第6話「嫁ズは名探偵」

文字数 2,647文字

 俺の家……大広間……

 帰宅した俺達は、夕食を済ませた。
 スープにパンに僅かな副食。
 相変わらず簡単で質素な食事ではあったが、空気を読んでか、テレーズも文句を言わず食べていた。

 食後のお茶の用意をして貰って、いよいよ家族会議を行う。

 お子様軍団の世話もあるので、全員参加は無理。
 何人かの嫁は、挨拶をしてから下がって行った。
 事前に、そういう役割分担の打合せもしていたらしい。
 まあ後で、全員でしっかりコミュニケーションはとらなきゃね。

 残ったのは……
 第一夫人のリゼットは勿論だが、クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェルという面々。
 一番年長のグレースが、『お子様担当』になったのは理由がある。
 新参なのと、子供達に最も好かれているから。
 子供達の実のママが居なくても、楽勝で押さえが利くからというリゼットの判断だろう。

 最近、家族会議の司会進行役はリゼットだ。
 どんどんお母さんのフロランスさんに似て来て、超が付くしっかり者になっている。
 たま~に怖いけれど……

「さあ、家族会議を始めます。今回の経緯(いきさつ)は旦那様の話で理解していますし、妻達の中でも共有しています。貴女の名前はテレーズさん……ですよね?」

「そうよ」

 リゼットの問いかけに対して、テレーズは即座に肯定。
 但し、笑顔はない。
 良く言えば真面目、悪く言えば無表情だ。
 しかしリゼットは気にせず、話を続ける。

「ひとつ約束して下さい。3か月家族として過ごすなら隠し事はしないって」

「…………」

「貴女の秘密を、絶対、村の他の人には言わないわ。私達家族だけの秘密にする。旦那様と一緒って事でね」

「ケンと一緒……」

「ええ、神様からお聞きになっているでしょうけど、旦那様はレベル99のふるさと勇者……私達家族とこの村の為に頑張ってくれている。だけど実際どのように頑張っているかは家族だけの秘密」

 リゼットが言うと、テレーズは頷いた。
 だんだん口が滑らかになって行く。

「知ってる……管理神様に教えて頂いたわ。秘密にしないとこの国の王に勇者と認められて、王都へ連れて行かれるからでしょう?」

「ええ、そうなの。子供達にはまだ伝えていないけれど、私達妻は『それ』を踏まえて助け合って生きている。3か月限定とはいえ貴女も家族になるのなら、理解して」

 リゼットはひとつの確信を徐々に持ちつつ、テレーズと話しているようだ。
 それは俺と同じもの。
 見た目はほんの10歳の妖精少女でも、中身は違う。
 姿だけ、擬態している。
 何故ならば、リゼットの話し方は大人に対するものだし、テレーズもそれに応えている。

 しかし、リゼットはやっぱり凄い、物凄い。
 母フロランスさん譲りの、どっしりした迫力がこの子にも確かにある。
 加えて、第一夫人としての自覚も充分なのだろう。

「わ、分かったわ……」

「それに私達妻にもお互い秘密がある。それも共有してる……だから私の言いたい事は分かってくれるわね?」

「…………」

 お互いに秘密を持たない事……
 さっきもそうリゼットから促されたが、テレーズは答えない。
 黙り込んでしまう。

 テレーズは答えなかったが、リゼットは意に介さない。

「妖精の貴女が神様にお願いして、旦那様を頼った。そしてこの村で生活する。期間限定で……話としてはとても単純。だけどいろいろと気になる部分があるの」

「…………」

「まず第一に、貴女がどうして旦那様を頼ろうとしたのか? それは神様から旦那様の評判を聞いたからでしょう?」

「…………」

「次に何故このボヌール村で暮らしたいと思ったのか? それも神様から聞いたから。でも矛盾があるわ……この村は決して裕福じゃない。逆に貧しい方……貴女の元の言葉遣いは王族か貴族……ならば相当、豊かな生活をしていたでしょう?」

「…………」

「その裕福な生活を捨てざるを得ない何かが起こった、もしくはあった……そうとしか考えられない」

 ああ、凄いな、リゼット。
 というか、嫁ズは話し合ってこのような結論に至ったのだ。
 俺も帰り道で散々考えて同じ結論に達したけど、敢えてテレーズを問い質さなかった。
 しかしリゼット達の考えは違う。
 家族として暮らすのなら、テレーズがこの村へ来た理由も明確にしなければと考えたのだ。

「そしてここが一番気になった事……貴女が村に居る期間は約3か月の予定だと聞いたわ。旦那様が神様からお預かりした手紙をさっき見たら、それくらい経ったら貴女のお父さんが迎えに来ると、したためてあった。だけど私達は思ったの……神様はこの下界へはそう簡単に降りてはいらっしゃらないって」

「…………」

「となると……神様ではない、違う方がこの村へ貴女を迎えに来る。しかし予定というのは未定ともいえる。早くなる場合も遅くなる場合もあるわ。貴女はその間、不確実な相手をずっと待っている。そこに貴女が自分の国を出た原因があると思う」

「…………」

「当然その方に早く来て欲しいと貴女は願っている。だけどその不確実な相手がこの村へ、貴女を少しでも早く迎えに来るには……迎えに来たくなる要因がなければならない。……その要因とは……多分……嫉妬」

「え?」

 黙ってリゼットの話を聞いていたテレーズが、驚いて声をあげた。
 今迄否定しないところを見ると、リゼットの推測と指摘はほぼ当たっているのだろう。
 そしてズバリと核心を突かれた。
 なので、ビックリしたというのが真相に違いない。

 そんなテレーズをスルーして、リゼットの話は続く。

「貴女は旦那様を頼り、思いっきり甘える事で相手に刺激を与えたい。自分の事を振り向いて欲しい。そしてあちらからぜひ帰って来て欲しいと言わせる、そのような態度で迎えに来て欲しいと……願っている」

 ここで、テレーズが「さっ」と手を挙げた。
 自分から、話したいという意思表示をしたのだ。

「……凄いわ、貴女……リゼットさんって言ったわね。素晴らしい洞察力よ」

「うふふ、凄いかしら? でもこの結論は私だけが考えたわけじゃない。妻全員で話して出したのよ」

「……分かったわ、もう降参。私の事をお話します……」

 諦めたように、テレーズは微笑んだ。
 そして、少しずつ自分の事情を話し始めたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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