第4話「父の背中」

文字数 3,273文字

 西の森を探索……いや、のんびりと散策する俺達。
 しかし、そんなまったりペースが続くわけもなく「いい加減、勇者の仕事をしろよな」という展開になるのはお約束。

 森を散歩する俺達の索敵に、魔物——ゴブリンの反応が出たのである。
 数は……約100体ほどの群れ……結構な数だ。

 この西の森には、特にゴブリンが多い。
 思えば、俺のデビュー戦はこの森から出現したゴブリンの群れだったから。
 お祖母ちゃんの風邪を治す為に、ハーブを取りに行ったリゼットが襲われ、それを助けたのだから……
 それから、様々な戦いをこなした。
 魔法もスキルも、た~くさん覚えた。
 だから分かる。
 油断は大が付く禁物だが、ここは俺とケルベロスで十分だろう。

 と、いう事でテレーズは、騎乗させたベイヤールと共にジャンにも守らせる。
 ゴブリンの群れ100体という相手にも、テレーズは全く怖がっていない。
 意外である。
 それどころか……

「ケン、(わらわ)……じゃあない、私の魔法で援護しようか?」

「いや、大丈夫、自分の身だけ守ってくれ。ここは俺とケルベロスに任せろ。万が一、討ち漏らしてそっちへ行ったら、俺の従士がやっつける。ベイヤール、ジャン、テレーズの事を頼むぞ」

「ぶひひん」
「了解っす」

 俺はテレーズへ「にっこり」笑うと、ケルベロスに目配せして、出撃した。
 まだゴブリン達までは約500mくらいはあるが、あまり至近距離で戦う必要もないから。

 見送るテレーズ達の視線を受けながら、俺とケルベロスはゴブリンの群れへ突っ込んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 まもなく戦いは終わり……
 俺とケルベロスは戻った。

 すると!
 
 ふうむ、ご苦労、ご苦労、(わらわ)は満足じゃ! とか……
 テレーズが馬上で、のたまうのかと思いきや。

 ベイヤールからふわりと、飛翔の魔法を使って降りて、テレーズは俺とケルベロスへ駆け寄って来たのだ。

 そして、開口一番。

「おお! ケンは凄いのだな」

 テレーズは戻って来た俺へ、目をキラキラさせて、興奮した眼差しを向けている。

 今回の俺の戦い方……
 こんな森の中では、火属性の魔法は使えないし、使わない。
 万が一、火事になったら困るから……
 なので、手間はかかるが、素手の天界拳と剣技でゴブ共を倒した。
 当然ケルベロスにも火炎放射は厳禁してある。

 自慢するのは嫌だけど……
 出撃前にテレーズが、俺の戦いをどうしても見たいと『おねだり』したので、魔法で一部始終を『生中継』して見せてやった。

 例によって天界拳のパンチ、キック、そして剣技で一刀両断!
 ゴブリン100体を倒すのに、僅か15分ほどしかかからなかった。
 仕上げは、アンデッド化絶対防止の葬送魔法で相手を完全昇天。

 そんな俺とケルベロスの戦いぶりが、テレーズの脳裏に焼き付いているらしい。
 先ほどから、感嘆しきりなのだ。

 でもこれって、『ふるさと勇者』の通常業務である。

「いや、こんなの大したことない。いつもの俺の仕事だから」

「いつもの事? じゃあケンは、いつもあのように先頭に立って戦うのか?」

「まあ、大体ね」

「ひとつ聞きたい、お前はこの中で一番偉いのだろう?」

「ううん、偉いというか……一応、召喚者ではあるけどな」

「おお! では、王ではないか? 王ならば何故部下である従士達に戦いを任せない?」

「俺は王様じゃない。それに何故って言われても……基本的には俺が先陣切った方が良いと思って」

「お前が先陣……」

「うん、まあ適材適所って考えもあるよ。基本的には全員を信じているから、場合によっては任せる。お前をベイヤールとジャンに任せたから……それで分かるだろう?」

「ケン!」

「おお、何だ? いきなり大声出して」

「お前達は……凄いな。仲間同士、信頼関係で結ばれている」

 お前達は……
 そう、俺とケルベロスが前線で戦ったが、何体か討ち漏らした敵も居た。
 だが心配無用。
 俺の指示通り、ベイヤールとジャンはテレーズをしっかり守った。
 ベイヤールが、近づいて来たゴブを威嚇。
 逃げ腰になったゴブを、ジャンが自慢の爪と体術で颯爽と戦い、瞬殺したのである。

 なので、さっきから、そりかえるくらいジャンは得意げなポーズを取っていた。
 可愛い女子の前だと、いっつもそうだ。

 でも俺達にとっては、こんなのは当たり前な戦い。
 そこまで、感心する事なのだろうか?

 もしかして俺達に対して、テレーズは結構『構えていた』のかもしれない。
 はっきり言って全く信用しておらず、相当警戒していたと思う。

「何だよ、テレーズ。いきなり褒めて……でも3か月は一緒に暮らすから、お前も信頼する大事な仲間だ」

「妾……いや私が信頼する大事な仲間?」

「ああ、仲間だ。まあ、今迄暮らして来た環境が全然違うだろうから、俺達や村には中々慣れないかもしれないけど……宜しくな」

「おお、ケン、こちらこそ宜しく頼む」

「そうか! ありがとう、テレーズ。妖精のお前は人間の俺より年上かもしれないけど……俺は3か月間、お前の父親、もしくは兄貴として接するつもりだ。悪いが我慢してくれよ」

 ズバリと告げた俺。

「私が年上? うぬぬ……だけど父親、兄貴……」

 テレーズは、何か考え込んでいる。
 女性だから、年の事を言ったのが、気に障ったか?
 それとも俺がいきなり肉親として振舞うと言ったのが、まずかったか?

 反応は、いまいちだ。
 なので、俺はフォローする。

「ああ、凄く嫌だろうけどな」

「い、いいや!」

「おお、嫌か。やっぱり……そうだろうな、御免よ」

「ち、違う! 嫌じゃなくて、宜しくお願いしたいという事だ」

 おお、何だ。
 にんまりしてる。
 可愛く笑ってるじゃないか。
 こうなると、可憐なフランス人形みたいだ。

 だけど初めて会った時と、反応が違い過ぎる。
 やっぱり、さっきの勇ましく見えた戦いが、凄い影響を与えたみたい。

 ならば、ここが攻め時。
 俺からも、『大サービス』してやるぞ。

「そうかっ、じゃあ今度は俺がベイヤールの代わりをしてやろう」

「え? ケンがベイヤールの代わり?」

 きょとんとしたテレーズへ、俺は背中を差し出した。

「ほら、おぶされ」

「え?」

「遠慮するな、おんぶしてやるから」

「う、うん……」

 おんぶなんて、何か引いちゃったかな?
 テレーズったら、もじもじしてる。

「ほら!」

 再び俺に促されて、テレーズは俺におぶさった。
 軽い、それに華奢だ。

「ごめんな、おんぶする時、お前のお尻触るぞ」

 相手は妖精だから年齢不詳だけど、絶対『レディ』だ。
 だから、一応断っておく。

「…………」

 小さなお尻を抱えると、何かもじもじしているのが伝わって来る。
 おお、恥じらうのがすっげぇ可愛い。
 
 俺の娘達は「パパおんぶ!」とか言って喜び、速攻でおぶさる。
 それは可愛い。
 確かに可愛い。

 だけどこうやって、「もじもじ」恥ずかしがるのも、とっても可愛い。
 あと数年して、タバサ達娘ズが大きくなったら、こんな風になるんだろうな。
 同じように「おんぶ」するのがとても楽しみだ。

 そんなテレーズをおんぶして、少し歩くと……

「うふふ、ケンの背中は広くて温かいな……」

「おお、そうか」

 嬉しい事を言ってくれる。
 そして暫し歩くと……寝息が聞こえて来る。
 いろいろと気疲れもあったのか、いつしかテレーズは眠っていた。

 俺は勿論、従士達も「ふっ」と笑う。
 既に全員、テレーズが可愛く思えていたのだ。

 さあ、そろそろ帰ろう。

 俺達はテレーズという『新しい仲間』を伴い、ボヌール村へ戻ったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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