第1話「前世と異世界」
文字数 3,160文字
嫁ズも俺の気持ちを察して、そっとしておいてくれるのは、本当にありがたい。
酒を飲みながら、俺はつらつらと物思いに
俺の生きていた前世の日本って、豊かな自然は年を追ってどんどんなくなり、均一的な準都会の街が増えていたと。
大きな都会に、住んでいたからかもしれないが……
どこへ行ってもビルだらけで、同じような街並みが多かった……と感じた。
もし俺が前世で死なず、何とか職を得ても、それから働いて生きて行くのが大変だったのでは……と考える。
ご存知の通り、死ぬ寸前の俺は平凡な学生で、実は未就職だった。
だから『社会』って奴の中身を、ちゃんと知っていたわけではない。
今迄体験した10種近いアルバイトや、先に社会へ出た学校の親しいOBなど諸先輩から就職活動の際、聞いた話で感じたに過ぎないのだけど……
特に、先輩の『本音の話』は殆どが夢のないものだった……
取引先からのいじめ、上司のパワハラ、セクハラなど煩わしい人間関係……
過酷な労働に見合わない安い給料……
肉体的にも精神的にも痛めつけられ、参ってしまう人が、多々出るのも頷ける。
救いといえば、仕事にやりがいとか求めても、許される雰囲気ってまだあった事。
また、お金次第で実行の可否って面はあったけれど、好きな趣味を持ったり美味しいものを食べたり、息抜きの方法も多種多様だった。
今迄に俺は、この異世界へ転生してから、何度も考え想像した。
あの晩、居酒屋で別れた旧友が、今頃はどうして生きているのかと思うのだ……
俺のように、幸せになっていて欲しいと切に願う。
現在俺が居る、このスローライフな異世界は、前世とは全く違う。
毎日決められたような仕事ではなく、きまぐれな大自然を相手にする生活。
つまり今日は今日、明日は明日というイレギュラーな日々なのである。
前世と違う点……特に都会と比べてだが……
空気はめちゃくちゃ、清々しい。
食事は、けして贅沢ではなく、大体パンとスープだけ。
たまにサラダや果実が付く、超質素なものだが凄く美味い。
一見単調とみえる仕事も、日々の組み合わせを考えれば、変化が生じて結構夢中になれる。
うん!
人生なんて、要は創意工夫。
無いものねだりをせず、まずは与えられた範囲内で、開き直って楽しむ方が得なんだ。
そんな中……
パッと新たな道が切り開かれれば、どうするのか他人任せにせず……
大事なのは、自分で意思決定をする事。
どう決めるのかは自由。
もし、新たな道へ進むのなら、覚悟を決め思い切って行く。
そんなものだ。
ちなみに転生後、個人的に最大の幸せといえば……
国の政策で一夫多妻制を採用しており、麗しきハーレムを実現出来た事。
前世だったら、俺の家庭なんて公には認められないし、絶対に作れないから。
まあ、これまで暮らして来て、クミカの非業な死など辛い事は多々あったが……
結果的に 俺は転生して良かった!
そう言い切れる。
きっぱりと。
だって!
神様の力で容姿は全く変わってしまったが、死んだクミカとも再会して、一緒に暮らせている。
その上、素晴らしい家族に恵まれて、健康で毎日朗らかに生きている。
もうそれだけで大感謝じゃないか。
だけど良い事ばかりではない。
辛い事も多い。
この異世界へ来てみて、改めて実感したが……
中二病の定番な、中世西洋風の生活ってけして楽ではない。
むしろ、苦しくて過酷な生活なのだ。
怖ろしい魔物や凶悪な山賊など外敵の襲来に加えて、食料を得る為に必死で働かないと生きていけない現実がある。
社会保障も一切なく、娯楽も極端に少ないこの世界では皆が食べる為に、そして生き延びる為に必死で働いている。
汗と泥に塗れて毎日働かないと、食べるものが手に入らないからだ。
かつての中世西洋では様々な理由により、死者が毎年、相当数出たという。
その殆どは……餓死……だそうだ。
ちなみに俺が来てから、ボヌール村においてまだ飢饉はないし、疫病も流行した事はない。
だが、確実にいえるのは……
前世よりは人間が呆気なく死ぬ……その凄惨な現実である。
そんな暮らしぶりだから、相変わらずボヌール村は貧しい。
しかし俺が来た当初に比べて、暮らしは格段に良くなった。
俺が来た時は、魔物の大襲撃で受けたダメージを、まだまだ引きずっている状態だった。
戦いは苛烈であったという。
村は大きく破壊され、戦いにより、村民の半分近くが死んだ……
家畜も半数以上が殺され、特に牛は全滅。
丹精込めた畑も徹底的に荒らされ、惨憺たるありさまだったらしい。
生き残った若者の大部分が、村の生活に嫌気がさし、新たな人生を求め出て行った。
そんな荒廃したボヌール村を、残された人々は必死に復興させた。
そこへ異分子である俺が来て……女魔王襲来とか、悪徳貴族の陰謀とか、いろいろ危機はあったけれど……
何とか乗り越え、ボヌール村は生き延びる事が出来たのだ。
生き延びたと同時に、大幅な変化も生じた。
今迄は割り切った関係だった領主オベール様と、領村ボヌールの関りも180度変わった。
オベール様の娘ステファニーを、俺が人生崩壊の危機から救ったのがきっかけだった。
名前を貴族令嬢ステファニーから改め、村娘ソフィにした。
容姿も若干変えて、村にかくまった。
全ての問題が解決してから、オベール様はソフィと再会した。
そして他の嫁ズと共にソフィは俺と結婚。
更に俺の嫁のひとりであるミシェル母イザベルさんが、何とオベール様の後妻になり、オベール家との関係はより深まった。
今やオベール家とボヌール村は、単なる領主と単なる領村などではない。
双方が、なくてはならない間柄へと変化した。
様々な貢献をした俺を認め、恩義を感じてくれ、オベール様はいろいろ配慮してくれた。
村の実情を知る妻のイザベルさんが、領主オベール様へ進言してくれているのも大きい。
当然、オベール様の実の娘ソフィことステファニー、義理の娘となったミシェル、両名への援助という明確な理由もある。
ちなみに、イザベルさんはオベール家、影の宰相と言われているらしいが。
具体的にあげれば……
オベール様は、まずボヌール村への税制を、根本から見直してくれた。
従来の領主優遇である重い税率が軽減されて、村には生産した作物がある程度余るようになった。
こうして、まず食生活が大幅に改善されたのである。
更に村で所有する『共有財産』も著しく増えた。
オベール様が治めるエモシオンから、物資をたくさん入れてくれるようになったからだ。
当然、対価は払うが、とても格安にて譲ってくれた。
凄くありがたい!
食料品や日用品は勿論、牛や馬など家畜も送られ充実して来ている。
そしてボヌール村の耕作方法は、俺の提言で三圃式から輪栽式となった。
いわゆる冬季の休閑地を大幅に減らして、根菜類を植える事にしたのである。
※ど新人女神編第17話参照
これって大きい。
冬用の作物を栽培する事で、生産量の増産且つ家畜飼料の軽減が為されたからだ。
この世界としては新型の鋤や鍬など、使う農機具も充実したし、ボヌール村の未来は他の場所に比べたらまだ明るいと言えるだろう。
しかし……
我がユウキ家では、村の将来に向け、熱の入った話し合いが頻繁にもたれていたのである。