第12話「お兄ちゃわんが世界最強!」
文字数 2,397文字
アールヴの村を襲っていたオーガの群れは、俺の無双で全滅した。
壊滅の危機が去った村民があげる大歓声の中、俺は飛翔しフレデリカの下へ戻った。
「やったぁ! やったぁ! お兄ちゃわん、やった~ぁ!」
空中で万歳三唱!
村民に劣らず大歓声をあげるフレデリカ。
俺が近付くと、猛スピードで飛んで来て抱き付いた。
そしてお約束、俺の顔中へ祝福のキスの嵐。
「おいおいおい」
「うふっ、フレッカのお兄ちゃわんは強い! 世界最強!」
おお、褒められたぞ。
この子はホント可愛い。
ボヌール村嫁ズの中には居ない、完璧ともいえる甘えん坊な妹タイプだ。
「フレッカ、俺の戦い方は役に立ったか?」
「うんっ! 魔境の件も含めて私はまだまだだって分かった。剣技、魔法、そして体術含めてぜ~んぶぅ! だからぁ、これから、もっともっと教えてね、お兄ちゃわ~ん」
甘えて鼻すりすりのフレデリカ。
でも、やる気も満々。
放つ波動で分かる。
この子は素晴らしい素質がある。
怖がりも徐々に直るだろうし、このまま頑張っていけば祖父に匹敵する力を得る事が出来るだろう。
時間さえ許すなら、俺も教えられる事はたくさん教えてやろう……
そう俺が思った時。
いきなり何もない空中に、ひとりのアールヴが現れた。
俺の索敵も何も役に立たなかった。
となれば、こんな事が可能なのは、ただひとりしか居ない。
「ふたりともご苦労だった」
宙に浮きながら、にこにこ笑うその人は……
やっぱり、シュルヴェステル・エイルトヴァーラ。
フレデリカの祖父で現ソウェル。
7千年生き抜いたアールヴの伝説。
多分……
転移&飛翔&気配察知無効云々……様々な魔法やスキルを一度に発動しているのだろう。
こんな人物に会うと、俺のレベル99なんてまだまだだと思うし、世界は広いと感じてしまうのだ。
敬愛する祖父が来たと知って、吃驚したフレデリカ。
その後、嬉しそうな顔、そして気まずそうな顔にどんどん変わる。
俺には、フレデリカの気持ちが分かる。
笑顔の祖父に褒めて貰いたいのはやまやまだが……心配するのも無理はない。
祖父から受けた「魔境に行け」という命令を、無視してしまったと思い込んでいるのだ。
だが俺が責任を持つと言って魔境を出た手前、絶対にフォローしなければならない。
「あ、あの実は……」
頭を掻いた俺が言いかけたその時、またもシュルヴェステルが口を開く。
「ははははは、ふたりとも本当に良くやった!」
「え? お祖父様、褒めてくださるの?」
恐る恐る聞くフレデリカ。
シュルヴェステルは、きょとんとしている。
「どうした?」
「あ、あのフレッカ達……勝手に魔境を出ちゃったから」
「ははははは! 何を言っておる。大丈夫だ、お前の事はケン様にお任せするつもりだったから、彼は賢明な判断と指導をしてくれた」
「え? で、では!」
「うむ! お前は
「ほ、本当!? お祖父様」
「本当だ、あの村民達の嬉しそうな顔を見よ。まあ少し身びいき過ぎるかもしれんがな。ははははは」
「やったぁ!」
ああ、良かったぁ。
やっぱり俺の判断は間違っていなかった。
それどころか、フレデリカは充分に評価をして貰ったみたい。
ホッとしたその瞬間、俺の魂へ聞き覚えのある声が聞こえて来た。
それは……俺をこの世界へ送った、女神ケルトゥリ様の声であった。
『ケン、良くやったぞ! では仕上げだ、お前の持つその黄金の神剣を褒美としてフレデリカへ渡すが良い。私からの神託と告げてな』
『は、はい』
仕上げ?
これって……何?
何か、とんでもない事が起こる予感がする。
「フレッカ、ちょっと……」
「何、お兄ちゃわん」
「この神剣を褒美としてお前に渡すようにって……ケルトゥリ様からの神託だ」
「え? ケルトゥリ様が? 貰って良いの? この私が?」
フレデリカが、俺から黄金の神剣を受け取った瞬間だった。
ぴいいいいいん!
辺りに、何か鋭い音がした。
何だろう?
ふと、見れば俺の身体が輝き始めていた。
眩い白光が身体を徐々に包み込んで行き、その輝きをどんどん増している。
ああ、これは……
話の流れからして……俺が……女神から与えられた使命を果たした
やるべき事を終えた俺は、遂にこの世界を去る時が来たのだ。
そんな事を考えていたら、またケルトゥリ様の声が響く。
『お前の考えている通りだ、ケン』
『ケルトゥリ様』
『よくぞ、使命を果たした。あの黄金剣はお前の伝説と共に長きにわたりアールヴ族に伝えられるだろう。そしてお前を遣わした感謝の念が、私に対する信仰心を上げるのだ』
『そうですか……』
『何だ、浮かない顔をするな。これでクッカを始めとした、大勢の家族の下へ帰れるのだぞ』
『…………』
『ちなみにあの剣は強力だが、とりあえずフレデリカ以外は使えない、安心しろ』
『はぁ……』
生返事をした俺であったが、こうなったらフレデリカへしっかり別れを告げねばならない。
ふとシュルヴェステルの視線を感じたので見ると、何も言わず俺に対して深くお辞儀をしている。
どうやら俺がこの世界から去ると、察しているようだ。
しかし、フレデリカはそうはいかない。
俺の身に起こっている、何か尋常ではない様子を感じ取って半狂乱になっていたのであった。