第3話「意外な展開」

文字数 2,622文字

 祭儀を執り行う感じの部屋……ストレートに『召喚の間』と言うらしいが……
 俺はフレデリカと一緒にその部屋を出た。

 ここはどこかと聞くと、アールヴの長ソウェルの住まう屋敷だという。
 そう、さっきフレデリカが言ったソウェルとは名前ではなく称号。
 一族を束ねる、最高責任者だそうだ。

 閑話休題。

 屋敷と言っても広大……
 王宮に近い規模であり、壮大壮麗と言う言葉がぴったりである。
 そして廊下に出て分かった。
 外は真っ暗。
 フレデリカに聞けば、今は深夜だと言う。

 召喚の間から出た廊下に、ずっと人影はなかった。
 普通は夜でも護衛が居るのに。
 どうやら、フレデリカが勇者召喚に集中出来るように人払いがされていたようである。

 俺は気の遠くなるような長い廊下を歩く。
 暫し歩くと、漸く人が居る。
 といっても、当然だが全員アールヴだ。

 そしてとうとう目的の部屋へ到着した。
 フレデリカがノックをすると返事があり、中は書斎らしき広い部屋である。
 どこかの、大型図書館くらいはある。
 四方を天井まで届くような書架が置いてあり、全てに本がぎっしりと詰まっていた。
 そこには老齢のアールヴと壮年と見えるアールヴのふたりが待っていたのだ。

 俺にはピンと来た。
 フレデリカと近い波動を放っていたから。
 彼等はフレデリカの身内だと。

 早速フレデリカから紹介される。
 案の定ふたりは、フレデリカの祖父と父であった。
 ふたりとも俺が女神ケルトゥリの代理と言う事で跪いている。

 祖父の方はアールヴの長、いわゆる総帥であるソウェル。
 名をシュルヴェステル・エイルトヴァーラと名乗る。
 放つ波動で分かるが、俺でも臆してしまう魔力を持つ実力者だ。
 後で聞けば、7千年という凄まじい時間を生き抜いているそうだ。
 おまけのように言って申し訳ないが、父もマティアスと名乗り、中々の力を持っていた。
 まあそれだけシュルヴェステルの力が突出しているわけなのだが。
 
 そのシュルヴェステルが俺を見て言う。

「ふうむ、ケン様は凄まじき力をお持ちだ……その力で……貴方なら我が孫を助けられる」

「父上、貴方がそこまで仰るとは驚きだ。とんでもない力をお持ちなのですか?……この勇者ケン様は」

「うむ、これまで召喚した勇者の中では抜きんでておる」

 やはりアールヴナンバーワンの実力者シュルヴェステルの眼力はさすがだ。
 俺が持つ、レベル99の力を見抜いたみたい。

「で、これから俺は何をすれば良いのですか?」

 いつもの言い方で返すと、シュルヴェステルとマティアスは驚いて顔を見合わせた。
 背後ではフレデリカが笑うのを我慢している。
 どうやら、俺の言葉遣いが原因らしい。
 ざっくばらん過ぎるのが、変に聞こえるようだ。
 
「ふうむ……ケン様はどうやら何かにつけて規格外の方らしい……詳細はフレデリカに聞いて欲しいが、手短かにお伝えしましょう」

 シュルヴェステルは苦笑してそう言うと、俺を召喚した経緯を話し始めた。
 
 要約すると……

 次期ソウェルは世襲ではなく、有力家いくつかの中から最も適した者が継ぐ。
 現在フレデリカは最有力候補。
 但し、ソウェルになる為には誰にでも誇れる『実績』を作らなくてはならない。
 加えて言えば、実績は他の者の助けを借りずに単独でやり抜かねばならぬとも。

 なのでつい聞いてしまう。

「単独で? なのに俺が手助けしても良いのですか?」

「はい、召喚した存在は本人と同等とみなすので問題ありません」

 シュルヴェステルは笑顔で答える。
 ようは召喚魔法も本人の実力だから、呼ばれた俺を使いこなすのも実力の内というわけ。

「もしやらねばならぬ事があるのなら急いだ方が良い。俺は期間限定です」

「「「え?」」」

 驚く3人。
 話を聞けば、今日はゆっくり休んで貰って、翌日晩餐会っぽい歓迎会を執り行おうと考えていたらしい。

 いやそんなに悠長な事では駄目だろう。
 時間の流れは違うだろうが、俺が見ている夢はいずれ醒める。
 で、あれば俺はその時点で元の世界へ引き戻されるから。

「多分、ケルトゥリ様が与えてくれた時間は限られています。俺はいずれ元の世界へ戻る事になるでしょうから。なのでそちらの準備が出来たら、すぐ実行に移したい」

「わ、分かりました……では……フレデリカ、時間も時間だ……お前の部屋へケン様をご案内して詳細を説明するように」

「は、はい、お祖父様」

 祖父の指示に対して、何故か噛むフレデリカ。
 何故……だろう?
 慌てている。
 何か隠しているのか?

 こうして俺は、とりあえずフレデリカの部屋へ行く事になったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 フレデリカの部屋はお嬢様らしく豪華。
 何と!
 5間続きの凄い部屋……調度品も高価そうなモノばかり。
 入ると、フレデリカが廊下に面した扉に「がちゃり」と鍵をかける。

「え? どうして鍵をかけるの?」

「べべべ、別に、た、他意はありません。じゃ、邪魔者が入らないようにと」

 邪魔者……ねぇ。

「こちらへ……」

 フレデリカに案内された部屋は……何と、寝室であった。
 ちなみにシーツは、女子オーラ全開の『どピンク』
 綺麗な色だから、俺、ピンク大好きだけど。

「どうして? 寝室?」

「…………」

 俺の問いに、フレデリカは何故か答えなかった。

 ちらっと見たが、フレデリカの部屋には祖父の書斎によく似た書斎もある。
 そこには応接も……
 説明はそこで出来る筈だ。

 なのに、どうして???

「ケケケ、ケン様!」

「何?」

「そそそ、そこへ座って、いいい、頂け、ままま、ますかっ!」

 盛大に噛んだ上、大きな声で叫ぶフレデリカ。
 それも座れと指示されたのはベッドの上。
 やっぱり変だ……何か、ある。

「…………」

 無言のまま、フレデリカは着ていた革鎧を脱ぐ。
 そして……あっという間に、あられもない肌着姿に!

「おいおいおいっ!」

「ゆゆゆ、勇者ケン様! わわわ、私を抱いてくださいましっ!」

 真っ赤になって立ち尽くす肌着姿のフレデリカ。
 そんな彼女を、俺は呆然として見つめていたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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