第17話「俺に任せろ!」

文字数 2,062文字

 グリフォンの宝……
 
 魅惑的な響きが籠められた言葉である。
 冒険者にとっては堪らない言葉だ。
 得られれば、大が付く成功者となれるのだから。

 だけど、俺には響かない。
 必要がないもの。
 ボヌール村での質素な生活に、余分な金はかからない。
 小遣いは、以前ドワーフから貰った金が充分残っているし。
 凄いお宝より、村の平和が保たれ家族全員で幸せに暮らす事が一番。

 ケルベロスも俺と同じ。
 質問の意味は、宝を欲する興味からではない。

『いや、ケルベロスは単に聞いただけだ。ここにあれば宝目当てで人間が来るからな。ちなみに俺も宝には一切興味が無い』

『え? 宝に興味がない……の!?』

『ああ、無い。俺は普段金を使わない。使う機会もないから』
 
 俺のリアクションに、フィオナは吃驚したようで黙り込んでいる。

『…………』

『ちなみに大金はあるぞ。嫁の財産だけど、理由があって預かっているだけなんだ』

 グレースこと元貴族令嬢ヴァネッサの財産、金貨数千枚を俺は預かっている。
 悪徳商人から頂いた金であり、俺と結婚せず王都に戻った場合に彼女へ生活費として渡す筈だった金だ。
 
 いずれヴァネッサに記憶を戻らせた時に、渡そうと考えていた。
 もしヴァネッサが記憶を戻す事を望まなければ、彼女に了解を貰って家族の為、村の為にこっそり使おうとも思っている。

『人間は分相応が良い。普通に生活して行ければ良いんだ……だからグリフォンの宝にも俺は興味がないんだよ』

『ふ~ん……珍しいね、ケンは』

 フィオナは鼻を鳴らす、そして溜息を吐く。

『でも……大抵の人間は宝を欲しがるよね?』

『まあな』

『一族の宝はここには無くてある場所に隠してあるけれど人間は知らない、私が宝を手元に持つと思い込んでいる……そうなるとまた宝目当ての人間が来る、私は自衛の為に彼等を殺さなくてはいけない……下手をすると村も巻き込んでケンに迷惑をかけるわね。いずれ竜も来れば尚更だわ』

『ああ、そうだな……』

 確かに人間だけでなく、竜がフィオナを追って来たらひと騒動起こすだろう。
 ボヌール村も巻き込まれる可能性がある。
 いくら俺や従士達が強くても、竜が大群で来たらボヌール村も無傷では済まない。

 そう考えると、フィオナの答えは決まったようだ。

『……私、ここを出て行く』

 軽く息を吐いてから、フィオナは寂しそうに言った。

『でも、フィオナ。お前身体が傷ついていて満足に飛べないだろう?』

『ふふ、分かる? でも魔法も多少使えるし何とかなるわ』

 やっぱりこの子はいい子だ。
 俺達に迷惑をかけたくないのだ。
 そして……本音も話してくれた。

 傷が癒えれば、フィオナは目立たないようそっと旅立つ。
 そして、どこかに居る仲間、別のグリフォン一族を探すのだろう。
 だがお宝を巡って、竜との果てしない戦いは再開される。
 フィオナも、新たな仲間と共に戦わざるをえない。

 暗い未来が見えている、フィオナの表情は冴えなかった。

 俺には分かる……
 仲間を失う悲しみを味わったフィオナは、もう二度と戦いたくないのだ。
 
 フィオナはグリフォンなのにお宝には執着がなくなった。
 何故なら、その執着の為に彼女の一族は全員が死んだ。
 哀れなフィオナは、たったひとりぼっちになってしまったのだから。

 ここで俺は温めていたアイディアを明かそうと思った。

『フィオナ、俺に考えがある、良かったら任せてくれないか?』

『考え?』

『こうしたらどうだろう?』

 俺は自分のプランを詳しく説明した。

『えええっ!? 出来るの? そんな事!』

 フィオナは驚いた。
 信じられないという表情をしている。
 
 しかし従士達の反応は違う。

『ダイジョウブダ、ケンサマニマカセロ』

『いつもこうやって皆を幸せにしてくれるんだ、ケン様は!』

『…………』

 ケルベロスとジャンが誇らしげに言い切る。
 ベイヤールは相変わらず黙っていたが、同意の意思を示していた。

『まずはフィオナの身体を治そう』

『え?』

 俺はフィオナへ回復魔法を掛けてやる事にした。
 治癒、回復、全快、慈悲、奇跡。
 俺の使う回復魔法は軽傷を治す治癒から身体の欠損さえ完全復元する奇跡まで多岐に渡る。
 相手の怪我の度合いで使い分けるのだ。

 最終的に発動出来るのは究極ともいえる死者蘇生が可能な『復活』まで。
 しかし命さえ自由に出来るなんて神様の領域だから、俺は余程の事がなければ使わない。

 フィオナの怪我は結構酷いが致命的なものではない。
 見た所……全快の魔法で充分だ。
 早速、俺は魔法を発動した。
 洞穴内が眩く温かい光で満ちて行く。

『あ、ああああ……翼の痛みが消えた! 身体が軽いっ!』

 魔法の威力に驚いた、そして喜ぶフィオナの声が、俺達の魂に大きく響いていたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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