第18話「内緒です!」
文字数 2,418文字
今日も朝から、良い天気で気持ちが良い。
そういえば子供の頃より、何か大事なイベントの際、雨に降られた記憶がない。
実は俺、『晴れ男』かもしれない。
昨日は、『レイモン様との謁見』という突発的なスペシャルイベントがあって、予定は大幅に変更となった。
だが、今日はクラリスの希望を全面的に入れて、王立美術館と同博物館、そして 相当な数が、軒を連ねるという書店街をめぐる。
最後は王都にある有名な服飾店をいくつか見学して終了。
結構な強行軍ではあるが……
王都の様々な文化に触れ、クラリスの創作意欲はますます燃え盛るに違いない。
ただでさえ、昨日レイモン様より、凄いオファーがあったばかりなのだから。
クラリスが絵を描いたら、
「数はいくつでも、値段はいくらでも買うよ」だってさ。
夢でご覧になった、『俺の話』が終わってから……
レイモン様とは短い時間だが、結構濃い話をした。
まずは、レイモン様と最低限のやりとりはしておいた。
最低限とは……
今後何かあれば、オベール騎士爵家をバックアップして貰えるという言質を貰ったのである。
俺は『ふるさと勇者』であると共に、『オベール家宰相』でもあるのだから。
オベール様は、俺とレイモン様が『友達』になったと聞いたら、さぞや驚く事だろう。
そしてイザベルさんは吃驚しながらも、愛息フィリップの将来を考えてくれたと、大喜びしてくれるに違いない。
かといって……
これで何か、大きな利害的な事を『べた』に望まれてもいけない。
例えば、レイモン様がすぐオベール家に大きな便宜を図ってくれるとか。
何故ならばオベール様には、王都の上級貴族である、れっきとした『寄り親』が別に居る。
その寄り親は、レイモン様に仕えている。
なのに、レイモン様とオベール様が直接やりとりして目立てば、ややこしくなってしまう。
それに今回のレイモン様への謁見って、表面的には……
俺とクラリスは、王国の単なるいち領民の画家と、その夫として会ったんだもの。
だからオベール様達には、言い方に気を付けて、慎重に伝える事にする。
次に……
クラリスが持つ絵の才能に関しても、レイモン様は大きな興味を示していた。
とても素晴らしいって。
亡き奥様の故郷とか、王都の風景とか……
他の題材も、ぜひ描かせてみたいって。
それにクラリスは、絵以外にも凄い才能を持っている。
彼女が作った服や造形物を見せたら、レイモン様はもっともっと吃驚するだろう。
元々、レイモン様はクラリスを『お抱え』にしたい希望があった。
そう、キングスレー商会経由で聞いていた。
だから、
「我が嫁を王都に呼び出し、お抱えの画家にするのは勘弁です」
と、念の為に俺が牽制球を投げたら、
レイモン様は「てへっ」という、少年のような笑顔をしていた。
聞けば、やはりクラリスの召し抱えは、『本気』だったという。
危ない、危ない。
でも今は、そんな事、微塵も考えていないって。
管理神様が見せてくれた夢により、俺と嫁ズの愛を感じ……
改めて目の前で、俺とクラリスを見て、固い絆を確信したそうだから。
自分が、愛する者との辛い別離を経験したのに……
俺とクラリスを引き離す……家族と引き離す……
「そんな酷い事は、絶対出来ないよ」って断言されていた。
やはり、そうなんだ。
自分の痛みや悲しみを知る者は、より優しくなれる。
他人の辛さだって、イメージして、理解出来る。
例え相手の全てが分からなくても、優しく寄り添おうって気持ちにはなれると思う。
ちなみに白鳥亭へ帰ってから……
俺も改めてクラリスの『将来』を考えた。
もしかしたら、彼女の才能を最大限に活かす為には、王都へ送り出した方が良いのかもって……
念の為、
「単身か、ポールを連れて、王都へ勉強しに行ってみる?」って聞いたら……
クラリスからは、『本気』で怒られてしまった……
「旦那様や家族と離れるのなんて、絶対に嫌です!」だって。
可愛い顔を真っ赤にしてね。
でも……凄く嬉しかった。
『変な話』をした俺が、平謝りしたのはいうまでもない。
さてさて……
白鳥亭の朝食はやはり美味い。
クラリスとの会話も弾む。
「旦那様、私……決めた事があるんです」
「決めた事? 何?」
「うふふ、内緒です」
「もしかして……ポールの妹か弟、子供を作るって事?」
朝だけど……俺は『こういう答え』を振ってみた。
「お前。爆発しろ!」って、絶対言われるだろうけど……
『昨夜のクラリス』は甘えて甘えまくって、本当に凄かったから。
「わぁ! それって……半分当たりです」
半分、当たり?
じゃあ、もうひとつあるって事か?
一体何だろう?
「さあ、旦那様。今日は更に気合を入れて下さい。頑張って私に付き合って下さいねっ」
クラリスは、さりげなく話をそらした。
「了解!」
俺は特に突っ込んだりせず、単に元気よく、返事をしながら考えた。
クラリスが何を決めたのか、気にはなる。
だけど彼女の心を読んだりはしない。
もう何度も言っているけど。
俺が対象者の心を読む時って……
例えば、相手が自分を見失い自暴自棄になりかけているような時。
マイルールだけど、結構厳しく守っている。
でも杓子定規ではなく、状況を見極めて、臨機応変にはやるつもりだ。
さあ時間も限られているから、そろそろ出発だな。
「よし、行こう!」
「はいっ!」
カウンターのアマンダさんに部屋の鍵を預け、俺とクラリスは白鳥亭を出た。
仲良く手を繋ぎ、2日目の『王都デート』へと出発したのである。