第3話「クッカの夢①」

文字数 2,259文字

 前にも言ったけれど、俺は嫁ズとのコミュニケーションを大事にしている。
 ユウキ家の方向性を考える為、全員で『家族会議』をするのは勿論だけど、嫁各自とふたりきりで話す事も多い。

 今回は、「タバサの件があったから」と、いうのが主な理由だが……
 ここ暫く、クッカとはサシで話していない。
 なので、良い機会だからじっくり話したいと思った。

 タバサと話して数日後……
 俺とクッカ、お互いの都合が、上手く合うタイミングがやって来た。
 昼間、仕事中にさりげなくクッカを誘い、夜に俺の私室で飲む事となった。

「うふふ、今夜はデート、旦那様とデート」

 いつもながら、クッカって可愛いと思う。
 女神の頃からそうだった。
 俺とデートするだけで、凄く喜んでいた。
 今夜だって、単に『家飲み』するだけなのに、「うきうき」しているから。

 思えば、クッカと初めて出会ってから7年が過ぎている……
 お互い年齢は重ねたけれど、ふたりの『仲』は変わらない。
 俺が異世界に転生した人間、彼女が管理神様の命令で付けられたサポート女神であった時から。

 クッカから見れば、俺の性格だって、基本的には変わっていないらしい。
 『本当の俺』は、22歳で死んで転生したから、もうそろそろ三十路になる。
 だから、子供から大人になったとか、やんちゃな部分が丸くなったって、自身では強く感じるけど……
 お互いに「全然変わらないね」って、言い合っている。

 そう!
 変わらないって言えば、俺にとって、クッカを始めとした嫁は妻であると同時に永遠の恋人。
 それは、変わらない。
 子供が出来ても、いくら年をとっても、変わらない。
 年寄りになったって、公衆の前で、仲良く手を繋ぐ事が出来るだろう。
 堂々とデートする事も平気だろう。

 閑話休題。

 楽しく酒を飲むのは大好きだけど、クッカはそんなに強くない。
 ちょっと飲むと、すぐ赤くなる。
 酒の中では、赤ワインが好きである。

「乾杯」
「乾杯」

 陶器製のマグをカチンと合わせて、「くいっ」と、ひと口飲む。
 俺が白ワイン、クッカが赤ワイン。
 どっちも適温、ほど良く冷えている。

「美味しい!」

「ああ、美味いな」

「うふふ、こんな時感じます。グレース姉じゃないけれど、凄く幸せ。大好きな人と結婚する、私の夢も叶ったって」

「だな! 俺もさ」

 他愛もない会話の後……
 クッカが切り出して来る。
 こんな時、やはり女性の勘は鋭い。

「ねぇ、旦那様」

「ん?」

「今日、誘ってくれたのは、タバサの事でしょ?」

 ああ、やっぱり。
 勘付いてる。
 もう、ズバリじゃないか。

 でも……
 クッカと話したいのは、『それだけ』じゃない。
 だから俺は、

「タバサの話か? 確かに、それもある」

「確かに? それも?」

 クッカが首を傾げた。
 俺が、他にも理由があると告げたのが意外みたい。

 うん!
 本当はね。

 俺は、強い気持ちを込めて言い放つ。

「ああ、クッカ。今夜はお前とふたりきりで飲んで、話して、最後は甘えたいんだ」

「え?」

 驚くクッカ。
 綺麗な碧眼を真ん丸にして……
 さらさらの金髪が揺れている。

「お前に甘えちゃ、駄目か?」

「……ううん、全然OKよ……って言うか私もっ!」

 クッカは嬉しそうに言い、逆に俺に抱きつくと、思いっきり甘え出したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 何か……
 順序が逆になってしまったが……
 熱いイチャタイムの後に、本題である堅い話とあいなった。

 ちなみに、イチャと言っても『最後のエッチ』まではしてません。
 俺って、この頃、エッチの後はすぐ寝ちゃうから……大事な話が出来なくなるもの。

 え?
 そんなのどうでも良い。
 全く要らない情報だって?
 済みません、さっさと話を進めます。

「うん、クッカが言った通り、タバサの話もしたい。でもどうして分かった?」

「ええ、最近ね、あの子って不思議なの」

「タバサが不思議?」

 タバサが……不思議?
 一体、どのような意味だろう。

「教えてくれ。タバサが、どうした?」

「うん、タバサったら、凄くやる気になっているの。今迄嫌がっていたのに、ハーブの勉強、やけに前向きなんですよ」

 タバサがやる気になった?
 おお、あいつ、俺との約束をしっかり守っているんだ。
 服や絵を学ぶためには、まずはハーブの勉強をちゃんとやるって。

 あんなに小さいのに、我が子ながら、本当に良い子だ。
 やっぱり、責任感の強さは俺の子の中でも一番なんだ。

 ああ、あの子が一生懸命頑張る姿が目に浮かぶ。
 とっても、嬉しい。
 でも、タバサはまだ6歳の女の子。
 俺とクッカで注意して、無理だけはさせないようにしなきゃ。

「それ、とっても良い事じゃないのか?」

「ええ、でも……」

「でも?」

 何故、クッカは口籠る?
 俺は、理由(わけ)を言うように促した。

「私がいくら理由を聞いても、あの子ったら、教えてくれないのよ」

「そ、そうか……」

「でね! 絶対に旦那様が絡んでいるって思ったの」

 クッカはそう言うと、俺を睨む。
 だが、本気ではない事がすぐに分かった。

 抗議のポーズ……
 すなわち『腕組み』をしながらも、クッカは悪戯っぽく、俺に向けて微笑んでいたからである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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