第8話「テレーズの驚き」

文字数 2,392文字

 リゼットの聞き取り、そして嫁ズの洞察力の結果……『事情』は完全に見えた。
 
 度重なる夫の浮気が嫌になり……
 妖精美少女テレーズは、管理神様の助けを借りて、人間界へ家出して来たのだ。
 
 彼女って、本当は何歳なのか?
 年齢不詳だが……そんな事は詮索するだけ野暮。
 多分、妙齢のレディだろう
 見た目の、お子様じゃない事は確かなんだけど。
 だから、完全に子供扱いではなく、相応の対応はしなくちゃいけない。

 肝心の預かり先だが……
 他の村民へ世話を頼むわけにもいかないので やはり住むのは俺の家。
 テレーズは人間界で暮らした事などないらしいから、慎重に。
 仕事は家での地味な雑用から始まり、子守りをして、まずは人間の家庭って奴に慣れて貰う。
 次にお使い等をして貰って、村の雰囲気や生活にも少しずつ慣れさせる。
 頃合いを見て、大空屋の店番で徐々に村民へ顔を覚えて貰うという流れ。

 これって、ソフィことステファニーやグレースことヴァネッサが、ボヌール村へ移り住んだ時と同じ。
 まあ、クッカやクーガーが来た時もほぼ同じだった。

 今回は何たって管理神様案件でもあり、基本的にテレーズの事は、全員でケアもしくはフォローする事に決めた。
 また嫁ズとも相談した末、生活に慣れるまで、家庭内では『メイン担当』ってのも付ける。

 それは、さっき言ったソフィとグレース。
 ふたりがこなした『メニュー』も残っているし、実務経験もある。
 テレーズは妖精だからメイン担当は元女神のクッカや元女魔王のクーガーでも良かったけど、ちょっとした理由がある。

 ソフィとグレースは元々義理の親子、そして超が付く犬猿の仲だった。
 それが紆余曲折あって、今では俺の嫁という同じ立場。
 ふたりとも貴族出身という事もあり、今やとても仲良しになった。
 まあ年齢との兼ね合いで、実の姉妹みたいになっている。

 テレーズの件でチームを組み、もっともっと親密になって貰おうというのが俺の秘密作戦。
 テレーズは王族か、貴族らしいから……元貴族のソフィとグレースなら相性も良いだろう。
 仕事のキャパの問題もあって、クッカとクーガーをサブ担当という位置づけで合わせて頼んだのである。

 これでバックアップ体制は万全。
 テレーズは明日いよいよ『デビュー』する事となったのだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 翌朝……

 朝起きる時もひと苦労。
 というのは、テレーズって寝起きがあまり良くなかった。
 無理やり起こしたら……寝ぼけて、唸って、最後には怒り出す始末。

 だが、ソフィとグレースは根気よくやってくれた。
 後で聞いたら、「何だか昔の自分を見ているみたい」だって笑ってた。

 そのうち……テレーズは何とか起きた。
 目も完全に覚めて『正気』に戻ってくれたので、昨日から持ち越しになった挨拶へ行く。
 行き先はジョエル村長宅、つまり義実家。
 正式な村民になるのなら、俺みたいに全村民の前で挨拶とかだけど……
 テレーズは暫く『お預かり』するだけだから、それは無し。

 俺とリゼット、そしてテレーズの3人で行ったが、ついでにリゼットとの娘フラヴィも連れて行く。
 挨拶をした俺達に対して、義両親のジョエルさん、フロランスさんはご機嫌であった。
 朝から可愛い孫の顔が見れたのと、あわよくば新しい住人が増えるのではという期待からだ。

 ジョエルさんとフロランスさんは、テレーズに対して、村での生活の勝手や規則など簡単な説明をしてくれた。

 最近ボヌール村には、若い村民が少しずつ増えて来た。
 生活だって少しずつだが、俺が来た頃よりは豊かになっている。
 魔物の襲撃も殆どないし、領主のオベール様が妻イザベルさんの助けもあって善政を敷いている。
 だから、無理な税金の取り立てもない。

 言う事なし! という雰囲気なのだ。

 そんなこんなで挨拶も無事に終わった。
 テレーズの『デビュー戦』は、我が家の家事全般の手伝い、そして子守りである。

 この日、当初の予定では俺、クーガー、レベッカと東の森へ狩りに行く予定だった。
 それが今朝、ジョエルさんへ挨拶に行く前に、ある事件?があった……
 自分のデビュー戦に際し、俺が『不参加』なのを知ったテレーズが泣きそうな顔で『おねだり』したのだ。

「ケン、一緒に居てくれないの? 貴方は私の……お父さん、お兄さんじゃあないの?」

 切ない目で訴えるテレーズ。
 お人形みたいに、可憐な少女のおねだり……
 男なら……ほぼ負ける。

「おいおい……」

 でも本当は、テレーズって大人の女性。
 ここで「何だよ、良い年して、勘弁してよ」とか突き放すのは簡単だが、そんな事はしない。
 テレーズは外見だけではなく全てにおいて10歳の少女になりきる事に決めたらしいのだ。
 であれば、そんな事を言うのは愚の骨頂。

「良いじゃない、旦那様。一緒に仕事してあげれば」
「そうそう! ダーリン、今回の狩りは私達で行くからさ」

 空気を読んでくれて、クーガーとレベッカも気持ちよく、切り替えてくれた。

 何か、嬉しい。
 特にレベッカなんか、指折り数えて今日の狩りを楽しみにしてくれていたから。
 優しい嫁の心遣いに涙が出て来る。
 だから……抱き締めてチューっとご褒美だ。
 クーガー、レベッカふたりとも。

 でも、
 そうなると、嫁ズ全員とチューって事になる。
 正当な理由なしの不公平は、絶対にNGだから。

「うわ、仲、良いのね……」

 朝から、あまりの熱々ぶりに、テレーズは吃驚。

「でも……羨ましい」

 そう呟くと、
 テレーズは俺達の愛の交歓を、微笑み、且つ微妙な表情で見守っていたのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み