第32話「安堵と期待」

文字数 2,721文字

 襲撃者ゴブリンとの戦いは終わった……
 
 一時は戦闘状態に入った商隊も落着きを取り戻した。
 冒険者で数人、手傷を負ったものは出たが、かすり傷程度。
 全員がホッとした表情を浮かべていた。

 そんなこんなで……
 クランリーダーから許可を貰い、俺が家族の待つ馬車へ戻ったら……
 御者台では、クーガーとレベッカが笑顔で手を振っていた。
 まあ事前に全員が無事だって、クッカとクーガーから念話で報告を受けてはいたけどね。

 近付く俺の姿を、車内から認めたのだろう。
 扉が勢いよく開かれ、タバサとシャルロットが馬車から飛び降り、転がるように駆けて来る。

「良かったぁ! パパぁ!」
「パパっ! パパ~っ!」

 続いて、

「パパぁ!!!」
「パパ~!!!」
「兄上~っ!!!」

 レオ、イーサン、そしてフィリップら男子組も女子組の後を追って来た。

「よっし! ばっち来~いっ!!!」

 俺は叫び、大きく大きく両手を広げる。
 お子様軍団はまるで体当たりをするように、勢いよく俺の胸へ飛び込んで来た。
 当然ながら、小さな身体でガンガンぶつかられても、俺はびくともしない。

 優しく子供達全員を抱きしめ、ふと顔を上げれば……
 クッカとミシェルも車外へ出ていた。
 そしてクーガーとレベッカも御者台から降り、俺の方へ、歩いて向かって来るのが見えた。

 俺は片手を「さっ」と挙げ、笑顔の嫁ズへも「無事だぞ!」と応えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 その後は無事に……じゃなく。
 実は敵襲があったのだが……

 俺が懐かしい作戦名クッカ……
 つまり、必殺の対転移魔法を使った。
 待ち構えていた賊――奴隷獲得目的の悪辣な傭兵崩れと、女を犯し喰らう魔物――鬼畜オークを遥か遠方へと送っておいたのだ。

 まだクランの魔法使いに魔力が充分戻っていなかったしね。
 サービス、サービス。

 ちなみに、遥か遠方というのは、あの北の魔境である。
 この魔境、ボヌール村近辺とは比べものにならないくらい凄まじい奴ら、竜やグリフォンが跋扈する場所なのだ。

 え?
 俺がとても非情だって?

 それは当たり前。
 大事な家族と仲間を害そうとする奴等は、絶対に許せない。
 だから俺はよほどの理由がない限り、容赦しない。
 ふるさと勇者をやろうと決意した時、生半可な感傷は捨てているから。

 こちらでは強者かもしれない傭兵とオークも、あの怖ろしい魔境では単なる餌にすぎない。
 悪党どもは、生まれて初めて見る場所で、戸惑いと混乱の中、自身が餌となれば良い。

 奴らを対転移魔法で魔境へ送ったのは他にも理由がある。
 子供達の為だ。
 
 まだまだ幼い多感な子供達へ、これ以上リアルな戦いを見せる事はない。
 二度も経験すれば、今回の『教育』はもう充分だろうから……

 さてさて、そんなわけで、一見平穏な旅を俺達は続ける。
 ずっと変わり映えしない風景が続くが、馬車内は盛り上がっているらしい。

 開いた窓から、楽しそうな声が漏れて来るもの。

 どうやら……
 我がお子様軍団と、フィリップが凄く盛り上がって会話しているようだ。
 良くある事だが、人間って特別な時間と気持ちを共有すると、一気に親しくなるじゃない。
 
 まさに今のフィリップがそう。
 城館で一緒に昔遊びをし、打ち解けた関係に、今の経験が加わり更にブーストがかかった。
 血の繋がるシャルロットは勿論、タバサ達とも身内だし、元々敷居は低かったんだろうけど。

 はしゃぐ子供達の気持ちは好対照だろう。
 
 我がお子様軍団は、やっと住み慣れたふるさとへ戻れるという安堵。
 片やフィリップは、生まれて初めての旅。
 そして全く新しい生活を行う、未知への期待。

 ……やがて、俺達は街道から村道へ入る場所へ到達した。
 今度は右に曲がり、草が踏み固められたような道をひたすら進む。

 そして商隊と冒険者達も相変わらず前を進んでいた。
 彼等も今夜はボヌール村で宿泊する。
 ひと晩泊って英気を養い、明日の朝、王都に向けて出発するのだ。

 まもなく……
 丸太で組まれた、丈夫ながら簡易な防護柵。
 そして、いつもガストンさん達が陣取る高い物見やぐらが見えて来た。 
 
 おお!
 旅が終わったという実感が湧く……
 俺達は……ボヌール村へ帰って来たのだと。

「「「「「おお~っ!」」」」」

 子供達も、無事にふるさとへ帰る事が出来たという嬉しさのあまり、大きな歓声をあげていた。
 よく聞くセリフだが……
「やはり自分の家が一番」と言うじゃない。

 我がお子様軍団にとっては、至言(しげん)だったようだ。

 ふるさとのボヌール村が見えた途端、それまでの緊張が一気に解け、元気いっぱい、エンジン全開って感じだったから。
 まあ、この異世界にエンジンはないけどね。

 話を戻すと……
 俺が嬉しかったのは、この旅で学んだ結果ともいえる、子供達の成長が早速見えた事。

 いつもの通り入村する際、村の慣例により馬車から一旦降りて、安全確保の為に全員顔見せしたのだが……
 物見やぐらで門番を務めるガストンさん達へ、大きな声で『お礼』を言ったからだ。

 中でも、一番気合の入った声を張り上げたのが、イーサンである。
 前にイーサンと話した時もそうだったが、今はそれ以上。
 この旅で経験した、『怖ろしい敵』から村民を守る為、日々頑張る祖父が、一層頼もしく且つ誇らしくなったようだ。

「おじいちゃん! いつもありがとうっ!!」

「おう!!! お帰りイーサン! うむ! 皆、無事に帰って来たな! 良かった!」

 ガストンさんも、愛する孫から礼を言われ、嬉しくないわけがない。
 孫の数倍もの、大きな声で返事を戻していた。
 そして俺と嫁ズ、他の子達も元気なのを見て、何度も頷いている。

 後で俺から、
「子供達が門番の仕事を理解しつつあるよ」って、しっかりフォローしておこう。
 
「うふふ……」

 そして自分の父と愛息の会話を、傍らで見守る母レベッカも、凄く嬉しそうである。
 俺同様、子供の成長を感じているに違いない。
 ちなみに……
 フィリップが村へ来るのは、事前に魔法鳩便で報せてあるので、戸惑いや混乱はない。

 そんなこんなで俺達だけではなく、商隊、護衛の冒険者達のチェックも終わり、これでひと安心。
 全員が無事に入村した。

 こうして……
 俺と嫁ズがサポートした、我が子達との旅は無事終わったのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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