第3話「オベール様の落胆」
文字数 3,115文字
道中の護衛役は、村で戦士兼務の俺とレベッカ、そして拳法の心得があるミシェルという事になる。
お供の従士は、
ふたり以外の従士、魔獣ケルベロス、妖獣グリフォンのフィオナは、村で留守番をして貰う。
魔法が使える嫁のクッカ、クーガーと共に『万が一』の場合に備える。
長女のタバサ以下、第一世代の子供達も一緒に来たがったが、表向き安全面で問題がある。
俺が転移魔法を使うのは絶対に内緒。
しかし、普通にする旅ならば、相変わらず山賊などの暴漢が出る危険性もあるからだ。
子供が多いと、戦う際に、相手から『弱点』として突かれてしまう。
なので、ドラゴンママことクーガーが強面で説得して黙らせた。
余談だが、例のテレーズこと妖精女王ティターニア様が帰ってから、親に反抗的だったお子様軍団は何故か大人しい。
俺が不思議に思ってタバサへ聞いたら、理由があった。
ティターニア様ったら「また来るから、それまではパパやママの言う事を良く聞いてね」って、約束したそうだ。
ティターニア様、ありがとうございまっす!
管理神様同様、良い仕事をしてくれますね。
感謝!
というわけで、閑話休題。
いつもの通り、ボヌール村を出て少し走ると、ベイヤールの曳く馬車ごと転移魔法発動。
そして、エモシオンの町付近にパッとスキップし、何食わぬ顔で正門へ……
朝、出て来たから時間はまだお昼前。
事前に手紙をジャンに届けさせていたから、オベール様も到着時間を把握しており、受け入れの準備はバッチリ出来ている。
以前にも言ったけれど、俺達はもうオベール様の親族として『顔パス』。
爽やかな笑顔を向けただけで、スムーズに入場した。
そして顔なじみの衛兵に先導して貰い、城館へ。
これも、いつも通りである。
ちなみに今回は、エモシオン帰省時に常連ともいえる、ソフィことステファニーは同行していない。
理由は後で説明するけれど……
俺達のメンツを見た途端、案の定、オベール様は残念そうな表情。
一行の中に、来訪を心待ちにしていた愛娘が居なかったから。
露骨にがっかりしてため息をつく様子を見ると、心の底から娘を愛しているって感じだ。
これまた、いつもの宿泊用の客間に案内された俺達は、荷物を置き、着替えて大広間へ。
既にオベール様一家は、自分の席に着いていた。
元気なく項垂れているオベール様は、本当に分かり易い。
ステファニーに会えなくて、全く元気がないオベール様を、妻のイザベルさんと息子のフィリップが一生懸命慰めている。
深い家族愛を感じ、見ていて何かホッとする。
とても微笑ましい光景だ。
そしてオベール様ったら、開口一番、お決まりのセリフが出た。
結構な、怒りの波動が伝わって来る。
「婿殿! な、何故ステ……い、いやソフィが居ないのだ!?」
つい本名のステファニーと言い掛けて、オベール様は手を振りながら、慌てて言い直した。
これから昼食だけど、貴族の食事なので、事情を知らないオベール家の使用人が給仕をする。
なので、周囲を良く見ずに、ステファニーの名前をやたらと出すのは厳禁なのだ。
何たって公式には、『王都で行方不明』となっているのだから。
いきなり発見されて、本名に戻すっていうイベントも一応は考えたけど……
王都の関係者に知られたりすると、行方不明の理由や今迄の状況等を説明するのが面倒。
加えて、当人のソフィが今のままで良いって言うから、俺も強要はしない。
「ええ、オベール様、申し訳ありませんけど、ソフィは今回留守番です。体調とかは全く問題なくて、子供が出来た別の嫁の世話をしたいと残ったんですよ」
俺が理由を言うと、オベール様ったら吃驚してる。
「え?」
「本人がどうしても、って言い張り、今回は村に残ったんです。後でちゃんと説明しますから」
「そ、そうなのか……ま、まあ元気ならば、安心だが……」
と言いつつ、オベール様は納得していないようだ。
ソフィは、絶対父に会いたい筈なのに何故来ない?
その、嫁とやらの方が大事なのか?
って、険しい顔に書いてある。
「ええ、とても元気ですよ。安心して下さい」
ソフィの健康面が問題ない事を説明しても、オベール様は元気がない。
リゼット以下嫁ズは『理由』を知っているから、敢えてどうこう言わない。
またオベール様の妻イザベルさんも、いちいち細かい事を言わない人なので、にっこり爽やかに笑っていた。
幼い為に状況が判断出来ないフィリップが、いつも来る大好きなお姉ちゃんが居ないと、きょろきょろ探していた。
「…………」
無言のまま、オベール様は再び俯いてしまった。
この食事が終わってから、いろいろな話をして、この人を凄く喜ばせてやろう。
俺はそう決めて、食事を摂り始めたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼食後……
俺はオベール様を誘う。
ふたりきりで、話がしたいと伝えたのだ。
こんな時、イザベルさんはさすがだ。
とても良く出来た奥様である。
これは『大事な話』だと、すぐに状況&事情を察してくれた。
俺に対して何も聞かず、自分の娘ミシェルを含めた俺の嫁ズをまとめて、自分の居間へ連れて行ってくれた。
ちなみにフィリップは、『男同士』と聞いてパパと一緒に居たかったようだが、イザベルさんがこれまた強引に連れて行った。
という事で、俺はオベール様とサシで、彼の書斎にて話す事となった。
少し時間が掛かりそうだと俺が告げると、オベール様は大きめのポットとカップを持って来るよう使用人へ命じる。
暫くするとお茶の手配が済み、使用人は引き下がった。
俺はオベール様のカップにお茶を注ぎ、次いで自分のカップにも注ぐ。
「さて、改めて話しますね」
「…………」
俺が話しかけても、オベール様は無言である。
改めて何を話すのかという、怪訝な表情で俺を見ていた。
「俺にまた子供が出来ました。8人目の子供になります。ソフィ……いやステファニーは妊娠したその母親と特に仲が良いんです。母親の『つわり』が酷いので今回は面倒を見ると村に残ったのですよ」
「ううむ…………」
「話は分かった」という雰囲気だが、オベール様は不満そうだ。
普通なら、「おお、子供が出来たんだな、おめでとう!」という祝いの言葉があって良い筈なのに反応がない。
今のオベール様に、『そんなどうでもいい事』はアウトオブ眼中。
ステファニーの方が、気にかかる。
オベール様にとって他人である、俺の嫁の看病をする愛娘の行動が全く理解出来ないのだ。
いくら特に仲が良くても……看病なんて他の誰かに任せれば良いじゃないか?
何故、実の父である自分との再会より大事なのか?
という、疑問の気持ちが強いらしい。
今回、俺が『大事な話』をする事を決めたのは、その母親の妊娠が理由である。
だが話は簡単ではないし、リスクがある。
大きな覚悟を持って、オベール様へ告げなければならない。
「では、これからオベール様……いや、親父さんにとって大事な話をします。落ち着いて良く聞いて下さい」
俺はそう言って、まっすぐオベール様を見つめたのであった。