第8話「敵襲!③」

文字数 2,218文字

 俺は索敵を使い、改めて敵を確認する。
 ……問題は、物理攻撃野郎共が雄叫びをあげながらする、騎馬での突っ込み。
 すなわちこれって、騎士の戦法だ。
 
 鍛え抜かれた騎士って、確かに強い。
 馬に乗っていなくても、文句なしに強い。
 
 だけど……
 頑丈な甲冑を着て、大きな馬に乗った騎士の出で立ちは、人間の恐怖心理をついている。
 中身の人間が、実は自分より弱くても、あの恰好だけで怖くなる。
 
 人間って、基本自分より大きかったり、ごつかったりする強靭な生き物に弱いじゃない。
 ライオンとかトラとか、クマとか。
 海ならシャチとかサメとか。
 そんなのが目の前に現れたら、間違いなく、死の恐怖を覚えるもの。

 話を戻そう。
 騎士の話だ。
 想像して欲しい……
 精悍な騎士が、自分の居る方へ物騒な槍の穂先を向け、猛スピードで突っ込んで来たら……
 間違いなく、びびるから。
 絶対に、逃げたくなるって。
 そう!
 騎士の戦いの最大効果って、実は心理的な恐怖を誘う事なんだ。

 更に言えば、騎士は個人でも充分強いけど、集団で戦う方が更にその効果を発揮する。
 襲撃者は、騎士ほど凄い出で立ちではないが、猛々しさは変わらない。
 下手をすると、混乱して結構なダメージを喰らうから、事前に対策しておかないと。
 

 だから俺は、最前線に立つ盾役(タンク)を志願した。
 ああ、中二病の人は知っていると思うけど、盾役というのは敵の攻撃から味方を守る為、敢えて攻撃を受ける役回り、だから盾役って言う。

 俺が盾役を志願したのは理由がある。
 助っ人の俺が敵を恐れず先頭に立って戦う事で、商隊や冒険者達へ好印象を与える作戦なのだ。
 
 能力をひけらかそうとは思わないが……
 どうせ戦うなら、安全な場所でせこく戦うより、インパクトが大。
 かと言って、レベル99の能力はばらしたくないから、その微妙な力加減が難しいけどね。

 ちなみに他の役割は攻撃役(アタッカー)回復役(ヒーラー)強化支援役(バファー)などがある。
 文字通りの役回りだから、ここで詳しい説明は省く。

 さてさて、騎馬の突撃対策をばっちり考えた俺と冒険者数人は、敵の襲撃に備えながら、商隊の先頭を歩いて行く。

 歩く事、約10分……
 そろそろ、襲撃者共が潜む雑木林がある地点だ。
 冒険者のリーダーが手を振って、敵襲に備えるよう合図をする。
 商隊の全員が、いつ戦いが起こってもOKなように、身構えながら進む。

 ……まもなく、向かって右手に、その『雑木林』が見えて来た。
 
 瞬間!

 小さな炎の球がふたつ飛んで来て、俺達の足元に着弾した。
 後方から敵の魔法使いが放った、混乱させる事を目的とした、脅しの『炎弾』だ。

 うおおおおおおっ!
 わああああああっ!
 あああああああっ!

 同時に大きな雄叫びが轟き、馬に乗った15人の男達が突っ込んで来た。

「おし! 来たな!」

 俺は待ってましたとばかりに、魔法を連続発動する。
 まずは、後詰の者が持つ長弓の弦を、「ぷちん」と切る魔法。
 そして次の魔法は……

 ぶひひひひ~ん!
 ひひひひ~ん!

 見えない『何か』に驚いて、(いなな)く馬達が次々と立ち上がる。
 まるで超が付く急ブレーキをかけたような格好で、乗っていた男達が次々と振り落とされる。

 よっし!
 作戦、大成功だ!

 実は俺、いろいろな属性の壁を発生させる、防御魔法を習得している。
 例えば、ゴブリンやアンデッドに有効な火の壁(ファイアウォール)とか。

 今回、俺が使ったのは、風の壁(ウインドウォール)
 他の属性魔法の壁と違い、風は人や動物の肉眼では見えない。
 その為、遮蔽物は何も無いと見た襲撃者が、馬で突っ込んだところへ風の壁を出現させた。
 いきなりの、風の壁に驚いた馬が立ち上がって、騎乗者を落としたというわけだ。

 風の魔法の利点は他にもある。
 自然に燃え広がる火と違い、発動を止めれば、風は止む。
 すぐにこちらからも攻撃出来るから。

 そんなこんなで、先行組の落馬のあおりを受け、スピードを出していた為、すぐには止まれない後続の馬達もどんどんこけた。
 当然、乗っていた男達もまた落馬。

 こうなると、襲撃者は大混乱に陥り、もう俺達を襲うどころではなくなる。
 逆にこちらの好機だ。

 俺は手を挙げて、総攻撃OKの合図をした。
 まあ、護衛の冒険者達は上位ランカーなので、機を見るに敏。
 好機とばかり、全く躊躇わず、地に落ちた敵へ一斉に襲い掛かる。

 雑木林の中にはまだ魔法使いを含め、後詰めが居るのだが、そいつらの下へ行き、いちいち戦うのは無駄の極致。
 昔から軍隊は、大将が殺されたり、捕らわれれば瓦解するものだから。

 という事で、放出する波動を頼りに、ちょっと探したら……
 襲撃者のリーダーはすぐに見つかった。
 俺は即座に、そいつを束縛の魔法で生け捕りにする。
 そして速攻で縛り上げ、大声で宣言した。

 リーダーを捕まえたぞぉ!
 って……

 案の定……
 リーダーを人質にしたら、戦闘中の奴も、後詰めの奴らも、戦意を喪失して、あっさり降伏した。
 
 こうして……
 俺と護衛の冒険者達は、なんなく凶悪な襲撃者を退けたのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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