第21話「秘密のライフワーク」

文字数 2,291文字

 クラリスが、俺達家族に『秘密』を持つようになってから、2週間後の夜……
 俺は私室で、彼女とふたりきりになって話していた。
 ベッドに入って、ただ抱き合って。

 ……昼間そっと声を掛けられた。
 丁度、クラリスの『番』だった。
 ふたりきりだけで、話したい事があると。
 例の、『秘密』にした件だと、すぐにピンと来た。

「……旦那様」

「おう」

 いつもの通り返事をした俺へ、クラリスは力なく笑った。

「お願いがあります……少しだけ手伝って頂きたいのですが……」

「了解、……それより無理をしていないか? 身体は大丈夫か?」

「はい、いろいろとご心配をおかけして申し訳ありません。少し疲れはしましたが、体調は全く問題ないです」

「おお、良かった」

「ありがとうございます、ご心配して頂いて……それより私……旦那様の凄さが、またひとつ分かりました」

「俺の凄さ?」

「はい、秘密を持つのって……家族を驚かせるサプライズって、想像以上に気疲れします。旦那様は、いつも平然としていますから」

「いやいや、俺だって結構体力を消耗するし、家族なのに気を遣って精神的にも少し疲れるな……けして嘘は付いていないのに」

 と俺が言えば、クラリスはポカンとした。

「え? 意外です……旦那様もそうなんですか?」

「ああ、種明かしの後は、ぐったりさ」

「本当ですか? 良かった」

 自分だけじゃない。
 レベル99の俺も、同じように消耗すると聞き、クラリスは安心したようだ。

「おいで、クラリス」

 俺は両手を広げ、声を掛けると……
 改めてクラリスを優しく抱いた。

 クラリスは、俺の胸へ顔をすり寄せて甘え、やがて……静かに、泣き出した。
 自分が周囲へ、結構な迷惑を掛けていると思い込んでいたらしい。

 黙って背中をさすり、慰める俺の胸の中で……
 ひと通り泣いた後、クラリスは話し始める。
 ようやく、元気が出て来たようだ。

「旦那様、私、素晴らしいライフワークを見つけたのです」

「素晴らしいライフワーク?」

 何?
 ライフワークって?
 一生をかける仕事って事だけど。
 
 一体、どういう意味だろう?
 レイモン様の影響で、服を作るよりも、絵を描く方を一生の仕事にするのかな。

 俺が、「え?」って顔で見れば、クラリスはちょっとだけ苦笑した。

「と言ってもですね、一般的なライフワークみたいに死ぬまでにとか、そこまで時間はかからないと思います」

「成る程。……クラリスは、王都でレイモン様の話を聞いて、新たな絵を描く事を決めたんだな?」

「はい! そうです」

「だけど……服の方はどうする? 勿体無い気がするけど……」

「安心して下さい。服を作る事はやめません。これからもやります。ええっと、もしかして……私が何をやるのかが、分かってしまいましたか?」

「ああ、何となくな。でも念の為、言っておくよ。お前の心は読んでいないからな」

「うふふ……良いですよ。旦那様なら、私の心を読んでも……さあ、思いっきりどうぞっ!」

 そう言うと、クラリスは悪戯っぽく笑った。
 
 俺が大好きだから、どうされようが問題なし?
 思う存分、自分の心を読んでくれって?

 あはは、とても嬉しいけどね。
 それは、また今度な。

 ああ、でもこの様子だと……
 クラリスは、完全に元気を取り戻したようだ。
 うん!
 良かった、良かった。

「いやいや、緊急事態以外、心は読まないって。それよりさ、どんな絵を描くか、俺には分からないけど、お前が何か素敵な事を考えているのではと、思ったよ」

「素敵な事?」

「ああ、お前の絵、楽しみにしてるぞ」

「はい!」

「あと、これだけは言っておこう……リゼットが心配していた」

「…………」

 リゼットの事を言ったら、クラリスは黙り込んだ。
 先日、リゼットと交わした会話を思い出したみたい。
 「ノーコメント」なんて言って、相手が傷ついていないか気にしているのだろう。
 いやいや心配ないって。

「でもクラリス、……お前を信じようと言ったら、リゼットは分かってくれた。俺はその後、クッカ達にも同じく言っておいた」

「…………」

「全然問題なしさ、全員お前を信じてるって」

「…………」

「当然、俺も信じてる。だから安心しろ」

「…………」

 そう……
 実は、リゼットだけではなかった。
 クッカを始めとして、他の嫁ズにも伝えたんだ。
 「クラリスを信じよう」って。

 他の妻達から信じて貰い、クラリスはとても嬉しかったのだろう。
 声が震えていた。

「あ、ありがとうございます。旦那様のフォローに、感謝します」

「お安い御用さ。あとな、サキとタバサにも伝えておいた」

「え? サキちゃんとタバサに?」

「ああ! 俺はこう言った」

「…………」

「サキ、タバサ、お前達へ仕事を任せたのは、けしてクラリスが冷たくしているんじゃない、一人前の服飾職人になる為のテストだし、かえってビッグチャンスだぞって……こっちもバッチリ、今ふたりは気合バリバリで奮闘中さ」

「わぁ、本当ですか? 私……何から何まで全部、旦那様に面倒見て貰っちゃったみたいっ」

「おいおい、嫁の面倒を旦那が見るのは当り前だ、俺達は夫婦じゃないか」

 俺がそう言うと……

「……だ、旦那様ぁ!」

 感極まったらしく……
 クラリスはまた甘えて、俺に「きゅっ」と抱きついて来たのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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