第5話「デモンストレーション②」
文字数 2,483文字
ちなみに、これから演じる話は、結構アレンジしている。
『う~っ、お兄さん、みんなからすっごくいじめられたけど、めげずに行くぞ~! むかし、むか~し、ある村に働き者の男がいましたよぉ。妻に先立たれた真面目な男には3人の子供が居たんだぁ、それも全員、男の子と来たぁ』
今度はレベッカの突っ込み~。
『ええっ! 男だけぇ? ダーリン、可愛い女の子は居なかったのぉ?』
『ああ、残念! 居なかったぁ。もしも~君みたいな可愛い子が居ればぁ、話は、がらりっと変わっていたかもしれな~い!』
『わあ! ダーリンったら、よっく分かってるぅ』
おう! レベッカ
お前の嬉しそうな声に応えて、太鼓を鳴らしてやるぜ。
どんどんどん!
『だけどなぁ、可哀そうに男は、病気にかかって死んでしまった! ああ、両親に死なれ、残された3人の子はこれからどうなるぅ、さあ困った、困ったぁ!』
『あら、真面目に働いていたのに、お父さんまで死んじゃうなんて可哀そう!』
今度はリゼットが眉をひそめる。
優しいんだ、リゼットは。
なので、俺も「ぱっ」とアドリブで返す。
『そうかもしれないなぁ。だから君も、も~っと、もっと! 旦那様の健康を気にしないといけないぞぉ』
『はいっ、了解ですっ!』
嬉しそうに笑うリゼット。
うん!
良い笑顔だ。
これまた、太鼓を打ち鳴らせ!
どんどんど~ん!
『父の死に哀しみ困った3人の子は、いつまでも泣いてちゃ駄目だ。前を向いて生きようって決めたぁ! だからと~りあえず、父から残されたものを分けようと相談したんだぁ、つまり遺産相続だぞぉ』
うん、何となく分かる。
俺は所詮素人だけど。
紙芝居って、俺の口上と客の掛け合いが上手く行くか、そして太鼓を鳴らすタイミング次第で盛り上がりが左右されるんだ。
どんどんどん!
『話し合った結果ぁ、一番上の子は自宅、二番目の子には馬を貰うって事で話がまとまったぁ! だがぁ!』
どんどんどん!
『三番目の子、三男にはな~んにも、残っていなかった。でもぉ、お兄さん達は意外にもすっげぇ冷たかったんだぁ、じゃあな、元気で独立しろよって、弟に別れを告げ、自宅から追い出してしまったぁ』
『うっわ! ひど~いっ! 最低な兄どもぉ!』
話を聞き、怒ったのはクッカ。
普段から正義感に満ち溢れるクッカは、そんな冷酷な兄達が許せないに違いない。
俺はクッカに笑顔を向け、
『だろう? で~も、神様はちゃんと真面目な三男を見ていらっしゃった。落ち込む彼の前に現れたのが、さあて一体、だ~れだ?』
ここで、ひとつボケをかますのはクーガーの役目。
『ええっ? 誰? 一体、誰なのぉ? おじさんっ!』
『だ・か・らぁ、俺はおじさんじゃないぞぉ! で、現れたのが何と家で飼っていた猫! これが普通の猫じゃない、何と! 正体は喋る猫だったんだぁ!』
どんどんどん!
『貴方が、私のご主人様ですかって? 聞くんだなぁ、猫がぁ!』
どんどんどん!
『びっくりした三男。いきな~り、何と! 猫が喋ったから、呆然としていたぁ』
どんどんどん!
『少し経って、三男は気持ちが落ち着いたんだぁ。そしてぇ、まあ、仕方がないぞぉ。たとえ猫でも、貰えるのなら、何もないよりまだましだ~って思ったんだなぁ。しか~しぃ!』
どんどんどん!
『これがすっごく使える猫と来たぁ! 素晴らしい猫だったんだぁ!』
『ええっ、使える猫って、ウチのジャンみたいにですか?』
今度は身重のグレースが目を輝かせて聞いて来た。
グレースは元々小説好き。
子供の頃読んで、浸った空想の世界へ戻っている感じ。
ああ、夢だからつわりがなくて、笑顔だ。
俺とお前の子の為に、頑張ってくれていてありがとう!
感謝。
そう!
話を戻すと、グレースの言った通りなんだ。
詳しく伝えていなかったけれど、村におけるジャンの活躍は目覚ましい。
単に雌猫たちを束ねて、ハーレムの王としてふんぞり返っているだけではないのだ。
実は、この異世界でもネズミの害は脅威だ。
どんどん増えて、収穫物を食い荒らし、病気の原因となる菌を運ぶ厄介者なのである。
そのネズミをしっかり捕らえて、ジャン達猫軍団は俺達人間を守ってくれているのだ。
前世の都会で暮らす猫は室内で飼われていて、もうネズミなんか捕らないけれど。
野外で暮らす田舎の猫って違うでしょ。
バリバリ野生って感じで、大活躍してくれている。
ジャン達も一緒。
他にも、夜に鶏を襲ういたちやテンなどの小動物を、しっかり追い払ってくれたりもする。
ということで、閑話休題。
『そうそう! す~っごく使える猫なんだぁ! その猫もネズミを捕るのは当たり前で、もっと役に立つんだよ~ん』
あれ?
「よ~ん」って言ったか。
つい管理神様の口調が移ったかな?
まあ、いいや。
『喋るのにはびっくりしたけど、まだまだ落ち込む三男、そこでだぁ』
どんどんどん!
『そんなにがっかりしないで下さい。って、ちゃんと三男を慰めてくれるんだな、その猫が』
ここで、突っ込みをするのがソフィ。
『うっわ、やさし~い。悲しんだ私を励ましたり、助けてくれた時の旦那様やジャンみた~い、大好きぃ』
『ありがとぉ、綺麗なお姉さんにそう言われると、旦那様は感激だぁ! ジャンもきっと喜んでるぞぉ! で、さらに猫が言うんだ、私はきっと貴方のお役に立ってみせますよ~って』
『わぁ! ますます旦那様とジャンだ。大大大好きぃ』
『おお、ありがとぉ!!!』
どんどんどん! どんどんどん!
ソフィの応援を聞いた俺は嬉しくて、思わず太鼓を倍、打ち鳴らした。
こうして……
予想以上に紙芝居は盛り上がり、俺と嫁ズは今迄の昔遊び同様、大成功を確信したのであった。