第6話「従士のお値段」

文字数 2,205文字

 商隊のイケメン中年リーダー、ラムジさんが俺を見た。
 ひと言、ふた言話し掛けて来る。
 何故かラムジさんは、俺に期待するような眼差しを向けていた。

 ああ、そういう事か。
 俺の持つスキルは、超が付く便利。
 オリヴィエさんが通訳する前に、ラムジさんの伝えたい内容が分かってしまうから。

「ええっと……ラムジさんは、アルセーヌさんに護衛として王都まで同行して欲しいそうです。ちなみに依頼金は、思い切りはずむと仰っていますよ」

 うん、やっぱり商隊の護衛依頼だ。
 リスク回避の為には妥当な判断。
 俺達は、ゴブの大群をあっという間に屠ったから。
 実力は折り紙つきなのだ。
 
 だけど俺は『ふるさと勇者』として、村の為に仕事中。
 悪いが、王都へは行っていられない。
 我が従士達だって同様である。
 当然「NO」なのだが、断る言葉は慎重に選ばないと。
 出来る限り、角を立てたくない。

「……評価して貰うのはありがたいのですが、俺は同行出来ません」

 俺が返事をすると、オリヴィエさんが「がっかり」してラムジさんへ伝える。
 驚いたラムジさんが、目を見開いて叫ぶ。
 
 どうして? 理由を言え? と言っている。
 ああ、言いますよ。
 実は、こんな時に告げる俺の理由を決めてあるのだ。

「申し訳ないですが、人に雇われるのが苦手なんです」

 俺が苦笑してそう言うと、ラムジさんも苦笑い。
 やっと納得してくれたのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 さあ飯だ、飯! 

 ラムジさん達からは昼飯ながら豪華な宴を催して貰い、改めて感謝の気持ちを伝えられた。
 小遣い稼ぎに行った北のドワーフ村で、深夜宴会した事を何となく思い出す。
 ドワーフの楽器と、音色は全く違うけれど、南国の独特な楽器の演奏付きで歌って踊って楽しい。

 酒を飲めば人となりが分かると言うけれど、飯を食っても同様だと思う。
 
 アーロンビアの人達は、朗らかで優しい。
 皆、良い人達である。
 王都まで、ぜひ無事に旅して欲しいものだ。
 聞けば、今夜は北の村ジェトレに泊まるらしい。
 その後、いくつかの町や村を経由して王都へ行くという。

 昼飯が終わって出発。
 方向が途中まで一緒なので、暫くラムジさんの商隊に同行してから別れた。
 名残惜しそうに手を振る、ラムジさん達を見て思う。
 
 俺が、もしもボヌール村へ来ていなかったらという想像。
 
 前にも考えた事はあるけれど、たまに嫁ズともそのような話をする。
 お互いに巡り会っていなかったら、他の人と結婚していたとか……
 嫁ズ全員が絶対にイヤだと主張する。
 その後は、お約束のイチャタイム。
 夜は……
 
 え? 爆発しろ?
 済みません、仰る通りです。
 
 話を戻すと、運命って、もしあるとすれば不思議だって事。
 出会って別れて、皆がそれぞれの人生を生きて行く。
 死ぬ前に振り返って、大満足とはいかなくても良い。
 「ああ、良かった事も辛かった事もあったなぁ、生まれて来て嬉しいや」そう思える人生を送りたい。

 そんな事を考えながら、俺は大きく手を振った。
 
 結局……
 商隊が地平線の彼方で見えなくなるまで、俺達は見送っていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 収納の魔法で、馬車を戻した俺達はまた旅を続ける。

 ところが……
 ケルベロスとジャンがまた喧嘩をしていた。
 理由は些細な事である。

 俺が商隊の護衛を断わるとラムジさんが意外な申し入れをして来たのだ。
 それは何と!
 俺の従士達を「買い取りたい」という提案だったのだ。

「あの犬と猫、そして馬は素晴らしい。普通に役目を果たすのは勿論、強くて君の代わりの護衛にもなるし、差し支えなければ売って欲しい」

 当然、俺は断わった。
 
 するとラムジさんは具体的な金額まで提示して来た。
 ベイヤールが金貨1,000枚。
 そしてケルベロスが金貨500枚、ジャンが金貨200枚であった。
 これが高いのか、安いのか全く分からない。

 だがジャンにはショックだったのだろう。
 単純に自分についた値段の違いで、ケルベロスと言い合いになってしまったのだ。

『ベイヤールは馬だから分かるけどさ、何でケルベロスが俺の倍以上の値段なんだよぉ!』

『サスガハ、ショウニンダ。ミルトコロヲ、ヨクミテイル』

『何だと! 見る所ってどこが、だよ!』

『フフフ、オマエニハワカルマイ』

『ううう! 畜生!』

 馬車の上で地団太踏んで悔しがるジャン。
 ケルベロスは寝そべったまま、どこ吹く風だ。
 
 俺は少しジャンが可哀想になる。
 ちょっとサービスしてやるか。

『ジャン、今日は狩りは勿論だが、釣りもしようぜ』

『釣り?』

『ああ、東の森の奥に湖がある。そこで魚を釣る。鱒か何かが釣れると思う。その前に狩りもやるから、夕飯は新鮮な肉と魚で豪勢に行くぞ』

『うおおおっ!? 新鮮な肉、そして、さ、魚が食えるって? や、やったぁ~!』

 思わず二本足で立ち上がるジャン。
 ああ、それじゃあ普通の猫じゃないのがまる分かりだ。
 まあ周囲に人も居ないし、可愛いから許してやろう。

 俺はベイヤールに合図を送り、東の森へと向かったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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