第9話「レベッカと王都で③」
文字数 2,568文字
すぐにまた『事件』が起きた……
今度はいわゆる、『ナンパ』である。
ナンパだから、ターゲットはレベッカ。
そしてナンパして来たのは、着ている服がお洒落で、ガタイこそ逞しいが……
いかにも、軽薄そうなチャラ男である。
年齢は20代半ば。
あまり俺とは変わらない。
見た所、多分、どこかの騎士の子弟か、下級貴族の三男坊以下って感じ。
「ねぇ、君、凄く可愛いねぇ。そんなダサい奴なんか置いといて、俺と遊ばない」
「わ、私と!?」
さっきの冒険者勧誘とは、また勝手が違うのか、再びレベッカは動揺していた。
隙ありと見たチャラ男は、「ここぞ!」とばかりに押して来る。
「そう! 君は超が付くレベルの素敵な美人さ。こんな男なんかには勿体ないよ」
「だ、だって、この人は私の……」
「おいおい! まさか、こんなのが君の恋人だって言うの?」
「そ、そうよ!」
「あははっ、でも俺はOK! こんなのさぁ、この場でポイしちゃいなよぉ」
ナンパに慣れた、チャラ男の押しは半端ない。
抵抗し切れず、困ったレベッカは、俺へ縋るような視線を向ける。
「うう、ダ、ダ~リ~ン!」
嫁を、しっかり守るのは旦那の義務。
俺はさっき同様、『間』に入ってやる。
「悪いな、兄さん、こんな俺と彼女は夫婦なんだよ」
「はぁ? てめぇ、人の恋路を邪魔しやがって!」
「分かんない奴だなぁ……兄さん、そろそろ遊びは終わりだ」
「な! てめ、ぶっころ……あ、あううう……」
「ぐずぐずしてると、潰すぞ。もう消えろ、な?」
「ひぃ! す、す、すんませ~ん! さよなら~」
俺の『妨害』に怒りかけたチャラ男。
だが、俺の使った『戦慄』のスキルで、速攻退散した。
こうして、危機は去った……
ホッとしたレベッカは、またも罰が悪そうに俺を見た。
俺は「にこっ」と笑う。
大丈夫!
ノープロブレムさ。
こういうのは、慣れてないから仕方がないって。
その後……
やはりというか、ナンパは果断なく続き、レベッカもいい加減辟易。
何せ、王都のナンパ男は、しつこい! 口が上手い! 強引! の三拍子揃っているのだから。
「はぁぁ……王都のナンパって……何これ? もう嫌……」
大きくため息をつくレベッカを、もっとひどく驚かせる『事件』が起こった。
それは何と!
「そこの紺色
声を掛けて来たのは、俺と同じく法衣を着た女の子。
金髪碧眼で、整った顔立ちをしており、結構な美人である。
彼女はどうやら魔法使いらしい……
そして、ターゲットは何と、俺!
これこそが、あの伝説の『逆ナン』であった。
「魔力を無理やり押さえているけど、あたしには分かる……貴方、結構な腕でしょ?」
彼女無しの『フリー』ならいざしらず、現在の俺は8人の嫁&同じ数の子持ち。
折角だが、きっぱりとお断りする。
「いえいえ、俺はただの農民なんで」
「嘘!」
「本当っす。実は俺達旅行者で、彼女は嫁なんですよ。だからお誘いは、お断りしまっす」
「良いじゃない、既婚者だって。あたしは構わないわ」
「いやいや……俺の方が構いますって」
「はぁ? 貴方、もしかして知らないの? この国は一夫多妻制なのよ」
一夫多妻制を知らないかって?
いや、当然よ~く知ってるけど。
いきなり、初対面で何、この子。
まさか本気か?
やばい状況でなければ、相手の心を読みはしないけど、もしかしたら
「ほいほい」ついていったら、物陰から「ぬおっ」と、
人相の悪い、怖い男が「こんにちわぁ、俺の女に手を出しちゃったね、どうしてくれる?」ってね。
俺がそんな疑いの目で見ていても、逆ナンして来た女魔法使いは笑顔。
その上、思いのほか熱心であった。
「ねぇ、3人で遊びに行こう! 楽しい飲み屋さん知ってるのよ! その後は……うふふ」
おいおい、その後はって……何だよ……
さすがに俺が呆れた、その瞬間。
「う~、駄目っ!!!」
突如、レベッカが犬のように唸って、吠えた。
そして、俺の手を掴んで「ぐいっ」と引き、速足で歩きだしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今回レベッカとの旅において、以前のグレースとの時と違うのは、泊まる宿を事前に決めてある事。
逆ナン魔女っ子を振り切った俺達は今、お洒落な木製看板がかかっている宿屋の前に居る。
看板には、美しい白鳥が大きく翼を広げた絵が描かれていた。
そう!
宿泊するのは当然……
「へぇ! ダーリン、ここが白鳥亭なんだ」
「おお、そうさ」
「ふ~む、成る程。ここでダーリンが、グレース姉とお泊まりして、い~っぱい、ちょめちょめ……結果、ベルを作ったと」
俺はホッとした。
どうやらさっきの『怒り』で、レベッカは通常モードに戻ったみたいだから。
「ははは、おいおい、何言ってる」
「うふふ、冗談。ねぇ、早く入ろうよ」
「了解!」
俺とレベッカが、白鳥亭へ入る。
と、聞き覚えのある爽やかな声が。
「いらっしゃいませ~! あら、ケン様」
正面のカウンター奥で、微笑むアールヴ女将。
うん、相変わらず超美人だ。
「アマンダさん、お久しぶり」
俺が挨拶しても、レベッカ呆然。
普段ボヌール村に、エルフことアールヴは滅多にやって来ない。
なので、珍しい上に、アマンダさんがとっても美しいと来ているから。
「う、うわ! す、凄い美人!」
アマンダさんは、さすがに客商売。
にこやかに、レベッカへ挨拶する。
「レベッカ様ですね! 初めまして、白鳥亭の女将アマンダです」
「…………」
まだ呆然とする、レベッカの脇腹を、俺はつんつん!
すると、
「よ、よ、宜しくお願いしますっ! レ、レベッカ・ユウキです。ダーリンと一緒にお世話になりますっ!」
漸く元気よく挨拶したレベッカは、俺の顔を見て恥ずかしそうに『てへぺろ』していたのであった。