第3話「クッカの幸せ」
文字数 2,057文字
ボヌール村の人々は、あっという間に夢中になってしまった。
俺達が『お披露目』をしてからというもの、毎日誰かがルールを聞きに来た。
当然、一緒に遊ぼうと誘いも来る。
俺もケイドロは大好きだが、さすがに仕事そっちのけはまずい。
なのでブレーキはかけたが、村民は結構熱心。
ふと見ると、毎日誰かが農地で遊んでいる。
子供だけ、または年寄りと子供というのが多い。
だが大人だけというシュールな光景も目撃した。
やはりというか、参加者は俺の嫁ズと俺の子供達が一番多いのは当然かも。
こんなに『ケイドロ』が流行った理由は、たくさんある。
この異世界に、追いかけっこ自体は元々あった。
普段から、農作業で身体を鍛えている村民の子供にはお馴染みの遊びだ。
そんな追いかけっこに、今迄に誰もやった事のない新味が加わったからだと言えよう。
例えば……
単なる追いかけっこではなく、衛兵と泥棒という役柄になりきる事。
これは、あくまで私見だけれど……
人間は自分とは違う人生に憧れる。
だから衛兵と泥棒という極端な人生をやってみたくなる。
普段、地道に働くボヌール村の村民なら尚更だ。
他には?
うん!
かくれんぼがミックスされ、変化がある事かな。
想像してみて。
どこに潜わんでいるか分からない、凶暴な泥棒を探す町の衛兵になる。
ドキドキ感が堪らない。
村中に隠れると探すのが大変だから、隠れる場所は農地に限られてすぐに見つかるけど……
そもそも衛兵が泥棒を捕まえるって本当なら、とっても危険な仕事。
だけど、これは所詮『ゴッコ』
泥棒役である俺や『じいじ』の人相が、いくら悪くても安全。(笑い)
楽しさ以外は、皆無でしょう。
そして、衛兵役が捕まえた泥棒役の者を……
何と、救出する事も出来る!
というルールがとても斬新で受けた。
本来、泥棒はいけない事。
他人の物を盗むなんてとんでもない犯罪行為。
子供達には厳しくそう教えてある。
だが、これも所詮は『ゴッコ』
ケイドロで捕まった大好きな兄や姉、もしくは可愛い弟や妹を助ける。
普段は助けて貰っているパパやママを逆に助け出す。
それって、子供には凄い経験。
じいじや友人も同様。
捕らえられた大事な肉親や仲間を助けるという行為が、元々しっかりした村の連帯感を更に強くしたのだ。
すっかりケイドロに、はまったクッカ。
俺を見て、目を細める。
何か、言いたいようである。
「旦那様、私、嬉しいんです」
「嬉しい? 何がだい?」
「はいっ! ケイドロをすると自然に身体が動きます。考える前に動いてしまうのです」
「そうかっ!」
「うふふっ。きっと憶えているのですよ、人間のクミカとして旦那様と昔遊んだ事を!」
クッカには、クミカの記憶がない。
しかし、俺に対する『深い思い』だけは残っていた。
同様に、身体にクミカの記憶がほんの少しだけでも残っていたら……
クッカの持つクミカの記憶は、全て失われてはいない。
掘り起こす事が出来る。
鮮明には思い出せないけど……
方法さえ、分かれば!
これって、素晴らしいな。
クッカは、新たな幸せを感じる方法を見つけた事になる。
嬉しいだろうな、クッカ。
でも、俺だって嬉しい。
凄く嬉しいよ。
俺は思わず大声で叫んでしまう。
「クッカ! 良かったなぁ!」
「はいっ! 旦那様大好きっ! クーガーも大好き! そして皆、ありがとうっ!」
クッカは満面の笑みを浮かべていた。
傍らに居るクーガーも笑顔だ。
自分の『分身』であるクッカの幸せは、自分の幸せにもなるのだから。
こうなれば、もっともっと幸せにならないと。
お約束とばかりに、クーガーが呼びかける。
「じゃあさ! もっと一杯遊び、覚えて楽しもうよ」
クーガーの提案に対して、嫁ズは当然大賛成。
子供と一緒に身体を動かす遊びには、大賛成のレベッカが檄を飛ばす。
「そうそう! ダーリン、クーガー頼むわね。もっともっと遊ぶぞぉ!」
「「「「「「賛成!」」」」」」
実は、俺とクーガーで次に『提案』する遊びに関しては考えてあった。
ずっとケイドロばかりやっていても、いずれ飽きてしまうと思ったからだ。
俺は、新たな遊びを提案する。
いろいろと説明して行く。
クーガーは傍らで、「うんうん」と頷いていた。
嫁ズの反応は案の定、興味津々であった。
「何それ!? うふふ、おかしいっ!」
「何? ダーリン、教えて。何とかさんって、一体誰なのよ?」
「変な遊びだけど凄く楽しそう!」
俺とクーガーが提案した昔の遊び第二弾!
それは、これまた異世界にはなかった……
『だるまさんがころんだ!』であったのだ。