第17話「いつでも夢を①」

文字数 2,243文字

 レベッカは話している。
 熱い口調で、俺と体験した王都の旅を。

 ヒートアップするレベッカの話が、商業ギルドのホールで行われていた、特別イベントの件になった時……
 レベッカとおなじくらい、夢中になって聞き入る嫁ズの瞳は、まるで明るい未来を予感するように、キラキラ輝いている。

 やった!
 今回、俺とリゼットの立てた『作戦』の第一段階は成功したのだ。
 この『作戦』の趣旨は、俺達が将来に対してたくさん夢を持てるようになる事だから。
 
 スキルという、自分の得意分野をたくさん持つ……
 得意分野が多岐に渡れば、将来に対して多くの選択肢が増える事にもなる。
 選択肢が増えれば、俺達の一生の目標となるたくさんの『夢』へ繋がる。
 そんな環境になれば、あっと驚く、意外な適性も見つかるかもしれない。

 親である俺達だけではない。
 子供達にも、未来への可能性と選択肢を示してやれる。 
 確かに、絶対に覚えないといけない、必需品ともいえるスキルはあるけれど……
 たくさんの得意分野があれば、今迄みたいに特定のスキルを強要せず、子供の希望を聞いた上で、のびのびと育ててやれるだろう。
 
 ……俺が来るまでのボヌール村は、明日を生きる為に、村民誰もが皆歯を食いしばって働いていた。
 来る日も来る日も、死への恐怖におののく、辛い日々が続いていたと聞く……
 
 狭い畑を耕し、数少ない家畜を養い……
 当時は厳しかった領主オベール様へ多額の税金を納め、残った僅かな糧を得る。
 魔物や肉食獣が跋扈する原野で、危険を冒しながら狩りをして……
 村にも容赦なく襲来する魔物から必死に家族を守り、哀しい犠牲を出しながら……
 村民達は……何とか、生き延びていた……
 
 好きなスキルを持とう、輝く未来への夢を持とう……
 そんな余裕など、一切なかったのだ。

 今だって、日々苦しいのは変わらない。
 天候の不順や魔物の襲来など、何が起こるか分からない。

 けれど……現在の村には、明日を担う子供が増えた。
 やる気のある、新たな大人も移住して来たし、これからも増えるだろう。
 オベール様とも分かり合え、血縁的な身内というだけではなく、様々な繋がりで一心同体となった。
 生活もほんの少しだけど、楽になった。
 
 比例して、村民の笑顔も大幅に増えたのが一番喜ばしい。

 だから……
 未来への第一歩を踏み出す為に、素敵な『夢』を持つべきだと思う。
 今回の俺とレベッカの旅は、そのきっかけとなる予感がする。

 ……レベッカが、王都旅行の話を終了した時。
 他の嫁ズは、レベッカを質問攻めにした。
 進行役のリゼットを始め、あのマルチな天才クラリスまでも……
 質問はやはりというか、あの『職人体験』に関してが圧倒的に多かった。

 今迄は生き延びる事を優先して習得していたスキルが、自分達の夢にシフトしつつある……そんな事を証明するシーンだった。

 嫁ズ同士の話は、白熱する一方だったが……
 頃合いを見て、俺が申し入れ、家族会議のクロージングをした。
 
 全員で新たなスキル習得を目指して、夢を持とうと。
 いろいろな制約はあるから、上手くセッティングしないといけないけれど……
 グレース、レベッカに続き、王都を含めた様々な地へ……
 思い出作りも兼ね、新たなスキルを求め旅行しようとも決めたのである。

 よくよく考えたら、日々尽くしてくれる嫁ズを、もっともっと慰労した方が良いとも考えたから。
 レベッカは新たな夢を見つけたのと同時に、初めての王都旅行でリフレッシュ。
 表情が見違えるほど明るくなり、気持ちにも張りが出て来たもの。
 
 まあ、生まれてから死ぬまで……
 人生自体が長い旅みたいなものだから、人間ってこんなに旅が好きなのかもしれない。

 え?
 旅は良くても、スキル習得の方がそんなに上手く行くわけないって?

 うん!
 その通りだ。
 当たり前だが、スキル習得に関しては、甘い事だけを考えてはいない。
 
 興味が出て好きになっても、全てが上手く行くとは限らない。
 クラリスみたいにプロ級になるのは凄くまれで、習得出来ても素人に毛が生えたくらいのレベルが殆どだろう。
 むしろ、上手く行かない方が多いに違いない。

 人間には才能と適性、そして運不運もあるから。
 だけど上手く行かなかったら、切り替えれば良い。
 また新たな夢を見つけて、再チャレンジすれば良い。
 中途半端で駄目なんて、進歩がなかったなんて、悲観する事はない。

 人生で経験した事に、無駄はないと俺は思う。
 ほんの少しの積み重ねだって、新たな未来へ繋がると信じる。
 
 何故かって?
 
 現に誰もが、子供の頃からの『夢』はどんどん変わって行ったじゃない。
 夢が叶わず、厳しい現実に跳ね返されたともいえるけど。
 でも、未来がないよりは、無気力に生きるよりは……
 素敵な夢を持って、懸命に生きる方が何倍も良い。
 
 そう、俺達は(あきら)めず、(くじ)けずがモットーだから。

 実は俺にも、新たな夢が出来た……
 まだ秘密なんだけどね。

 そう!
 人間はいつでも、夢を持てる。
 確信出来る。

 そんなこんなで、家族会議は無事終了。
 
 俺と嫁ズはその晩……
 まだ見えない『夢』に淡い期待を抱き、幸せな気持ちで眠りについたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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