第4話「クッカの夢②」

文字数 2,424文字

 クッカは、本気で怒ってはいない……
 俺は安心し、改めて尋ねてみる。

「いや、俺が絡んでいるって? それって分からないな。クッカはどうしてそう考えたの?」

「だって! タバサったら、旦那様にぞっこんのパパっ子なんだもの……困ったあの子が、貴方とふたりきりで内緒話したなってピンと来た」

 俺に「ぞっこん」のパパっ子?
 タバサが?
 何となく、自分では認識があるけれど……
 自ら言うのは、超が付く親馬鹿。
 でも、嫁や第三者の誰かから言われれば、それは……凄く嬉しい。
 父親なんて、所詮そんなもの。

「ははははは、さすがクッカ、鋭いな」

「うふふ、さすがに嬉しくて笑っちゃうでしょうね。けれど……私には笑い事じゃないわ」

「御免、まあ、そうだな」

「ねぇ、旦那様、あの子から聞いているでしょう? お願い! 理由を教えて」

「分かった、実は……」

 俺は、タバサの希望をひと通り話す。
 話を聞き終わったクッカの表情は……複雑だった。
 
 でも娘に対し、怒っているという趣きではない。
 母である自分に相談して来なかった。
 寂しい……そして、反省……という、切ない波動が伝わって来る。

「私……タバサに、いろいろ押し付けていたのかな? 自分の願望を」

「そんな事ないさ」

「だって……」

「この世界もそうだろうけど、俺の前世の世界では、親の仕事を子供が継ぐなんて良くある話だもの」

「でもあの子は、ハーブを嫌がって……」

「違うよ、ハーブを嫌がっているわけじゃない。自分の可能性をいろいろ試したくなったんだ」

「自分の可能性を? 試す……の?」

「うん! そんなものだよ。例えば俺だけど……昔は、なりたい職業があった。でも幼い子供の夢なんてコロコロ変わる。ええっと……最初はヒーローだったかな」

「ヒーロー? え? 何それ?」

「うん! 正確には職業じゃない。戦隊ものって言って、う~ん、どう説明しようか……そうだな。この世界で言う正義の勇者がチームを組んで戦う番組……まあ所詮は、子供向けのお芝居だけどな。それが当時、すっごく流行っていた」

「チーム? 戦隊? って、冒険者のクランみたいなもの?」

「うん、そう」

「なら、旦那様はふるさと勇者だし、クーガーも私も一緒に戦っているからこれって戦隊? やったぁ! ヒーローになる旦那様の夢が叶ったわ」

「おお、言われてみれば確かにそうだな。クッカの言う通りだ、俺も子供の頃の夢が叶った」

「ああ、良かった! 嬉しいっ」

 クッカの奴……いつもそうだ。
 俺の幸福を、まるで自分の事のように喜んでくれる。
 まあ、俺も家族が幸福になると嬉しいから同じだな。

 俺の『夢』に興味を持ったクッカは、続きを聞きたがる。
 おねだりして、せがんで来る。 

「ねえ、それから?」

「うん! ヒーローの次は電車という、馬が引かずに自動で動く乗り物の運転士になりたくなって、またその次は遠くの星を目指す宇宙飛行士になって宇宙人に会いたくなり、祖父に連れて行かれて、釣りにはまった時は、プロの釣り師になりたいとか……いろいろ変わった」

「うっわぁ! 面白そうっ! ねぇねぇ! 旦那様がなりたかった職業、全部教えてっ!」

「ああ、良いぞ」

 クッカは、ブルーの綺麗な目を輝かせていた。
 彼女が俺の過去を知りたがる。
 その気持ちは……凄く分かる。

 女神クッカと魔王クーガーは、元々ひとりの人間クミカだった。
 しかし!
 死んで魂となって……更に、女神と魔王に分かれた時、人間クミカの記憶は、全て魔王クーガーに渡された。

 女神となったクッカには、一切残らなかった。
 俺と過ごした幼い日の大事な記憶が……

 だから、クッカは失われた記憶を補完したいと思っている。
 今の話は、最も彼女のツボに来る話だから。

 俺は憶えていた事――『子供時代の夢』を全て話してやった。
 すると、クッカは満面の笑みを浮かべ、

「旦那様、私、たった今自分の夢が分かりました、本当の夢が」

「え? 本当の夢?」

「うふふ、それはですね、私が旦那様の事をもっと知る事……ハーブも大好きなんだけど……今、一番の喜びを感じたから」

「クッカ……」

「ねぇ、旦那様。私、思うんです」

「ああ、教えてくれ。クッカが思った事」

「はいっ! 夢の実現って、自分が一番嬉しい喜びを感じる事じゃないですか……だから決めました。私達、親はタバサが一番喜びを感じる夢を、見つける手伝いをすれば良いんだって」

「ああ、そうだな! 絶対にそうだ」

 同意しながらも……
 俺は、クッカがいじらしい。
 今の言葉が、自分より、俺やタバサの事を考えた物言いだと感じたからだ。

 クッカの一番の喜びが、俺の過去をもっと知る事なんて……
 敢えて心の中を読んだりしないから、今クッカが言った話の真偽は分からない。

 普通に考えたら、クッカが本当は、自分の持つハーブ知識の全てを……
 次世代のボヌール村の為に活かして欲しい。
 そう願いを込めて、天界で学んだであろう素晴らしい知識をタバサへ伝授。
 自分の(こころざし)を、しっかり受け継いで欲しいと、考えているかもしれないのに……

 でも……
 今言った事は『本音』だって波動も、強く伝わって来る。

 だから、俺は凄く嬉しい。
 何か、またクッカとの『距離』が縮まったと感じたから。
 もはやふたりの間には、距離なんて殆ど存在しないのだろうけど。

 そして今回のタバサの件で、俺達は親としても成長出来た気がする。

「クッカ、おいで」

「はいっ!」

 俺が呼ぶとクッカはまた胸に飛び込んで来た。
 温かい……

 クッカの心と身体のぬくもり……思い遣りを感じ、俺は愛する嫁を優しく抱き締めていたのだった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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