第10話「ここにしよう!」

文字数 2,081文字

 我がボヌール村は、村の宣伝と新村民確保に向けて、実験的にアンテナショップを出店する。
 俺と嫁ズで練ったアイディアは、オベール家に了承された。
 それも了承されただけではなく、店舗を無償で貸与してくれるという。

 お言葉に甘えた俺達は、早速チェックに出かけた。
 そして……
 俺達はいろいろ見て回り、最後の店舗を見ていた。
 今回、オベール様から候補として、提示されたのは計3店。

 来る道すがら、アンテナショップにぴったりな条件という事で、嫁ズと盛り上がったが……
 最初に見たのは、職人通りと言って、様々な個人商店が並んでいる商店街の一画。
 商店街と言っても、さすが地球の中世西洋風異世界。
 
 前世とは全く違う。
 都会で見慣れた、百貨店、スーパー、コンビニ……
 そしてチェーンの電気店、飲食店、薬局、カラオケなどは全くない。
 まあ異世界だから、当然だけど。

 その代わり……
 鍛冶屋、大工、石屋、金銀細工屋、染物屋、仕立て屋などの個人商店が、ひとめで仕事が分かる金属製の看板をぶら下げ、(のき)を連ねていた。

 その中で空き家となっていたオベール様所有の店舗は、こじんまりした平屋だった。
 店の外観は周囲の店舗同様に渋い風情で、中もまあまあ広くて、何となく落ち着く雰囲気。
 俺個人としては嫌いではなかった。
 だが、この職人通り、人通りがそれほど多くなくて今回の趣旨には合わない。
 なので申し訳ないけど、第一希望とはならない。

 次に見たのは、にぎやかな中央広場に面した一軒家で、こちらも平家。
 俺達が希望した路面店ではあるし、周囲にも人通りはとても多い。
 だが、少し手ぜまである。
 ざっと見て、10畳強くらいの広さしかない。
 ボヌール村の、大空屋本店くらいの広さしかないのだ。

 という事で、最後の店舗候補を見に行く。
 こちらは中央広場付近だが、2番目の店舗よりも若干人通りは落ちる。
 しかし今までと違い、2階建て。
 そして最も、室内が広い。

 先程と同じ言い方をすれば、売り場だけで20畳以上ある。
 コンパクトな厨房と、珍しくトイレも付いている。
 これなら片隅に、簡単な飲食コーナーも開けるだろう。

 更に同じ広さの2階へは、店内の階段から行ける。
 2階は厨房トイレがない分、更に広い。
 1階での展開が難しいのなら、ここを飲食か、クラリスの服飾コーナーに使える。
 または衝立(ついたて)をおいて、従業員の休憩スペースに使うのも良い。
 もしくは在庫ストック用の倉庫など、どうだろう。

 頑丈で大きな鍵付き扉と、雨戸のついた大きな窓だから防犯もばっちり。
 外観も周囲と比べて、白壁で清潔感があり、目立つ。
 3店舗の中では、文句なしに一番である。

 うん、この店舗で決まりだろう。
 家賃を払って借りるなら、もっと多く他の店舗も見た方が良いかもしれない。
 だが、ここはオベール様の所有で、賃料は永久にタダという約束。
 
 なので、俺は即座に決めた。
 嫁ズはといえば、俺と全く同意見のようだ。

「旦那様、ここが良いよ」
「うん! この店が一番」
「賛成!」
「納得!」

「うふ、開店への第一歩ですねっ!」

 リゼットが嬉しそうに言ったのが、締めの言葉。
 文句なく全員一致で、決定という事に。

 全員外に出て、預かった鍵を「がちゃり」とかけた瞬間。

「あの……ケン・ユウキ様ですか?」

 目の前に立っていたのは身長170㎝くらい。
 素直で真面目そうな、金髪碧眼の少年であった。
 傷だらけの革鎧をまとった身体は、そこそこ鍛えているらしく、二の腕など逞しい。
 年齢は16歳か、17歳くらいだろうか。
 顔に見覚えは……ない。

「えっと……そうだけど……」

 名前を聞かれた俺が頷くと、

「クロードおじさん、いえ、オベール様の命令で、お迎えにあがりました」

 おお、彼が『お使い君』?
 誰だろう?
 「もしかして?」と、思いながら聞いてみる。

「君は?」

「はい! アンリ・バルテと言います。先ほど、王都から着きました」

「ああ、君がそうなの?」

「はい! ケン様、貴方の事は以前からお聞きしています。今後とも宜しくお願いします」

 おお!
 はきはきした言葉遣いで、耳が気持ち良い。
 何となく、俺と相性が良いのかと思う。
 上手く、やって行ける気がする。
 うん!
 人間の、第一印象って大きいな……

 アンリの顔を見て、ふと思い出した。
 
 どことなく……以前一緒に冒険をした、異世界のラウル王子に似ていると。
 そういえば、あいつ……
 俺と同じ『ふるさと勇者』になったんだっけ。
 ボヌール村に良く似た村で、頑張っている筈だ。
 もう、子供も生まれたとか。
 
 相変わらず、戦女神(いくさめがみ)のヴァルヴァラ様から、びっしり鍛えて貰っている筈だけど……
 元気かなぁ?

 それが見習い騎士アンリと、俺達の初めての出会いであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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