第2話「男同士で出発だ!」
文字数 2,353文字
頬を膨らませ、口を尖らせて抗議をしている。
いつもの狩りのメンバーであるクーガーが不在。
俺とふたりきりになれる、絶好のチャンスだと思ったのだろう。
とても残念そうな表情をしている。
「悪い! ちょっと思うところがあってさ」
俺は、申し訳なさそうに両手を合わせた。
一方、頭上にLED電灯を灯らせたのはクーガーだ。
相変わらず勘が鋭い。
「あ~、分かった! たまには男同士でって事でしょう?」
大当たり!
図星である。
俺は、軽く頭を掻く。
「おお、さすがだな。実は、そうなんだよ」
「ふ~ん、男同士ねぇ……」
クーガーから言われても、レベッカは半信半疑だ。
俺のフォローをしようとするクーガーは、レベッカを説得にかかる
「レベッカ、聞いて」
「何?」
「あのさ……夜寝る前に女同士で話し込む時ってあるじゃない、お茶まで淹れてさ。下手したら朝まで盛り上がる……あれと同じだよ」
何だ?
嫁ズは俺の知らない所でそんな事してたの?
たまに凄く辛そうな表情で「眠い!」とか言っていたのは、そんな夜更かしが原因なのか。
「あ~、成る程! 分かり易いよ、それ」
レベッカは、ポンと手を叩く。
クーガーの説明を聞いてすぐ理解したようだ。
「納得したよ、ダーリン。留守中、村の事は私達に任せておいて。何かあったらクーガーか、クッカに頼んで念話ですぐに報せるから」
「分かってくれて良かった、今度ふたりでデートしような」
「うん! 楽しみにしてるっ」
他の嫁ズは納得してくれていたので、レベッカが理解してくれて漸く話は
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俺はその夜、嫁ズが寝静まってから従士達に声を掛けた。
当然ながら、会話は念話である。
3人の従士のうち……
ふたり——ケルベロスとベイヤールは喜んだ。
ケルベロスは硬派な地獄の猛犬。
だけど最近は、奥さんのヴェガと子供達に優しいマイホームパパと化していた。
それが俺のお供と言う公式な理由で、堂々と出かけられる。
男同士の気儘な旅の上、思う存分暴れる事が出来るのは大歓迎だという。
某悪魔の騎乗馬だったベイヤールは人語を話す事はないが、魂に直接意思を伝えて来る。
荒野を駈け巡り、魔物をバンバン蹴散らしてやると意気込みを示したのだ。
しかし!
唯一不満を洩らしたのが
『クーガーの
口を尖らせるジャンに、俺は言う。
『たまには、男同士で話そうと思ってな』
俺の言葉を聞いたジャンは首を傾げて、抗議する。
『はあ!? ケン様の奥様方は皆、美女揃いじゃないですか! レベッカの姐御だって「きりり」とした美顔でスタイル抜群ですぜ』
『まあ、確かにそうだ』
『じゃあ、何故!? 何が悲しくてヤロー同士で、それも原野なんかに行かなくちゃならんのですか! むさいだけですよ、華がなくちゃ暗くてつまらないですよ、そんなイベント』
『ま、まあな……』
健全な男とすれば、確かにジャンの言う事は分かる。
俺が口籠るのを見て、叱る者が居た。
ケルベロスである。
『ナマイキナコトヲイウナ! コノ、ダネコメ』
ケルベロスから叱られたジャンは逆切れする。
『ああっ、てめ! ケルベロス! 駄猫だと! それ二度と言わないって約束しただろう?』
『フン!』
どうやら、ケルベロスとジャンは何か決め事をしていたようだ。
しかし、ケルベロスは取り合わない。
鼻を鳴らして却下。
ジャンは引き続き、悔しそうに抗議する。
『ああ、く、糞っ! 男としてお互いを認めたとか、敬うとか、お前は言っていたじゃないかぁ』
『ヤクソク? ソンナモノハ、タッタイマ、テッカイダ。ソコラノ、ブタニデモクワセロ』
『撤回!? 何だと! き、汚ねぇぞ!』
『シュジンヲ、ウヤマワナイ、ジュウシノヤクソクナド、シラヌ』
『何、言ってる! 俺っち、ケン様を、う、敬っているじゃね~かよ』
『ダッタラ、ケンサマノメイレイニハ、シタガエ。ソウデナケレバ、ケンサマヘタノンデ、オマエノケイヤクヲ、カイジョシテモラウガドウダ? オマエノカゾクトモ、ハナレバナレニナルゾ?』
『え? けけけ、契約解除? か、家族とも離ればなれ?』
『ソウダ! キョムノセカイヘ、モドリタイカ?』
『い、嫌だ! 虚無の世界なんかへ帰るのは嫌だ!』
以前、聞いた事がある。
召喚する前にケルベロス達はどこに居たのか、を。
ケルベロスによれば俺から呼び出される前の記憶が無いそうだ。
例えれば、夢を見ていた事は分かっていても、目が覚めると全てを忘れている……
そんな感覚。
ちなみに召喚された後に契約解除されて戻されるのはどこか?
これもケルベロスが教えてくれた。
別の異世界か、もしくはエデンの園のような穏やかな異界だという。
しかし一旦契約解除されると、再び記憶は全てが消されてしまうらしい。
ケルベロス同様、今のジャンには村や王都に家族が居る。
男として名を上げたジャンは多くの猫達を嫁にしたのだ。
夢にまで見たハーレム生活をゲットしたのだ。
そんな夢のような生活が消える……
ジャンは渋々頷くと、同行を了解したのである。
『じゃあ、明日出発だな』
こうして俺は従士達を連れて、小さな旅へ出る事になったのであった。