第10話「初めての町」

文字数 2,485文字

 途中、いろいろとあったが……
 俺と家族は、救援に来たカルメンの部隊、王都の商隊と共に何とかエモシオンへ到着した。

 とりあえず、入場手続きをする商隊とは、ここでお別れ。
 感謝しきりの商会幹部へは軽く手を振り、捕まえた賊の処理はカルメン達に任せて、俺達は町の正門へ向かう……

 この王国最大の街、5万人が住む王都の正門に比べれば、ずっと小さいとはいえ……
 エモシオンの正門は、ボヌール村のこぶりなモノより、桁違いに大きい。
 そして村を囲う木の防護柵とは、全く違う石造りの頑丈な街壁。

 ふるさとボヌール村と比べれば、全然違う。
 圧倒的な威容を誇るエモシオンの町を見て……
 お子様軍団は、呆然としていた。
 いわゆる、カルチャーショックである。

 暫し、町を眺めさせた上で、俺は子供達を促し、改めて正門へ。

 思えば……
 初めてこの町へ来た時が懐かしい。
 
 あの時、俺はまだ15歳。
 表向きはレベッカ、ミシェルと3人、実は当時女神のクッカも入れて4人で来た。
 大空屋の商品の仕入れの為に。
 当時の門番から高圧的に言われて、低姿勢で入場手続きをしたっけ……

 その頃とは違い、23歳となった俺は、もうエモシオンでお馴染みとなった。
 
 さすがにソフィことステファニーの件は伏せたままだが……
 領主オベール様の妻イザベルさんの義理の息子という事で顔パスとなり、その後、なんやかんやあって、今や領主に仕える宰相……

 だからまず、門番を務める部下のドニがこんな反応。

「おお、宰相! お疲れ様です」

 俺や嫁ズは慣れたものだが……
 先程のカルメンや元冒険者の部下達同様、知らない男が親し気に挨拶するのを見て、お子様軍団は吃驚。

「お、おじさんも、パパを知ってるの?」

 勇気を出して、尋ねたタバサを見たドニが、

「え? パパって? 宰相! もしや、この子達は?」

 と、聞いて来たので、俺は答えてやる。

「ああ、俺の子供達さ」

 ドニは30代半ば、『気は優しくて力持ち』という(ことわざ)を体現している好漢。
 独身だが、とても子供好きだ。

「おお、可愛いですね。おじょうちゃん達、そして坊や達、この町で何かあったら、おじさんに言いな、いいか?」

 初対面のいかつい男がにっこりするのは、子供達にとってはすご~く『微妙』らしい。
 タバサ達は、ドニの問いかけに答えられず、押し黙ってしまった。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「ほらほら、みんな、門番のドニおじさんへ名乗って、こんにちはって言いなさい」

 このままではいけないので、俺は子供達へ、挨拶をするよう促した。
 嫁ズも子供達へ指示を出す。
 挨拶の口火を切ったのは、やはり長女のタバサ。

「こ、こんにちは。タ、タバサです」

 さすがはタバサ。
 噛みながらも、しっかり挨拶。
 礼儀正しくお辞儀をした。
 そして、

「レオ……」
「イ、イーサンだよ」
「シャルロット……よ」

 残りの3人も完璧とは言えないが、何とか挨拶をした。

「ははははは! 良く出来た! 4人共宜しくなっ」

 豪快に笑うドニ。
 一方、お子様軍団にいつもの元気ぶりはなかった。
 借りて来た猫のようにおとなしい。
 再びぎこちなく、頭をぺこりと下げたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 正門で顔見せをし、町の中へ入っても、衛兵を始めとして、俺への声掛けは終わらなかった。
 俺だけではなく、嫁ズへも、アンテナショップの馴染み客から声が掛かる。
 更に、迎えに来ていた数人の従士が俺達を先導、城館へと連れて行く。

 そんな様子を見て、お子様軍団は相変わらず固まっていたが……

 パパの俺と自分のママ達が一緒だから、徐々に落ち着いて来たようだ。
 安心したら、子供達の順応は早い。
 早速、町の観察を始めた。

 当然と言うか、俺や嫁ズへ、どんどん報告&質問をして来る。

「パパ、ママ、凄い人の数! いっぱい居る! ボヌール村よりとても多いわっ!」

「ああ、タバサ、そうだな」
「うふふ、ここはボヌール村よりも、たっくさん人が住んでいるのよ」

 という俺&クッカと、タバサの会話を皮切りにして、

「ママ! さっきパパへ、こんちわって言った、鎧着た人達は? そして前を歩いてる人は?」

「レオ! さっきのは衛兵さ。ほら! 村で遊ぶケイドロで、何をやるかは分かるだろう?」 

 クーガーの説明は、子供にも分かり易い。
 そう、ボヌール村では、相変わらず鬼ごっこの変型ケイドロが流行ってる。
 『ドロ』は泥棒で同じだが、この異世界の『ケイ』は警官ではなく、衛兵なのだ。

「うん! 分かるよ! 町の安全を守るんだね」

「そうさ。そして前を歩いているのは従士だ。似たような格好だけど、こっちはお城に詰めているんだよ」

 という、クーガーとレオ母子の社会勉強的なやりとり。
 そして、

「ママ! パパとママの作ったナイフって、どこで売ってるの?」

 という、息子イーサンに対し、誇らしげな母レベッカ。

「イーサン、アンテナショップよ。出すとすぐ売れちゃうの。明日行くからね」

 また、

「ママ、おじいちゃんとおばあちゃんはどこ?」

「シャルロット、ほら! あの大きなお城に居るんだよ」

 と指さすミシェルと、ママの言う方向をしっかり見るシャルロット。

「わぁ!」

 と、驚いたシャルロットの目は真ん丸。
 こうなると、優しいシャルロットは、自分の『感動』を他の子とも共有したかったらしい。

「ねぇ! みんな見てよぉ! すご~い!!!」

 シャルロットの声を聞き、他の子供達は彼女を見た。
 そして一斉に声を出し、指をさす。

「「「おお!」」」

 指をさした、その先には……
 子供達がこれまた初めて見る、人生最大の建物……
 領主オベール家の城館が、「ぐわっ!」とそびえ立っていたのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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