第43話「意思確認」

文字数 2,118文字

 フィリップがボヌール村へ来て、早や1か月が経とうとしている。
 そろそろ……
 俺と嫁数人が、エモシオンへ行く定期便の『時期』となる。
 嫁ズの想定メンバーはこの前行かなかった、ソフィ、クラリス、サキ。
 そしてレギュラーのミシェル、計4名。

 まあ、今度は一緒に行く商隊も居ない。
 つまり、護衛なしの旅となる。
 だから、いつも通り俺達ユウキ家だけの必殺技。
 俺の転移魔法を使い、「ほいっ」と行く。

 え?
 フィリップを、どうするのかって?
 もし彼がエモシオンへ「帰りたい」と言えば同行させ……道中は、魔法で寝て貰う。
 まだ簡単に、俺の全てを『カミングアウト』は出来ないから。

 そんなある日。
 ボヌール村へ来る前から、フィリップに望まれていたから……
 いろいろ調整をして、俺は彼とふたりきりで話す事にした。
 時間は夕食後で、場所は俺の個室……

 当日フィリップは、村の子供達から誘われた遊びもきっぱり断り、たっぷり昼寝をしたという。
 俺との話が弾み過ぎ……
 万が一夜更かししても、眠くならないよう、しっかり備えたらしい。

 さすがだな、フィリップ。
 その気持ちに応えて、存分に話そう。
 「存分に」と言っても、俺が言えない事はたくさんあるけど。
 本当に御免な。

 さてさて、フィリップとふたりきりで話すシチュエーションは、以前エモシオンの城館で話した時と全く同じ。
 今回も紅茶、そしてフィリップの好物となった梨の蜂蜜漬けまで用意した。
 お互い長椅子に座り、紅茶をひと口すすれば、もう準備万端。

 まずは一番大事な残留? への意思確認を行う。

「フィリップ、ボヌール村はどうだい?」

「はい! 凄く楽しいです。働くのも学校も、遊びも全部!」

 ああ、良かった。
 フィリップ、お前、ボヌール村をとても気に入ってくれたんだな。
 まあ、毎日あんなに、はっちゃけてる様子を見れば、聞かなくとも分かるけどさ。

「おう! じゃあ、改めて聞こう。お前がエモシオンへ帰る日にちなんだけど……お父上は、お前に少しでも早くエモシオンへ帰って来て欲しいみたいだぞ」

 一応、オベール様達というか、オベール様の意思を伝える。
 
 ママのイザベルさんは、帰宅でも滞在延期でも、どちらでも良いという感じだけど……
 息子が可愛くて、仕方がないパパは……
 「とても寂しい」と俺へ半泣きで嘆いていたのだ。
 
 父親が早い帰宅を望んでいると聞き、フィリップは驚く。

「父上が? そ、そうなんですか?」

「ああ、お前が居なくて寂しいんだろうな」

「…………」

 自分の素直な気持ちと、両親への愛が必死に戦っているのだろう。
 フィリップは唇を噛み、黙り込んだ。
 でも彼の意思確認はしないといけない。

 俺は再び尋ねる。

「フィリップ、どうする? このまま村で引き続き暮らすか? それとも帰るか?」

「兄上は? どう考えてます?」

 おお、そう来たか。
 多分もう自分の中では意思決定しているんだろうが……
 俺の意見も参考に聞く。
 そして上手く使う。

 まもなく7歳になる少年としては、なかなか素敵な対応だ。

 ならば俺も、『事実と意見』を述べようじゃないか。
 事前に2か月滞在の了解は得ている。
 あくまでも、フィリップの意思尊重という前提で。
 息子大好きオベール様は寂しがっても……
 影の領主イザベルさんの了解は得ているから、問題ないと思う。

「一応……まる2か月までの滞在は、お前の両親に許可を得ている」

「…………」

「そして俺は……もう少し村で暮らした方が良いと思う」

「じゃあ兄上は!」

「ああ、村に居て欲しい。だが最後はお前の判断だ」

「あ、ありがとうございます。でも最後は、僕の判断……ですか?」

「うん! お前が残りたいと希望を出せば、あと1か月OKをくれと、交渉はする」

「あと1か月……」

「ああ、多分OKは出ると思うぞ」

 多少、不安はあったのだろう。
 両親から強制的に、帰還命令が出る事に。

 だが俺の話を聞き、その恐れは払拭された。
 安堵したフィリップの表情が、みるみるうちに明るくなる。
 そして、食い入るように俺を見る。

「だったら、お願いします。出来ればもっともっと村に居たいんです」

「分かった」

 俺も笑顔で返すと、フィリップは真剣な表情で、

「アンリ兄からも、この村の方が騎士の修行になると言われました」

「騎士の修行?」

「ええ、王都の変な家へ修行に行かされるより、全然良いって」

「成る程、了解」

 思わず苦笑いするのを、俺は何とか堪えた。

 あのさ、王都の変な家って……
 オベール様の親友でアンリの実家、バルテ騎士爵家だろう。
 まあアンリの話を聞く限り、確かに『変な家』だ。

 あの家で『性悪兄弟』から、いじめられるくらいなら……
 村でいろいろ学んだ方が良いと言う、アンリの意見に俺も激しく同意だ。

 こうして……
 フィリップのボヌール村滞在は、まる2か月となったのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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