第16話「俺達の未来」

文字数 2,440文字

 翌日、お昼前……
 俺とレベッカは王都から帰って来た。

 何度も説明して恐縮だが、長旅に出るような雰囲気で、尤もらしく王都の正門を出る。
 正門を出て、少し離れたひとけのない場所で「ぱぱっ」と転移魔法を使う。

 そして村から少し離れた雑木林に到着し、「ささっ」と衣装交換。
 ちょっち狩りをしたら、ボヌール村の門前まで歩いて、レベッカ父ガストンさんのチェックを受け、無事入村っていう段取り。

 義父ガストンさんは俺の正体が『ふるさと勇者』とは知らない。
 婿が自分の愛娘と一緒に近場へ、狩りを兼ねた『キャンプ』へ行ったと思っている。
 ちなみに村に入る時の恰好も、狩りに行く時の普段着に戻してあるので怪しまれる事はない。
 レベッカも今は背中に弓を背負ってるし、ごく自然な出で立ちだ。
 村の中で、『全ての真実』を知っているのは、ウチの嫁ズだけなのである。

 俺とレベッカは、徐々に村の正門へ近付く。
 警備役のガストンさんとジャコブさんは、いつものように正門脇の物見やぐらに陣取っていた。

 ガストンさん達は、既に俺達を認識している。
 おお、手を振っているぞ。

 やがて門前に着き、レベッカが叫ぶ。

「パパ、ただいまぁ!」

「お~、レベッカ、何だ、えらく機嫌が良いな」

「うん、キャンプ凄く楽しかったし、獲物もバッチリ取れた」

「へぇ! それか?」

 ガストンさんの指摘&問いかけに対し、俺が代わって答える。
 背負っている、牡鹿を示したのだ。

「ああ、これっす。後でおすそ分けしますよ」

「おお、助かる!」
 
 この鹿は先ほど、「さくっ」と狩った。
 牡だから当然、立派な角を持っている。
 
 もう、分かるでしょう。
 王都で覚えたナイフの柄づくりの材料用と、我が家の食料用の、一石二鳥で狩ったのです。
 ちなみに王都で買った土産の数々は、収納魔法でこっそり仕舞ってあるのでばれないのです。

 手続きを経て、村に入ったら、俺とレベッカは真っすぐ帰宅。

 事前に念話で伝えてあるから、嫁ズは全員仕事を中断して、家へ戻っていてくれた。
 グレースとベル、付き添いのソフィだけは別室でお昼寝中だけど……

「ただいま!」

「おかえりなさいませ」
「わぁ、立派な鹿だ」
「凄い!」
「さすがです」

「おお、美味そうだろう」

 普段と変わらない会話だが、本番は夜。
 俺と嫁ズで家族会議を行い、今回の王都旅行の報告をする。

 実はリゼットと練った『作戦』はまだ終わってはいない。
 今夜、全員で話してから完結となる。
 そのキーウーマンが、レベッカなのだ。

「では旦那様、今夜」

「OK! リゼット」

 俺はリゼットとアイコンタクトを交わし、会議実施に支障がない事を確認した。
 荷物を片付け、全員一緒に昼食を食べて、午後……リゼット以下嫁ズは仕事に戻った。

 俺とレベッカは、さすがに今日はお休み。
 家で休みながら、ふたりで今夜の家族会議の前打合せをしておく。
 
 まだレベッカは、単に旅行の報告会としか認識していないから。
 
 とても遅くなってしまったが……
 このタイミングで、俺は今回の旅の『種明かし』をしたのだ。

 レベッカはとても吃驚したが、俺の考えを知り、すぐ嬉しそうに笑う。
 そして「ありがとう!」と俺に抱きついたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 夕食後……なんやかんやで夜も更けた。

 お子様軍団を完全に寝かしつけてから、家族会議は始まった。
 進行役は、いつも通りにリゼット。
 事前に彼女には全て報告し、段取りは確認済み。
 なので準備は万端。

 残念だが、やはりグレース&ベル母子、付き添いのソフィは欠席。
 後で、夢の魔法か何かでケアして、情報共有しておこう。
 
「さて、今回の旅行に関しては、レベッカ姉が楽しんだだけでなく、私達にも得る物が多々あります。それは私達の未来へ……夢へ繋がるものなのです」

 リゼットは、「コホン」と咳ばらいをした。

「論より証拠。旦那様、まずは私達へのお土産を見せて下さい」

「了解!」

 俺は収納魔法を使って、オディルさんから、お土産として買ったナイフを取り出す。
 都合9つのナイフが、テーブルに並べられた。

「わあ、素敵なナイフ」
「いろいろ使えそうね」
「王都の一流職人が作ったんでしょ、嬉しい」
「ありがとう!」

 予想通り、嫁ズの反応は、それほどではない。
 ナイフは、日用品だから「普通に嬉しい」レベルなのだ。
 グレースと旅行した時に買って来た、誕生石ほどの激しいリアクションはなかった。

 だがこれは、当然ながら想定内。
 俺はすかさず、リゼットにアイコンタクト。

「了解!」

 元気よく返事をしたリゼット。
 再び、「コホン」と咳ばらいをして、

「それで皆さん、実はこのナイフには秘密があります」

「秘密?」
「何それ?」
「???」
「素敵なナイフだけど、魔法でもかかっているの?」

 そんな嫁ズの疑問の声を、打ち消すようなリゼットのサプライズ攻撃!

「うふふふ、ジャーン! この9つのうち、ふたつは何と! 旦那様とレベッカ姉が仕上げたナイフなのです。ナイフ製作なんて未経験なのに、凄いでしょう?」

「ええええっ!?」
「何それ?」
「嘘!」
「信じられない!」

 案の定というか、部屋は秘密を知らなかった嫁ズが発する、驚きの声に満ちた。
 満を持して、ここで、今夜の主役レベッカの登場である。

 レベッカは、「さっ」と手を挙げる。

「みんな、聞いて! 私、王都へ行って素敵な人達に出会ったの。狩りと犬の訓練以外に、やりたい事がたくさん見つかったの! 夢を持てたから、これからの人生が凄く楽しみなの!」

 そう言うと、レベッカは身振り手振り付きで、夢中になって話し出したのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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