第1話「怒りの再会」

文字数 3,035文字

 その晩、俺は嫁のクッカと寝ていた。
 傍らには愛娘のタバサもぐっすりと。
 いわゆる親子仲良く3人寝だ。
 
 ちなみに川の字ではない。
 
 タバサが寝付いてから、俺とクッカはさっきまでたっぷり愛し合った。
 これには理由がちゃんとある。
 愛を確かめ合うのは勿論、タバサに素敵なプレゼントをする為である。
 俺もクッカもそしてタバサも望んでいる、弟か妹を授かる行為なのだ。

 けだるげなひと時の後、俺は眠りに落ちた。
 昼間たっぷり働き、夜もそれなりに頑張った。
 ……今夜は、ぐっすり眠れそうである。

 しかし……

『ケン、早く起きなさい』

『エッチした後、幸せそうに寝やがって。起きろ、コンチクショー!』

 誰……だろう?
 俺が目を開けると、ふたりの女性が見下ろしている。
 周囲を見ると自宅の寝室ではない。

 真っ白な何もない空間。
 ここは異界らしい。

 女性達の表情は……何かヤバそう。
 怒っているような雰囲気だ。

 ひとりは金髪で尖った耳を持つ超美人。
 もうひとりは赤毛の凛々しく逞しい麗人。
 えっと……ああ、そうだ、このふたりは。
 思い出した。

『ケン、お前……まさか、忘れていたのか?』

『このバカモノが!』

 そう!
 俺が死んで、最初に会った方々だ。
 アールヴの女神ケルトゥリ様、戦いの女神ヴァルヴァラ様か。
 管理神様が創った異界でこのふたりと、クッカ=クミカに出会ったから。
 ※ど新人女神編 第2話参照

 あれからもう3年以上が経過している。

『お久し振りです、もうだいぶ経ちましたよね』

 俺が「懐かしい」と言って、きちんとあいさつしたのに……
 ふたりの反応は……薄い。

『はぁ?』

『何言ってる? この前会ったばかりだろ? 天界ではほんの一瞬だ』

 そうですか……
 それにしても、何故おふたりとも怒っているんでしょうか?
 ……分かりませぬ。

『あの、おふたりとも……俺に一体何の御用でしょうか?』

『はぁ!? 分からないの? 馬鹿ね』

『この愚か者!』

 馬鹿……愚か者って……散々な言われ方……
 ああ、でも本当に心当たりがない。

『私達は貴方にはね、貸しがあるの』

『そうだ、たっぷりとな』

 おふたりの貸し……という事は俺にとっての借り?
 いや、無いぞ、本当に。
 全く心当たりがない。

『お聞きしたいのですが……貸しって何の事で』

『はぁ!?』

『本当に馬鹿な男だ、こいつは!』

 俺は改めて女神様達の顔を見た。
 目がすっごく真剣(マジ)だ。
 勘が言っている、逆らわない方が良いと。

『申し訳ありません、俺は馬鹿で愚かです。こんな俺に貸しって一体何かを教えて頂けますか?』

 ケルトゥリとヴァルヴァラは呆れたような顔をした。
 そして顔を見合わせると、大袈裟に肩を竦めたのである。

『お前と私達はあの時しか会っていない。良く思い出せ』

『そうだ、ケルトゥリの言う通りだぞ』

 あの時何かあったっけ?
 暫し考えたが、俺にはやはり思い出せなかった。

『……分かりません、何でしょう』

 俺が首を傾げると、ケルトゥリはきっぱり言う。

『お前は私を侮辱した』

『……あ!』

 そうか!
 侮辱……と言われて思い出した。
 そういえば……

『あ! ではないっ! 胸の大きさは私が一番気にしている事なのだ』

『でも、あれは管理神様が……』

 そう!
 スーパーともいえる、酷いセクハラ発言をしたのは管理神様。
 『ケルトゥリは、ちっぱい』だなんて、はっきり言い切っていた。

 だけど俺は決して口になんか出していない。
 でも、ケルトゥリ様の怒りの矛先は?

『お前が先に心の中でそう思ったからだ。だからあの方が口に出された』

 ええっ!
 それって本当に八つ当たりじゃないか。
 トップにこびへつらう悪辣な中間管理職みたいだ。
 イメージは……コバンザメ。

『何だ? 何か、不満でもあるのか?』

『いえ、ありません』

 俺とケルトゥリ様の会話を傍らで聞いていたヴァルヴァラ様。
 ジト目で俺を睨んでいる。
 
『お前は、私の方も心当たりがないのか!』

『は、はい……』

『馬鹿が! お前は神聖な勇者を侮辱した、雑用係などと抜かして(おとし)めたのだぞ』

『あ!』

 勇者の侮辱か……そっちは心当たりがある。
 でも俺は、自分の考えを言っただけ。
 大事な大事な、自分の人生選択を求められたから。
 人間の考えは千差万別。
 価値観は多岐に渡るじゃないか。

 でも……
 俺には分かる。
 この人達は女神。
 神に反論は無駄。
 完全に無効化される。
 様々な神話に例えれば分かるだろう。
 
 良くある話は……
 何も悪い事をしていないのに、人間に対して行われた神様の理不尽な仕打ち。
 聞いたり、読んだりした事があるよね?

 仕方ない、とりあえず話だけは聞こうか。
 どうするか、判断はそれからだ。

『じゃあ、俺に何をしろと仰るので?』

『私達ふたりの為に働いて貰う』

『そうだ!』

 働く?
 どうやって?
 どこかへ行くの?
 アールヴの国? 王都?

 ……我儘みたいだが、困る。
 俺は日々忙しい。
 公私とも仕事が山積みだ。
 長期不在は愛する家族に迷惑を掛けてしまう。

 しかしケルトゥリ様は首を振った。
 そんな俺の考えを見抜いたように。

『差し支えないように、お前の夜の時間を貰う』

『え? 俺の夜の時間? う~、……おふたりとエッチするのはちょっと……』

 びったん!
 バコン!
 
『馬鹿! 違うわ!』

『誰がお前なんかとエッチするか? クッカじゃあるまいし』

 ……ふたりから思いっ切り殴られた。
 こうなる展開を予想してスキルを発動していたから平気だけど。

 ん?
 スキル?
 え?
 夢の中でもスキル……使えるんだ?

『今もそうだが、お前が眠っている間に見る夢という異界と繋ぐのだ、違う世界をな』

『そうだ! 我々はいろいろな世界の管理を任されている。今お前が生きている世界と違う時間軸の場所へ繋ぐから、その別な世界で働くのだ』

 成る程……
 寝ている間に違う世界——パラレルワールドみたいな場所で働くのなら村から居なくなる事はない。
 どうすればそう出来るのか全く理解出来ないが、多分神様の力だろう。

 でもひとつだけ気になる。

『これって、管理神様はご存知なのですか?』

『当然! 許可を取っているわ』

『お聞きしたら、いつものように仰ったぞ。OKだよ~んとな』 

 ああ、きっぱり言うケルトゥリ様。
 むむむ、ヴァルヴァラ様はウルトラライトな管理神様の口真似までしてる。

 ならば今回のミッションは管理神様公認……か。
 言いたい事は一杯あるし、抗議したいのはやまやまだが……仕方がない、覚悟を決めよう。

 と思っていたらケルトゥリ様の手が挙がる。
 魔法発動をするようだ。

『今夜は私、明日がヴァルヴァラの番だ』

『頑張って、がっつり馬車馬のように働いて来い、明日は待っているぞ』

『……では早速、行くぞっ』

『わ!』

 夢の中だというのに、目の前が暗くなる
 俺はあっという間に、意識を手放していたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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