第20話「意外なサポーター」
文字数 2,913文字
市場見学を終えた、子供達は不機嫌であった。
何故なら、物色した欲しいおもちゃを買って貰えなかったから。
おもちゃを熱望する子供達を見て、オベール様が愛息も含め、つい買ってあげようとしたのはご愛敬。
イザベルさんを筆頭に、俺や嫁ズがすぐ止めて事なきを得た。
欲しいものを何でも買い与えるのは、子供の教育上良くない。
だが、アンテナショップに連れて行かれ、お子様軍団の機嫌はすぐに直った。
こちらも、素敵なワンダーランドだもの。
未知の商品が一杯だし、蜂蜜とか、見覚えのあるボヌール村の農産物もあふれていた。
タバサなんか、自分が手伝って作った服がトルソに着せられ、お洒落に飾られているのを見て、感動のあまり泣いてしまったほどである。
そんなこんなで、俺達はお子様軍団へ改めて店内を見せ、いろいろと説明した。
子供達はスタッフのお姉さま達にも可愛がられ、試食もさせて貰い、嬉しそうにしていたのである。
そして一般客向けであるランチタイムの営業終了後……
2階のカフェはオベール家の貸し切りとなり、俺達は昼飯を食べている。
食べているのは、当然名物のハーブ料理だ。
味は相変わらず抜群。
オベール様一家も含め、護衛も一緒。
全員が舌鼓を打っている。
売る予定であるクラリスの風景画もまだ飾ってあって、皆がボヌール村の景色が素敵だと褒めていた。
と、そんな中で、
「うお!」
何か、驚きの声をあげ、夢中になって食べているのは……レオであった。
料理を頬張る愛息へ、
「ほら、レオ。ママの言った通りだろう?」
と同意を促すのは、当然ママのクーガーである。
対して、レオもにっこり。
「うん! このごはん、凄く美味しい! やっぱり怖いのと美味しいのは関係ないんだね」
と、意味深な事を言う。
そう、この教えはママのクーガーから、レオへ伝授された
才能と容姿は関係ないって話。
息子が充分納得した事に、クーガーも満足。
ちらっと、ある方向を見る。
「ああ、そうだ。何だったら、怖いのを我慢して改めて見ろ、もっと納得出来るから」
怖いのを我慢して?
改めて、見る……
そう、カフェの片隅には、コックコートを着た大柄な女性が立っていたのだ。
レオも、ちらっと視線を走らせる。
そして、
「うん、見た! カルメンさんみたいに怖そうでも、料理は美味い。ママは正しい。よ~く分かった」
レオの言う通り、立っているのは本日の調理担当、カルメン・コンタドールである。
そのカルメン、やっぱり怒ってる。
「ぬぬぬ……お前達、またも母子して私をいじりおって……いい加減にしろよ」
憤るカルメンの言葉を聞いても、クーガーは平気だ。
全く動じていない。
「だって、私の言う通りだもの。オーガのようにいかついカルメンでも、料理の才能は抜群、嘘はついていないぞ」
クーガーの物言いを聞いて、俺はつい苦笑した。
まあカルメンは、確かに「いかつい」けど……
以前サキが感嘆したように、コックコートを着込んだ彼女は粋でカッコいいんじゃないの?
まあ、ここまできつく言うクーガーの真意も、実は分かっている。
誤解の無いように言うけど……
本当はクーガー、カルメンの事が好きだ。
だからつい、からかってしまう。
つまり親愛の情って奴。
こういうのって、今回が初めてじゃない。
実は、今迄に数回ある。
パターンはいつも一緒。
冗談交じりに、クーガーが、カルメンをいじる。
カルメンも一応反撃するが、口ではクーガーに勝てない。
いつもやりこめられてしまう。
まあ、所詮じゃれあいで、本気の喧嘩じゃない。
それ故、オベール様とイザベルさんも怒らず苦笑いしている。
でも可哀そうだから、後でまた、カルメンをフォローしよう。
俺がそう思っていたら……
「もう! クーガーママ、いいかげんにして!」
何と!
抗議したのは……タバサである。
クーガーにとっても、子供から注意されたのが、とても意外なようである。
「ほう! タバサ、何か問題があるのか?」
と聞けば、タバサはきっぱりと言い放つ。
「だって! クーガーママも人の事言えない。見た目と中身が合わないわ」
タバサの指摘を聞き、クーガーは少し不快そうに、眉間に皺を寄せた。
「おい、タバサ。私の見た目と中身が合わないって? どういう意味だ」
「ええ、クーガーママって、タバサのママそっくりで美人なのに、怖いんだもの」
「怖い?」
「そう! カルメンさんの事、オーガとか酷い事言ってるけど、クーガーママだって、ドラゴンママって呼ばれてる。だから、見た目と中身が合わないの」
「な!」
珍しく、クーガーが絶句した。
そう、遂に出たのだ。
実はクーガーが、我が家や村でドラゴンママと呼ばれているのは、カルメンには内緒だった。
そして身内の誰かが暴露するとは、クーガー自身全く思っていなかったから。
「え? タバサちゃん。クーガーがドラゴン? 本当か?」
「はい、カルメンさん。間違いなくドラゴンママって、呼ばれています」
タバサはカルメンの質問に、きっぱり答えると、クーガーへ向き直る。
更に、追及が続く。
「クーガーママ。カルメンさんは凄い美人じゃない。今、目の前で見て改めて分かった。私、前にサキママから聞いたの。コックコートがとっても似合って、最高にカッコいいって。お城で見た鎧姿も好きだけど」
「え? タバサちゃん!?」
カルメンだって驚いた。
全く想定外である。
まさか自分に、こんな小さな味方が居たとは。
ここで可愛い愛娘を援護するのは、クッカである。
カルメン同様、クッカもクーガーとは喧嘩仲間。
で、あればクーガーの敵は自分の味方だから……当然カルメンの味方となる。
「うふ! タバサ、良く言ったわ。その通~り。カルメンさんはとても素敵よ」
「クッカさん……」
クッカにもフォローされ、感動しているカルメンへ、またもタバサが言う。
申し訳なさそうに両手を合わせ、頭を提げていた。
ひどく、おとなびた仕草で……
「ごめんなさい、カルメンさん、許してあげて。クーガーママはいつもそう、素直じゃないのよ。でも凄く優しいし、家族以外に、こんなには言わないから」
タバサの衝撃発言を聞き、驚くカルメン。
目が真ん丸だ。
「え? 家族!? 私が?」
「うん! 私には分かるわ。クーガーママったら、本当はカルメンさんが大好きなのよ。家族と同じに思ってる」
「な! クーガーが!? 私をぉ!」
「タ、タバサぁぁぁ!!!」
次々とクーガーの秘密が暴かれ、最後には本心までさらされて……
カフェ店内には、意外な事実に驚くカルメンの声と、慌てふためくクーガーの叫び声が……大きく大きく響いていたのである。