第18話「いつでも夢を②」
文字数 2,255文字
とんでもないサプライズが、俺達を待っていた。
俺とリゼットは、彼女の両親であるジョエル村長夫婦に呼ばれたのである。
特に用件など、事前には知らされず。
顔を見たいから『実家』へ来いとか、普段良くある事だから。
俺とリゼットは、孫のフラヴィの事か何かだと思って、気軽に出向いたところ……
『実家』の居間で対面した義両親、ジョエルさんとフロランスさんからいきなり!
衝撃的な発言をぶちかまされたのだ。
「ケン、リゼット、私達は村を出て、エモシオンで暫く暮らす事に決めたから」
「ええ、夫婦ふたりで暮らします」
「は!?」
「な、何、それ!」
エモシオンで?
ジョエルさん達夫婦が?
暮らす?
全然! 想定外!
リゼットの言う通り、「ホント、何それ?」って感じだ。
しかし、ジョエルさんの表情は真面目。
嘘や冗談を言っている様子がない。
「お前達には黙っていたが、エモシオンに居るイザベルとずっと相談していて決めた。魔法鳩の手紙でやりとりしていたんだ」
え?
オベール様の奥さんであるイザベルさんと相談?
こっちも、全然知らなかった!
オベール家宰相の俺なのに、彼女は何も教えてくれなかった……
俺もリゼットも、あまりのショックに無言。
「…………」
「…………」
「ケン、宰相のお前には悪いがな……イザベルだけではなく、オベール様にもちゃんと了解を頂いている。私達はオベール家に仕えるんだ」
「ええ、フィリップちゃんの爺や、婆やになってあげようと思ってね」
話が徐々に……見えて来た。
イザベルさんは、俺の嫁ミシェルの母で義理の母でもある。
更に言えば、それ以前にリゼットの母フロランスさんの幼馴染で、大親友でもあるのだ。
そのイザベルさん、領主オベール様と再婚して現在はエモシオンの城館在住。
生まれた一粒種フィリップは、俺の義理の弟にあたる。
しかし、俺の子供達と違って、フィリップはひとりっ子。
運悪く、同世代の子も城館には居ない。
大好きなパパとママは居るが、ふたりは領主の仕事があって基本多忙だし、いつも遊んではあげられない。
ママのイザベルさんはアンテナショップの運営という新たな仕事も出来たし……
オベール家宰相となった俺が、エモシオンに行く際はいつも構ってあげるのだが……これにも限界がある。
フィリップはまだたった6歳……相当、寂しい筈だ。
本当に可哀そうだ。
そんな状況をジョエルさん夫婦は知り、イザベルさんと話していたらしい。
成る程……こんな爺やと婆やが出来たら……フィリップの奴、凄く喜ぶだろうなぁ……
俺がそう思っていたら、まだ話には続きがあった。
「ケン、リゼット……今回は、ボヌール村のアンテナショップもオープンすると分かったから、この話を決めたんだ」
「そう! 村の為にもなるからね」
「え?」
「どういう事?」
俺とリゼットは顔を見合わせてから、改めてジョエルさん夫婦を見た。
ジョエルさんもフロランスさんも、満面の笑みを受かべている。
気合がみなぎっているのが、波動で分かる。
まずはジョエルさんが、
「こちらもオベール様に了解を頂いている」
と言えば、フロランスさんも、
「そうよ! イザベルも推してくれたわ」
「…………」
「…………」
「ほら! お前達が話してくれただろう? ……アンリとエマのふたりだけじゃ、店を運営するのは到底無理だから、ショップに勤める新たな人をエモシオンで雇うと。だがな……ショップの仕事は、ボヌール村を熟知している人間の方が断然良い」
「そうそう、私達、これまでの経験を考えれば適任だから、アンテナショップの仕事をしようと思うの。ボヌール村の案内役になるのよ」
話が……完全に見えた。
フィリップの爺や婆やになると同時に、村長夫婦という肩書を持ち、ボヌール村アンテナショップのスタッフも務める。
ジョエルさん夫婦はいろいろと「考えて」いたんだ。
でも……
俺が持った予感を、ジョエルさんは見抜いたみたい。
「という事でだな、今日からお前が、このボヌール村の村長だ、ケン」
「は!?」
うっわ!
やっぱり……来た。
ああ、そうなるよなぁ……
「いきなりで悪いが、村長見習い、そして代理をここまでやったんだ。最近は実質村長だったし、全然問題ない」
「そうよ! そして新たな村長代理がリゼット、お前です」
「え? お、お母さん!?」
うわ、更にサプライズ。
新村長代理がリゼット。
リゼットは、驚いて目を真ん丸。
「ケンを助けて、ふたりで、いえ家族全員で頑張りなさい。私達が見た限り、他のお嫁さん達も凄く頼りになるし……うふふ、貴女なら大丈夫」
「そうだ、フロランスの言う通りさ。リゼット、私達の娘のお前ならやれる……まあ、孫のフラヴィに会えなくなるのだけは寂しいがな」
「そうね……今迄みたいに遊んであげられない。それだけが心残りだわ……でも決めたの」
「おお、それにこのままサヨナラってわけじゃない。たまには村に帰るから、その際は宜しくな」
「ええ、フラヴィの事は本当に宜しくね」
ズバズバ言い放つ、ジョエルさん夫婦に圧倒された俺とリゼット。
ふたりで、再び顔を見合わせ、呆然としてしまったのであった。