第7話「敵襲!②」
文字数 2,342文字
いわゆる『遊軍』である。
遊軍とは……
遊撃隊とも称される、タイミングを見て出撃、フォローする部隊の事を言う。
更に補足すれば、決まった任務がなく、状況に応じて様々な任務を担う部隊なのだ。
これは当然であろう。
今回初対面のリーダーは、俺の戦い方等を知らない。
単に先輩冒険者?のカルメンから、「強いぞ!」と、彼女の個人的な評価を聞いただけなのだから。
戦う駒として、俺をどう使って良いか分からない。
それにオベール家宰相という、結構な身分にも気を遣ったと思う。
まあ、協力を申し出た俺を興味を持って見るだろうし、味方の数が増えるのは、けしてマイナスにはならない。
そういう判断をしたに違いない。
遊軍の指示は、自軍の足さえ引っ張らなければ、自由気ままに戦って良いという事。
レベル99の力を隠し、本気で戦いたくない俺には、渡りに船……
とても好都合だ。
そんなこんなで……
抱きついて号泣していたタバサとシャルロットが、ようやく泣き止み……
俺は、改めて各自へ指示を出す。
まず嫁ズへ、
「クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェル、良いか? 絶対に馬車から打って出ず、守りに徹してくれ。万が一、敵が近付いたら魔法と矢で迎撃だけするんだ」
「「「「了解!」」」」
念話で事前相談していたから、単なる確認。
元気の良い返事が戻って来た。
次にお子様軍団へ、
「レオ達も聞け! 馬車から出ず、ママ達の指示を絶対に守る事」
「「「「はい!」」」」
あとは個別の指示だ。
まずクーガーへ、
「クーガー、御者を頼む」
「了解!」
更にクッカへ、
「クッカ、けが人が出るかもしれない。だから、すぐに呼ぶかも。心構えを!」
そう、クッカは回復魔法に長けている。
村でも治癒師&薬師として、立場をほぼ確立している。
秘めたる天界の知識、更に魔法とハーブとのミックス技で、もう完璧。
本当は……タバサに自分の跡を継いで欲しい。
直接言わないけれど、それがクッカの究極の夢だと、俺は知っている……
但し……
タバサには魔法の素養が、今の所は見いだせない。
だから、ハーブと洋服作りの両立を許してもいる……
ああ、そんな事今はどうでも良かった。
ひとり想いを巡らせ、苦笑した俺に、クッカは爽やかな笑顔を向ける。
「はい! 旦那様!」
次にミシェル、
「暴走モードに入りそうな、危ないふたりを宜しく」
と言えば、さすがに心得たもの。
「了解! でっかい猛獣女子ふたりだね」
とにっこり。
名指しされた? クーガーとレベッカが、
「暴走? 誰それ?」
「はぁ、猛獣? 冗談でしょ」
と、むくれたけど、俺とミシェルは華麗にスルー。
そして、最後はまだ頬を膨らませていたレベッカへ、
「レベッカは注意してくれ。お前が使う必殺の弓矢でな」
「弓矢が何? ダーリン」
「万が一、味方と間違えて誤射しない為、クッカとクーガーに索敵魔法で相手を確認して貰ってから攻撃だ。俺達は護衛の顔をはっきりと知らないからな」
「うん、そうだね! 同士討ちはまずいもの。ダーリン、了解!」
機嫌を直し、素直に聞いてくれたレベッカへ微笑むと、俺はいよいよ出撃だ。
殆どあり得ないが……
敵が何人も肉薄したら、ベイヤールを放って戦わせ、クーガーには『本気』を出しても良いと伝えてある。
クーガーが敵を倒すのを見せるのは、子供達にはショックかもしれないが、まず命が大事。
それと厳しい『現実』を教える為だ。
「戦いが終わったら、すぐ戻る。……じゃあ、行ってくるぞ!」
「「「「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」」」」
……タバサとシャルロットも嫁ズから励まされ、最後は俺の強さを信じてくれた。
こうして……
家族全員の見送りを受け、俺は馬車を降り、商隊へ合流したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は自分の索敵魔法で、既に敵の戦力20人を把握している。
襲撃者の主力は、馬に乗ったゴリゴリ物理攻撃野郎共が15人。
全員たくましく、剣の腕もそこそこだ。
まあ油断はしない方が良い。
魔法使いがふたり居るけど、これは大した事はない。
最大出力が、炎弾の初級クラスだから。
こいつらは魔力量もあまりないようだし、すぐの連発は出来ないみたい。
一発撃ったら、再び発動するのが10分はかかるようだ。
馬鹿にして、舐め過ぎたらまずいが、怖れるほどの事はない。
新たに発動した俺の索敵によれば……
敵の魔法使いは炎弾を放つ準備をしているが、多分攻撃するというより、しょっぱなの脅かしに使うのだろう。
そんな波動が伝わって来た。
後詰の3人が各自持つ計3つの長弓は、そろそろ弦を切り、使用不能とする。
弦を切っても、すぐに修理は出来ないし、しないだろう。
多分このような襲撃に時間はかけない。
弓が使用不能となったら、多分こいつらも物理攻撃野郎と化す。
でもこれで、飛び道具の脅威は、ほぼなくなる。
飛び道具さえなきゃ、遠くから狙い打たれる心配はない。
物理攻撃野郎共を手前で食い止めれば、俺はともかく、家族や商隊に被害は出ないから安心だ。
後は……
その物理攻撃野郎共を、どうさばくかだ。
俺ひとりで無双するわけじゃないから、連携する戦い方を考えなくては。
冒険者クランのメンバーをちらっと見た俺は、また考えをめぐらせたのであった。