様の力でクッカとクーガーが人間の美少女に転生した翌日……
 俺はふたりと改めて話した。
 3人で事実関係を共有したが、その時に昔の記憶に関しては単に確かめただけだった。
 具体的な思い出話をして、確かめたわけではない。
 だけど、クッカは既に知っていただろう。
 大事なクミカの思い出を、3人で共有出来ない事を……

「旦那様」

 クーガーが、目で合図する。
 こうなったら下手に隠さないで、クッカへ正直に言おうという意思表示(アイコンタクト)だ。

 仕方無い……素直に言おう。

「クッカ、ケイドロというのは昔の遊びの事だ……子供のね」

「昔の遊び?」

「ああ、追いかけっことかくれんぼを、ミックスしたみたいなものさ」

「…………」

 クッカは、考え込んでいる。
 言葉を発さずに……
 何だか、微妙な空気だ。
 俺は、クッカにかける言葉が見つからないでいた。
 クーガーも同様なようで、黙っている。

 暫し経ってから、クッカがぽつり。

「旦那様、良かったらその遊び……私にも教えて貰えますか?」

「りょ、了解!」
 
 俺は色々と説明してやった。
 ルールをひと通りと、単なる追いかけっこと違った面白さを。
 クーガーは真剣な表情で……黙っている。
 説明を受けたクッカの表情は、意外にも明るかった。

「へぇ! 面白そうですね! 私……ケイドロ、ぜひやってみたいです。ええっと、泥棒は分かりますけど、警察官って衛兵みたいなものですか?」

「ああ、大体合ってる」

「うふふ、楽しみ……って、ああっ、そうだっ!」

 にこにこするクッカが、いきなりポンと手を叩く。
 何か、思いついたようだ。

「旦那様、クーガー、私、良い事考えましたよ」

「「良い事?」」

 俺とクッカは思わず同時に声を出した。
 何だろう?
 クッカが思いついた事って?

 俺とクーガーが見つめると、クッカは嬉しそうに言う。
 得意満面という表情だ。

「他のママと子供達ですよ」

「他のママと子供達?」

「それが、何?」

「村の外で仕事をする旦那様とママ達が不在の際に、お守り担当のママ達と子供達が皆で遊べる昔の遊びを覚えれば楽しいです……今迄の遊びに飽きているから新鮮かも」

 成る程。
 確かにこの異世界では、子供の遊びのバリエーションが少ない。
 不思議な事に、追いかけっことかくれんぼくらいしかないのだ。

 もしかして、これってクッカのクリーンヒット?
 俺もクッカ同様、ポンと手を叩く。

「ああ!」

「成る程!」

 クーガーも笑顔で納得すると、クッカが嬉しそうに言う。

「皆で遊べば楽しくて仲良くなるし、身体は鍛えられるし、子供達の躾や勉強にもなると思うのですよ」

 俺とクーガーの脳裏には同時にイメージが浮かんでいる。
 これは……超が付く名案だ。

「おお、クッカ、偉いぞっ!」

「そうよ、クッカ、凄い!」

「えへへ、旦那様とクーガーに褒められちゃった」

 優しく微笑むクッカ。
 そんなクッカが、いじらしい。
 俺には分かる。
 クッカは、俺とクミカが遊んだ昔の思い出を共有出来ない辛さがある。
 こうやって、前向きに考え飲み込もうとしているんだ。

「クッカ、おいで! クーガーもおいで!」

「わ~い、クッカが行きますよぉ」
「嬉しいっ、旦那様ぁ」

 俺はふたりを「きゅっ」と抱き締める。
 
 ふたりからはとても甘くて懐かしい香りがする。
 ……それは遠い日に感じた、クミカとの古き良き思い出かもしれなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み