第16話「就職&査定という名のイベント②」
文字数 2,027文字
「自分達には全然関係ない」と思っていたらしい。
そりゃ、そうだろう。
新たな人材を採用する為のイベントなんだから。
だから俺は考え、手を打った。
大会及び文官向きの小イベント全てを開放し、既存の生え抜き部下でも自由に参加OKとしたのだ。
加えて、「真面目に全力でやれば、負けてもマイナス評価はなし。成績上位者は、給料の査定に反映させる」と前もって触れておいたので、結構な数の参加者があった。
現家臣へ参加を許した最大の狙いは、新味の発見。
補足説明すれば……
体力自慢が、すもう大会やアームレスリングに参加するのは当たり前じゃない。
だが、もしかして賞金や給金アップを狙って、文官イベントに参加する者も居るかもしれない。
能力は勿論だが、その前向きな姿勢も買える。
極端にいえば、町を守る衛兵から、超が付く優秀な文官候補が見つかるかもしれない。
料理を作る使用人が、実は凄く強くて、オベール家でも屈指の騎士になるかもしれない。
そういう新たな適性が、このイベントで判明するかもしれないのだ。
「もし新たな部署で適性があったら、更に給金が上がるかも」とも言ったので、部下達のモチベーションは凄く上がっていて、良い雰囲気なのだ。
え? 俺?
肝心の宰相の俺は参加しないのかって?
実は……参加する。
だが、目立つ『すもう』ではなく、アームレスリングのみ。
それも「さくっ」と軽く実力を示す程度にする……
よくよく考えたら、部下の長たる宰相が少しはやらないと、口ばかりだと思われ、「舐められてしまう」のは必至。
でも圧倒的な強さなど見せて、目立ち過ぎたら、逆効果になる。
そこそこ栄えてる、辺境の領地が良い。
王国から見て、『ほどほど』がベストなのである。
更にオベール家の採用に関しては、円滑かつ応募者の身元を明確にさせる趣旨の為、ある方法を実施する。
実はイベントに参加させる際、簡易で構わないので、事前に履歴書&職務経歴書に準ずる書類も書いて貰い、提出させる。
いわゆる『書類選考』も行うのだ。
万が一の経歴や年齢の詐称については、俺が面接時に、相手の心を読んで見抜くというカラクリである。
俺がこういったアイディアを出したら……
オベール様は勿論、イザベルさんが大乗り気。
完璧だって褒めちぎった。
特に「すもうって何?」 という話になったから、試しに俺とアンリでやって見せた。
裸で『まわし』を締めて組み合うなんて事はせず、普通に革鎧を付けて戦ったんだけど。
当然アンリは、『すもう』なんか全く知らないから、大混乱していた。
投げたり、持ち上げたり、一方的に圧倒したから、ちょっと可哀そうだった。
でも……
俺とアンリの戦いは「見た事もない格闘技で、とっても面白い!」って、イザベルさんに大うけしてしまった。
はっけよい、残った!
とか、掛け声も教えたら、凄い大声で声援を送っていたもの。
こうなると、イザベルさんから話を聞いた我が嫁ズも、武官系のイベント、『すもう』とアームレスリングは、ぜひ見学したいって熱く希望を出して来た。
確かに……
俺の前世でも、「私、格闘技が大好きなの!」って女子は多かったような気がする。
ただ、アンテナショップの仕事そっちのけも困る。
主催者のイザベルさんはともかく、嫁ズに関しては、すもうは決勝戦だけ、アームレスリングは俺が参加した時だけ、見て貰う事にした。
「何よ、ケチ」って言われたけどね。
一方、エモシオンの町側では、中央広場に市場、商店会それぞれの応募者用ブースがセッティングされ、希望者に来て貰う形となった。
俺もさすがに手が回らないから、段取り、採用の判断など、基本はお任せに。
もしも変な輩を採用したら、責任は自分達で取って貰うのだ。
ちなみに、アンテナショップの応募は、店舗予定の建物で行われる予定。
そしてこちらも、中央広場を中心に様々なイベントが行われる。
当然、いろいろなアイディアが盛り込まれた。
主に、特設市場、屋台、蚤の市、大道芸、楽隊演奏である。
特設市場は、食料品を始めとして、様々な商品を特価で売る。
屋台は、エモシオンの郷土料理を楽しんで貰うという趣旨。
蚤の市は、今でいうフリーマーケット。
出店を希望した町民だったり、業者が小規模なブースを出すのだ。
そして大道芸や楽隊の演奏では、子供にも楽しんで貰う。
元々、この異世界は娯楽がとても少ない。
ここまでやって、人が来ないわけがない。
どうやら、告知もうまく行ったみたいで……
『お祭り』が開催される数日前から……
エモシオンの町は、訪れた人で一杯になったのである。