第1話「森で出会った美少女」
文字数 2,915文字
どこかの異界の裂け目から、際限なく湧き出る魔物共を掃討したり、人間を襲う熊や狼などの猛獣をある程度排除するのだ。
ロールプレイングゲームでいえば平和を守る役回り。
つまり、主役の『勇者』なのかもしれない。
かといって、この世界全部の平和を守っているわけではない。
俺は所詮ふるさと勇者、ボヌール村限定のローカル勇者なのである。
え?
お前はレベル99だろうって?
神様から、そんな凄い力を授けられてセコイ事を言うなと?
いや、いや勘弁して。
確かにレベル99だけど、俺は家族第一。
華々しい名誉も、地位も不要。
愛する家族&ボヌール村の人達を守れりゃそれで良い。
敢えて守備範囲に加えるのならば、義父オベール様達の住むエモシオンの町までだ。
どうしてもって場合は出張るけど、自分からは他に赴かない。
だってさ、この異世界へ来て、今迄5年ほど頑張っているけど、現状で手一杯だもの。
やってみて分かった。
勇者って、とてつもない気力とパワーが要る。
ローカル勇者でも大変なのに、世界を守るなんて想像もつかない。
俺はそこまで気持ちが強くないし、パワフルでも、器用でもない。
広大な全世界の平和を守るなんておこがましく、完全に『キャパオーバー』なのだ。
さあ、そろそろ不毛な議論はやめよう。
世界を救おうと思う人だけ頑張ってくれ。
俺は現状で頑張る。
というわけで閑話休題。
今、俺はケルベロス以下従士達と一緒に西の森をパトロールしていた。
この森は俺がボヌール村へ来てから、一番魔族、魔物が出現する頻度が高い。
女魔王となったクーガーを筆頭に、魔王軍が基地を作ったし、お馴染みのゴブの大群、最近ではグリフォンのフィオナまでやって来た。
どこかの異界と繋がっているとか? 魔族を呼び寄せる大きな要因があるのか?
理由は不明だが、絶対に何かがある。
まあ、いくら調べても考えても原因は分からないので、何かあったらその都度対処するしかない。
まあ、久々に来たので、『森のハーブ園』へ行く事にした。
リゼットが欲しがっていた、ハーブの苗でも少し貰って行こう。
幸い魔物の気配がないので、俺と従士達は西の森の美味しい空気と散策を楽しみながら『森のハーブ園』へ向かってのんびり歩いて行った。
と、その時。
いきなり何者かの気配が目的地であるハーブ園の、ど真ん中に出現した。
俺だけじゃない。
ケルベロスもジャンも、そしてベイヤールも感じている。
相手は?
え?
……たったひとり?
それも反応は……何と!
子供だ。
でも……
「ちょっとタンマ」
俺は、従士達へストップをかけた。
奇妙な事に、相手の正体が読めないのである。
この異世界へ来た当初はレベル99の俺でも、今や我が嫁となったクッカが居なくては完全に能力を発揮出来なかった。
しかし異世界へ来て5年間余り、俺は多くの経験を積んだ。
クッカも人間になり、サポート女神ではなくなったから尚更気合が入った。
しゃにむに頑張った俺は、結果、全ての能力が格段に上がった。
索敵魔法も例外ではなく、精度が著しく上がった。
俺の索敵範囲はMAX2㎞先までOK!
相手のスペックも大体把握出来るのだ。
しかし!
今、出現した相手の素性が読めない。
う~ん。
いきなり森の中へ忽然と現れたのは、魔法か、スキルを使ったのだろう。
すなわち転移魔法か、空間魔法だ。
そしてこんな魔法を使うのなら、相手が人間ではない可能性も高い。
人間——いわゆる魔法使いならまだ与しやすいが、未知の魔族、下手をすれば上位悪魔だったら慎重に対処する必要がある。
うかつに近づいて、どかんと地雷踏まされたらヤバイから。
なので、使えるスキルを総動員。
勇気のスキルはお約束、気配消し、隠身等々だ。
目指す相手はハーブ園の中、咲き乱れる花と一緒に立っていた。
いつもよりハーブ園の香りも魅惑的だ。
引き込まれるような感覚……
何か……不思議な雰囲気だ。
万全の準備をして、こっそり近づいた俺と従士達だが……
「ほう! お前がケンか?」
透明になり、気配も消した筈の俺を真っすぐに見て、平気で話しかけて来たのは……
10歳くらいの、可愛らしい少女であった。
金髪碧眼の、少しおしゃまって感じの……
そういえば、以前グレースと王都へ旅行した時に、彼女が幼い頃の話をした事があった。
グレースは謙遜&照れて、とっても恥ずかしがっていたが、子供の頃の彼女はきっと超絶に可愛かったと確信している。
その時、俺がイメージした少女……そのものなのだ。
まるで綺麗なフランス人形みたいな……可憐な少女……
身なりだって、貴族が着るような豪奢な服を着込んでいる。
「ケン、
あら、いきなりあっちから名乗った!
でもテレーズって……一体、誰だ?
俺の名前を知っているようだけど……
こんな子、顔も名前も全く知らね~。
俺は唖然として、テレーズを見つめていた。
しかし俺が隠身のスキルを解除しないのが、癇に障ったのだろう。
テレーズは、小柄な身体を震わせて怒る。
「こっちは名乗ったぞ! さっさと姿を見せんか、馬鹿者! 無礼であろう」
うっわ!
無礼者って叱られちゃった。
でも全然殺気がないし、俺の名前を知ってるって……ああ、もしや!
ひらめいた俺は、スキルを解除した。
従士を含めて俺達全員の姿が現れた。
テレーズは俺達を一瞥すると、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ふん! 不細工な人間に、馬に、犬に、猫か……まあ今の妾のお供としては充分かもしれぬのう」
「……あのさ、さっきから俺達の事ボロクソに言ってるけど……何の用?」
「これ! ケン、そなた、さっきから妾に向かって口の利き方がなっておらぬ! たわけ者め!」
またまた怒るテレーズ……
この子、やっぱり正体不明。
だけど女魔王だったクーガーを始め、悪魔とか、ドラゴンとか、今迄いろいろな相手と渡り合って来た俺は全く怖くない。
「何でも良いよ。それよりさっさと用件を言ってくれ。俺、忙しいから」
「くううう……こやつ、本当に無礼者じゃ! こんなのに妾は世話になるのか? 最悪最低な気分である。ああ、嫌じゃ、嫌じゃ」
おいおいおい!
世話になるって?
何それ?
もしかして俺がこの子を連れていくの?
連れ帰ってお世話するの?
外見以外、全然可愛げがないこの子を?
さっきから予感がしている。
いや、これは……確信だ。
俺はいきなり念話で呼びかける。
『あの~、管理神様、この子へ俺の事言ったの、貴方ですよね?』
『ほ~い、そうだよ~ん』
やっぱり、ビンゴ!
俺の心には、またあのウルトラライトな声が響いていたのであった。