第34話「順調です!」
文字数 2,789文字
エモシオンとボヌール村の魅力を伝える為の店、
アンテナショップ『エモシオン&ボヌール』の経営は順調である。
とんでもない「特大の利益を出す」とまでは行かないが……
「結構な黒字を計上した」のである。
これは嬉しい誤算というか、大健闘だと言い切っても、どこからも文句は出ないのでは?
オベール様の好意で、店舗の家賃がタダなのも幸いして、商品仕入れ、人件費等を差っ引いても、充分儲かっている。
当初、目的を果たす為なら『ボヌール村とオベール家の持ち出し』、
つまり大赤字を覚悟していたのに、凄いと思う。
当初、この店の立ち上げ、経営計画と企画に関しては、発案者の俺、監修役である領主の奥様イザベルさんと、元ボヌール村村長のジョエルさん、フロランスさんが当たった。
俺やイザベルさんは多忙なので、オープンしてから実際に仕切るのは、主にジョエルさんとフロランスさん、それにミシェルがフォロー。
でもミシェルは、ボヌール村の大空屋をメインにせざるを得ないから、最近は、リゼットとソフィも手伝っている。
「経営と企画って面白いね!」が、最近のリゼットとソフィの口癖。
村長の娘、領主の娘って血筋なのか、適性があったみたい。
ジョエルさん、フロランスさんとミシェルと、計5人で日々、どうしたら店が良くなるか考えているようだ。
片や、コンテンツとして、店で一番好評なのは、例の特製ハーブ料理である。
王都の宿屋、白鳥亭の女将アマンダさんの、伝統的なアールヴ料理をリスペクトした、独自の進化系ともいえるオリジナル料理だ。
最初はグレースがレシピを持ち帰ったが、残念ながら挫折。
もうボヌール村では二度と作られないと思った料理が、レベッカの再度のレシピ持ち帰りで復活。
グレース&レベッカの名コンビが、リベンジを誓って、研鑽を重ね……
他の嫁ズ5人も参加し、とうとう完成。
一時は、のけ者にされたと、むくれたクーガー、そしてクラリスも加わり……
今や、嫁ズ全員の得意料理となったのである。
途中から、エモシオン主婦軍団も加わり、的確なアドバイスもあって更に味には磨きがかかっている。
この特性ハーブ料理、「身内受けは良くても、果たして味はどうだろう?」と、オープン当初は少し緊張したが……
カフェに来る、お客さん全員から大絶賛を頂いた。
うん!
これでもう安心だ。
「こんなの食べた事がない!」と、『激ウマ』みたいに言われ、常に店外には行列が出来る状態。
俺が前世で見た、どこかの名店みたいになっている。
但し大盛況の理由は、給仕が美人揃いの、嫁ズ&エマ&主婦軍団目当てというのも否めない。
だがそんな心配も、すぐに有効な対策が立てられた。
スタッフが改めて『全員人妻』だと宣言した上、ナンパお断りを徹底したのだ。
トラブルが起きそうになったら、俺やアンリが対処。
女性陣もクーガー、ミシェル、最後にはカルメンが『にらみ』をきかせたのも効いた。
こうなると行列は変わらないが、当初は男が圧倒的に多かった客層も、最近は女性客と若いカップル、夫婦客が殆どである。
ちなみに……
「のけ者になった!」って怒ったクーガーが、嫁ズの中では最もハーブ料理の腕が良くなって、クッカが悔しがったのはご愛嬌。
料理だけではなく、カフェの店内も、お洒落で素敵だと言われている。
理由は明白。
お洒落な小物を置いたのと、クラリスが描いたボヌール村の風景画が素晴らしいからだ。
風景画は、店の素朴な質感のさっぱりした白壁を、美しく飾っている。
その風景画の評判を、どこからどう聞きつけたのか……
何と、買い手がついた。
それも、王都とジェトレ村の画商がわざわざ来て、数点ずつ買ったのだ。
絵を買われた瞬間、もうクラリスは「どきどき」して、胸がいっぱい。
嬉しさで、顔を真っ赤にしていた。
こうなると、最終的にどこのどのようなお客が買って、一体どこで飾られるのか、楽しみだ。
ジャンにでも、追跡調査させようか。
そして今更だが、カフェの制服はプレゼンテッドバイ、クラリスチーム。
特に、メイド服は可愛いと大評判である。
このメイド服が、ダントツで一番似合うのは、カフェの主任となったエマ。
カフェの接客に関しては、
ショップのスタッフ全員に頼られて、凄く輝いてる。
愛する彼女のメイド姿には、彼氏のアンリが惚れ直したという、もっぱらの噂だ。
ちなみにふたりには早くも『結婚式』の話がいろいろ出ていて、皆で盛り上げている。
一方、物産販売の部門も順調。
エモシオン名物の鱒の加工品、ボヌール村名物のハーブと蜂蜜が特に好評で、売り上げはうなぎのぼりだ。
こちらの制服も、プレゼンテッドバイ、クラリスチーム。
ボヌール村名物の大空をイメージしたスカイブルー、広い大地の茶色や深い森林の緑など数種類あって、アースカラーを基調としたエプロン風のかっぽう着だ。
俺は勿論気に入って着用したし、年齢性別を問わずなので、ジョエルさんみたいなおじさんにも安心。
そうそう、忘れちゃいけない。
特産品だけじゃなく、「じわじわ」売れているのが、俺とレベッカの合作ナイフ。
実は、忙しい合間に時間を作り、俺、地道に鍛冶スキルをアップさせたから。
ほら!
あのすもう大会に優勝した、若い鍛冶師さんと仲良くなって習った。
彼が、オベール家へ仕える事となったのがきっかけでね。
基礎からいろいろと教えて貰って、村に鍛冶場も建てた。
今や、ナイフの刀身をコツコツ作ってる。
その上、嬉しい事に、息子のレオが鍛冶に興味を持ったらしい。
俺が作業中は、入りびたりなのだ。
ところで……
このナイフには、レベッカから特別なお願いがあった。
それは、俺とふたりのイニシャルを組み合わせた、独自の紋章を柄へ入れたいって事。
クラリスに相談したら、快諾してくれた。
すぐにデザインして貰い、師匠のオディルさん夫婦みたいにナイフの柄に入れたのである。
手前みそだが、紋章が入ったナイフは凄くカッコいいし、お洒落。
デザインだけじゃない。
「使い勝手が良い! 実用的!」だと評判も良い。
「一生の夢が叶った!」って、レベッカは大感激している。
俺とレベッカという『不肖の弟子?』の成長を、いずれ、王都のオディルさんにも『報告』に行かなければって思うよ。
そしてまたまた俺達に、嬉しい事が起こったのである。