第6話「敵襲!①」

文字数 2,054文字

 俺とクッカ、クーガーが敵襲を察知し、だいぶ経ってから……
 前方の商隊内で、騒ぎが起きている。

 どうやら……
 護衛役である冒険者クラン所属の魔法使いが、遅ればせながら索敵魔法で敵襲を察知したようなのだ。
 商隊からは、ざわざわとした動揺の声と、対応を相談する切迫した声が、混在して聞こえて来る。

 ただならぬ雰囲気に、我がお子様軍団の面々にも緊張が走っている。

「パ、パパ、ま、前の馬車は! ど、どうしたのっ!?」
「な、何か、あったのかな! ま、まさか敵?」

 噛みながら、俺へ問いかけるタバサとレオ。
 片や、

「うう、ううう、ううう」
「ママ! こ、怖いっ!」

 ただただ犬のように、歯を食いしばり唸るイーサン。
 怯えて悲鳴をあげ、ママのミシェルにしがみつくシャルロット。

 動揺する子供達を見ながら、俺は嫁ズへ目くばせした。
 先にクッカ、クーガーと速攻で状況確認、すぐ段取りを決め、間を置かずにレベッカとミシェルへも同じく念話で伝えてある。

 それ故、大人達は全員落ち着いていた。
 浮足立っているのは、初めて体験する未知の恐怖に怯える、お子様軍団だけだ。

 このままでは混乱するばかりだから、早速俺は指示を出す。

「みんな、落ち着け。慌てたら駄目だ。まずは深呼吸しろ」

 す~は~、す~は~、す~は~、

 俺の指示に従い、全員が深呼吸をした。
 馬車の中が無言となり、呼吸の音だけが満ちる。
 暫し経ち、頃合いと見た俺は、

「よし! 状況を確認しながら、スタンバイ。最悪の状況に備えて準備するんだ」

「そうよ! 落ち着くの、パパとママ達が居るから大丈夫!」

 俺の指示を受けて、フォローしてくれたのがクーガー。
 こんな時、普段怖いドラゴンママは、子供にとって逆に頼もしい。
 強くて優しい、大好きな自分のママを見つめ、レオが大きく頷く。

「うん!」

 クーガーは愛息へにっこり笑うと、更に、 

「それからね、皆聞いて! パパが最悪って言うのは敵の襲撃よ」

「「「「敵!」」」」

 クーガーの不吉な言葉を聞き、さすがに驚く子供達。
 4人の声が重なった。

 と、ここで俺は先に言った話を復唱する。

「レオ! イーサン! 良く聞け! もしも敵襲なら、さっきの話通りにパパが出る。その間、ママ達とタバサ、シャルロットをしっかり守れ!」

「は、は、はい!」
「わわわ、分かった! パパ!」 

 大いに噛み、震えながら、ふたりの息子は、家族を守ると返事をした。
 真剣な眼差しで見つめて来る。
 俺のした話が、心の中に甦ったのだろう。
 そして、

「あ、パパ! だ、誰か来る!」

 前方を指さして、大きな声で叫んだのはタバサである、
 全員の視線が集中した先には、ひとりの冒険者が居た。
 馬を駆り、こちらへ向かって来る。

 実はタバサが指摘する前、冒険者が来ると分かっていた俺は、改めて全員へ注意を促す。
 相手は敵ではないと分かってはいるが、これは子供達への教育、つまり『体験授業』なのだから。

「まだ敵は見えない。彼は多分味方だと思うが、絶対に油断するな」

 俺とクーガーは剣の柄に手をかけ、レベッカは弓を抱え直し、矢を放つ準備をしたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 レオとイーサンは、ず~っと俺の一挙手一投足を見つめていた。
 こんな非常時に、一体自分が何をしたら良いのか?
 俺を見て、必死に学ぼうとしたのである。

 その俺は……

 騎馬で向かって来た冒険者らしき男を10m手前で止めた。
 制止を命じる大声と、開いた手を前に差し出し、ストップをかけて。
 相手の素性と意思を改めて確認したのだ。

 男はやはり……商隊護衛の冒険者であった。
 カルメンから俺の実力を聞いたリーダーの命を受け、敵襲の報せを持って来たのである。

 最初「馬車に近づくな」と、俺に無理やり止められた冒険者は、少しムッとしたようであった。
 
 だが……
 さすがに選り抜きのランカーらしく、すぐ落ち着くと、用件を急ぎ告げ、笑顔で去ったのである。
 彼が笑顔で戻った理由は、はっきりしていた
 ……それは俺が、加勢すると言ったから。

「パパぁ! 駄目ぇ、戦ったら死んじゃう!」

 俺が冒険者と共に、襲って来る敵と戦うと知って、タバサが絶叫。
 心配のあまり、大泣きしてしまった。
 いつもは俺の強さを信じていて、森へ狩りに行っても全然平気なのに……

 常に気丈な姉が、号泣するのを見て、シャルロットも吃驚、そして同じように泣いてしまう。

 俺は、一旦馬車を降り、客席へ……
 タバサとシャルロットを「きゅっ」と優しく抱き締めた。
 泣きじゃくる姉と妹を抱く俺を、息子のレオとイーサンは黙って見つめている。

 そして、お互いに顔を見合わせると……
 何かを決意したように、真剣な表情で頷き、軽く拳をぶつけたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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