第25話「ラスボス攻略」
文字数 2,588文字
直近では、あの妖精美少女テレーズことティターニア様が同じ流れで村にバッチリ慣れたから、もうマニュアルが出来上がっていると言って良い。
※妖精美少女の家出編参照
サキの最初の仕事は、家での地味な雑用から始まり、子守り等。
まずはユウキ家に慣れて貰う事から。
次にお使い等をして貰って、村の雰囲気や生活にも少しずつ慣れさせる。
頃合いを見て、大空屋の店番で徐々に村民へ顔を覚えて貰う、もうお馴染みの作戦である。
『新入りさん』が入る時は、いつも嫁ズの中から『担当』が選ばれる。
今回のサキ担当は……何と、クーガー。
初めて我が家で、嫁ズ全員に会った時……
サキは目が真ん丸、吃驚して黙り込んでしまった。
後で、「そっ」と聞いてみると……全員予想以上の凄い美人で、圧倒されてしまったとの事。
サキが落ち込むと可哀そうだから……
ふたりきりになってから、慰める為に、サキのほっぺたに「ちゅ」してやった。
「俺はお前を愛してる」って意思表示と、
「お前だって、負けないくらい凄く可愛いよ」って意味で。
「ケン、唇にもキスをウエルカム」と、サキに言われたが、
「もう少し我慢だ」と言ったら、またもぶ~たれた。
巣ごもり前の栗鼠のように頬を膨らませ、またまた思いっきりむくれてしまったが、まあ可愛いものである。
閑話休題。
案の定というか、恐るべきドラゴンママ、クーガーの指導はやっぱり厳しかった。
特に厳しかったのは、サキの言葉遣いを中心とした
びしびし叱られるサキはといえば、毎日お約束の半べそ。
しかしクーガーがサキの担当になったのは、『元の世界の話題』という共通項がある為である。
元々、楽天的で明るい性格のサキ。
すぐにクーガーを実の姉のように慕い、ぴったり息が合うようになった。
良い頃合いだと思った俺は、『特別イベント』を仕掛けようと決めた。
サキに、もっともっとユウキ家へ溶け込んで貰う為だ。
俺の考えというのは……何でも良いから『師匠』のクーガーに勝つ事。
可能性は低いが、もしサキが勝ったら、ユウキ家で大うけするのは確実だから。
そこで突発で、イベント発生をさせる事にした……
「ドラゴン級の『ラスボス』クーガーを『攻略』すれば、サキのゲームはいきなりクリアしたも同然だぞ」
ある日の夕飯時に、俺がふざけてそう言ったら……
サキはうけて大笑い。
ノリノリになった。
「いえ~、ドラゴンママを倒しちゃえ」などと言い出す始末。
当然、クーガーはしかめっ面。
案の定、意地になって、何らかの方法でサキと『勝負』しようと言い出した。
ユウキ家と村に、徐々に慣れて来て……
やや『暴走気味』のサキを、今のうちに少し「しめておこう」という意図なんだろう。
すかさず、クーガーの『天敵』であるクッカが手を挙げて、サキの味方宣言をする。
一方のクーガーは、親友レベッカとタッグを組んだ。
うん、タッグマッチ。
凄く盛り上がって、良いんじゃない。
最近また流行っていた、じゃんけんのゲーム『あっちむいてホイ』で決着をつけようという結論になった。
さあ、勝負開始!
「あっちむいてほいっ」
「ほいほいほいっ!」
下馬評では、戦士&狩人チーム、運動神経抜群なクーガー&レベッカ軍の圧勝……
かと思いきや。
意外にも……
サキ&クッカ軍の圧倒的大勝利となった。
何と!
『あっちむいてホイ』は、サキの大得意だったのだ。
大勝利して、サキとクッカは当然、ハイタッチ。
「やったよぉ、クッカ姉! ラスボス、ドラゴンママを見事撃破しましたぁ!」
「よっし、サキちゃん偉いっ! あ~、クッカも、す~っとしましたよぉ、気分爽快っ」
一体、何故なのか?
不思議な事だが……
サキは、クーガーの動きを、まるで予知するかのように反応した。
相手の意図を完璧に見抜き、全然負けなかった。
うん!
でもクーガーは、さすがに出来た嫁。
お子ちゃまなサキに負けたのは悔しいだろうけど、変に怒ったりせず『大人の対応』をしてくれた。
まあ、これくらいはご愛敬って事で……
苦笑したクーガーの命名で、サキには何と!
RPGでいう、ふたつ名まで付けられてしまう。
それは、
「おい、サキ。今回はまぐれだが、負けは負け。仕方ないから認めてやる。その代わり今夜からお前は、『あっちむかないサキ』だ! 分かったな?」
「え~、クーガー姉ったらぁ、そんな渾名かっこわる~い、イヤです、NG。超ダサイ~」
「だめだめ、弟子のお前に拒否権は全くない! これは決定! 命名、あっちむかないサキだ! はははははっ」
「おお、サキ良かったじゃないか、カッコイイふたつ名が決定か?」
「いやいやぁ~、そんなのっ!」
「クッカは、サキちゃんの味方ですからねぇ!」
「ですよね! 合言葉は、打倒ドラゴンママ!」
「よっし、ふたりで同盟締結!」
「はいっ! 締結ですっ!」
「ドラゴンママのネーミングセンスって……ん~、相変わらず、微妙だね!」
「あんだとぉ、レベッカぁ! お前は私の戦友だろっ?」
「ん~……やっぱ微妙!」
「サキちゃん、変な名前で可哀そう~」
「そうよ、そうよ」
「でしょ、最悪でしょ!」
「後で、もっと可愛いの考えよう、私達と、一緒にっ」
「お姉様方、宜しくお願い致しますっ! 助かったぁ~」
「おねぇちゃん……これから、あっちむかないサキねぇちゃあん……なの?」
「あっちむかないサキ~」
「あっちむくサキ~」
「いや、いやぁ~、みんなぁ、お願いっ、そんな名前で呼ばないで~、超ダサいの嫌ぁ~」
オーバーアクションで、手を左右に激しく振り、拒否ポーズでおどけるサキ。
対してクーガーと俺の突っ込みがさく裂、他の嫁ズのフォロー、お子様軍団のあどけない質問、呼び掛けなどが入り混じって……
俺の想像通り、ユウキ家の夜は、笑いに満ち溢れ、楽しくにぎやかに更けて行った。