第9話 「王都潜入」

文字数 2,171文字

 同日ボヌール村、深夜……

 俺とクーガーのふたりは、別行動をしている。
 エモシオンにミシェル達を残し、転移魔法で一旦、ボヌール村自宅へ戻っていた。
 新しいユウキ家。
 俺が最初に住んでいた家は、ジョエル村長の所有。
 すなわちブランシュ家(リゼットの実家)の別宅であった。
 ようは借家で、自分の持ち家ではない。

 7人の嫁ズと結婚した際に移った新しい自宅は、元々大家族が住んでいた空き家であったが、俺達が特値で買い取った。
 大幅にリフォームされ、今や15部屋もある大邸宅だ。
 現在、村の家の中では村長宅を遥かに凌ぐ威容を誇る。

 ここは、俺の専用部屋。
 俺とクーガーは、クッカと向き合って話していた。
 城館での打ち合せ直後に経過報告を入れたので、クッカ達も情報は共有している。
 だが時間が時間だ。
 リゼットとレベッカは昼間の仕事疲れもあって、もうとっくに就寝していた。

 クッカが、しれっと言う。

「じゃあその仲介者とドラポール姉弟をきっちり締め上げれば、だいぶ情報が集まりますね」

 爽やかな笑顔で平然と「締める」とかいうクッカ……

「怖いな、……締め上げるって容赦ないね」

 つい俺が呟くと、クッカの表情が一変した。
 目が吊り上がって、口がきっと結ばれている。
 うっわ!
 怒ってる、凄く怒ってるよ。

「旦那様、当たり前です! 言いましたよね、クッカは家族に害為す者を容赦しませんって!」

「全くの同意だな……」

 クッカと全く同じ、怖い表情で頷くクーガー。
 『双子美少女』ふたりの怒り顔を見て、俺は思わず苦笑した。
 その時……

「お~い、ケン様! 俺、出発の準備が出来たぜ」

 妖精猫(ケット・シー)のジャンがスタンバイOKと申し入れて来た。
 今回の依頼は、急なものなので少し申し訳ないという気持ちがある。

「おう、ジャン、悪いな」

「いえいえ、ケン様ならともかく、麗しき奥様達の為なら何でもOKっす」

 はぁ?
 俺ならともかく?
 相変わらずひと言多い、惚けた奴だ。

「ジャン……お前なぁ、今の、もういっぺん言ってみ」

「あれ? ケン様、私、何か言いました?」

「あ~? 寄りによって昔のクッカの真似しやがって! おう、しっかりとな! 聞こえているんだよ、おらおらおらぁ」

「ぎゃ~、やめてぇ! ゲンコで頭をぐりぐりしないでぇ~っ」

「もう! 旦那様、ジャンちゃん、夜中なのよ、静かにぃ」

 ジャンと戯れて?いたらクッカに叱られてしまった……

 まあ、そんなこんなで……
 俺とクーガー、そして妖精猫のジャンは王都へ旅立ったのである。
 勿論、俺の転移魔法でさくっとね。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 同日王都、深夜……

 昼間は賑やかな王都ではあるが、さすがに日付も変わったこの時間だと人影は殆ど無い。
 通るのは主に、深夜巡回の衛兵達だ。

 俺達だってうろうろしていて見咎められたら、即不審者扱いだ。
 スターップ! とか言われて捕まり、下手をすれば牢屋行きとなってしまう。
 だから俺達は、スキルを発動している。
 お馴染みの身体強化と気配消去のスキルに加えて、隠身(かくりみ)というスキルだ。

 超が付く高位魔法使いは人間から放出される魔力波(オーラ)を見極めるので、姿だけ隠しても簡単に所在がほぼ分かってしまうらしい。(以上クッカの受け売り)
 だけど、そんな人は滅多に居ないし、逆に近づけばすぐに分かるから。
 まあ、大丈夫。
 
 ちなみに、今夜の俺はまたもや魔王の手下ルック。
 顔を黒のフルフェイス革兜で隠し、全身も真っ黒な革装備で固めている。
 クーガーもお揃いの装備で固めたので、下手をすれば生まれていた悪の魔王コンビと言ったところ。

 誰も居ない路地で、俺達は今夜の刷合せをする。
 まずは俺とクーガーがドラポール伯爵邸へ探りを入れる。
 その間にジャンが王都雌猫ネットワークを駆使して、今回暗躍した?仲介者とやらを調べる。

 仲介者って、何か響きからして怪しい。
 その仲介者であるが、どうせ本名は名乗っていないし、変装しているかもしれない。
 だが、甘い。
 人間なら誤魔化せるかもしれないが、王都中に張り巡らされた沢山の猫達の目は誤魔化せない。
 相手だって、まさかそこらに居る普通の猫がチェックしているとは思わないだろう。
 俺は、ジャンへ念押しをする。

「ジャン、宜しく頼むぜ」

「クーガー奥様、了解でっす!」

 ああ、こいつ、また!
 俺じゃなくて、クーガーに「びしっ」と敬礼しやがって……
 さっきの事もあるから、後でこの駄猫を絶対しばく、しばき倒す。
 俺の怒った視線を「さっ」と外したジャンは、あっという間に闇の中へ消え去った。

 性悪猫ジャンは後でしめるとして、さあ、こちらも行動開始だ。
 言っていなかったが、クーガーもクッカも俺同様に飛翔魔法が使える。
 管理神様から人間の美少女にされた時に能力が大幅に削られてしまったが、超上級魔法使いくらいの能力は残された。
 それだけでも、普通に考えれば凄い。
 
 俺達は闇の中で姿を消したまま、ドラポール伯爵邸へ飛んだのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み