第18話「お子様軍団の社会科見学②」
文字数 2,583文字
社会科見学のスタートは順調と言って良いだろう。
だけど門番の仕事は、不審者のチェックだけではない。
他にも、いくつか大事な仕事がある。
中でも税金の徴収は、不審者チェックを含めた防衛と並び、最上位といえるものかもしれない。
俺達は入場の際、完全スルーだったから、子供達は全然感じていないだろう。
何故完全スルーなのか?
エモシオンの住民と同じく、領民であるボヌール村の村民は、町へ入る時に発生する入場税を取られないから。
同様に、町内で商売をする為に持ち込んだ、生産商品に対する関税も免除されているのだ。
ちなみに……
俺達と一緒に来た王都の商会は、結構な税金を取られたって話。
でも、6歳の子供に税金云々の話は難し過ぎる。
だから、ボヌール村からも税金を払っている事。
また、町へ入る際に、普通は税金を払う事。
但し俺達はボヌール村の村民だから、特例としてエモシオンでは税金を免除されている事を簡単に説明した。
俺の話を聞き、質問をして来たのは、またもタバサである。
「パパ! 税金って何? どうして払うの?」
うむ!
ズバリ、直球な質問だ。
ならば素直に打ち返そう。
傍らで、シャルロットも聞きたそうにしているし。
「税金はな、ボヌール村の俺達が、領主様であるオベール家へ払うお金だ。物で納める場合もある」
と言えば、タバサが更に突っ込んで来る。
「パパ、私達が払うの?」
「ああ、そうだ。でも俺達だけじゃない、このエモシオンの町民、そして外からやって来た人達も必要に応じて払う」
「ふ~ん……」
さすがにこれだけじゃ、説明不足かな?
タバサは、可愛らしく首を傾げている。
なら、もう少し説明してやろう。
俺も、子供と話すのは大好きだから。
「タバサ、お前の二番目の質問、税金を何故払う? という問いに対する答えだが……いろいろ理由がある。例えば、あの門番さん、ドニだ」
「ドニ……さん?」
タバサは訝し気な顔付きで、改めてドニを見た。
そのドニは……相変わらず忙しそうである。
うん! お疲れ様。
俺は頷き、話を続ける。
「ああ、ドニさんは門番の仕事をしている。その働きに対して、オベール家から俸給が出ている」
「俸給?」
「俸給というのは、働いた事に対して貰うお金の事だ」
「働いて? 貰うお金?」
よし!
ここからが話のキモだ。
しっかり説明しなければ。
当然、分かり易くね。
「ああ、俺達の暮らしを考えてみようか。日々農作物を作ったり、狩りをしたりして、食べ物を得ている。ボヌール村では食べ物って、大体自分達で何とかしているよな?」
「うん、そうね。畑で作った麦と野菜をパンやスープにしたり、ママ達が狩りで捕まえた兎を焼いて食べたりするわ」
「そういう食べ物以外、手に入らないものを得る為には、お金が必要なんだ」
「お金が要るの?」
「ほら! 村では作れない、大空屋で売るようなものを買う為に、タバサもお金を使うじゃないか? 例えば、洋服を作る為の布とか」
俺が同意を求めたら、タバサはポンと手を叩く。
「うん! 布は作れない、大空屋で………お金を出して買った」
「だろう? じゃあタバサが使ったお金はどうやって手に入れるか?」
「ええっと……分からない」
「それはな、俺達が作って余った野菜とか、狩りや釣りで捕まえて、家族で食べきれない動物や魚を大空屋で売ったり、エモシオンまで持って来て売っているのさ。その売ったお金を少しだけ、洋服を作る布を買う為タバサへ渡したんだ」
「確かに! 大空屋ではものを売って、村の人からお金を貰うよね。私、店番もしたから分かるよ!」
我が子達には、大空屋も手伝って貰っている。
さすがに子供のみで店番をさせたりはしないが、言葉はたどたどしいながら接客もこなしている。
まあ……村民全員が知り合いの、ボヌール村だから許される事かもしれないが。
「はは、よしよし。それに野菜以外に、特別なものも作るよな? 俺とレベッカママはナイフを、タバサはクラリスママ、サキママと一緒に服を作り、それらを売って、お金を貰ってる」
「うん、お洋服作って、クラリスママからもお金を貰った」
「同じだ。ドニさんも門番の仕事をしてお金を貰っているんだよ。そのお金はどこから出ると思う?」
「当然オベール様からね! あ! ああ、そうなんだ」
タバサの顔が、「ぱっ」と輝く。
おお!
分かってくれたみたいだ。
さすが我が娘!
親馬鹿な俺は嬉しくなって、話す言葉にも力が入る。
「そう! タバサが気付いた通りさ。俺達を含め、いろいろな人から払われた税金が、ドニさんの貰うお金になる」
「うん!」
「じゃあ、まとめるぞ。俺達人間は働いて、何かを得る。それを一旦お金と交換する。交換したお金を、更に必要なものと交換するんだ」
「うん! 自分では作れない必要なものを、お金を使ってお買い物するのね」
「ああ、農作業や狩りをやるだけでは手に入らないものがあるし、暮らしてはいけない。人間はいろいろな仕事をして、支え合って生きている」
「パパ! クラリスママみたいに服を作ったり、絵を描いたり……他にも、い~っぱい仕事があるわ!」
「そうそう! ドニさんがやる門番も仕事のひとつさ。俺達が何か、別の仕事をしていれば同時に違う仕事は出来ないだろう?」
「うん! 身体はひとつだもの」
「あはは、そうだな。ドニさんは門番をして貰ったお金で、俺達が作った野菜を買って食べるんだ」
「うん! 一日中門番やってたら、畑で野菜を作れないものね」
「その通り! 税金はな、オベール様達と、オベール家が雇った多くの人達が、俺達の代わりにいろいろな仕事をしてくれるお礼として払うお金なんだよ」
「パパ、凄く分かった!」
「うん! 僕も分かった、兄上!」
気付いていたが、フィリップがさりげなくオベール様達と来ていて、俺とタバサの話を聞いていた。
これは、やはり……
俺は軽く息を吐き、今後の対処方法を考え始めたのである。