第3話「転生者サキ・ヤマト①」

文字数 2,441文字

 天気は快晴。
 風は爽やか。
 雲ひとつない青い大空が、頭上に広がっている。

 俺が今居るのは……
 住んでいるボヌール村のある世界と、よ~く似ているけど、これまた違う異世界。
 
 何故似てるとか、そう思うのかって?
 
 北と南、それぞれに真っすぐ延びる大きな街道を始めとして……
 広大な草原に、東西の森、湖など配置された地形が、ボヌール村近辺にそっくりだからである。
 但し、我がボヌール村は存在せず、全く違う名前の村となっていた。
 王国や王都の名前さえも違うのだ。
  
 『神』である俺はこの世界において、かつてのクッカ同様『幻影』となり、地上から約3mの空中に浮かんでいた。
 眼下には、石ころだらけな街道の真ん中に、ひとりの少女が腕組みをしながら立っている。

 俺をきつい目で睨む? 少女は16歳くらいだろうか。
 身長は160㎝ほどで、華奢な体格。
 恰好は、薄緑色の法衣(ローブ)姿。
 綺麗な栗色の髪を、濃い緑色のリボンを使い、後ろで束ねている。
 すなわちポニーテール。

 鼻筋が「ぴっ」と通って、整った顔立ち。
 バランス良く配置された、左右切れ長の目が俺を「じっ」と見つめていた。
 きらめく瞳は深い鳶色。

 幻影の俺は肉声で喋れない。
 だからやりとりは基本、心と心の直接会話、すなわち念話となる。

『私は、サキ。サキ・ヤマトよ』

 予想に反し、サキが最初に名乗ってくれた。
 管理神様が、彼女に「ざっくり」と話をしたって聞いている。
 なら、俺も名乗るか……

『俺はケン、天界神様連合、後方支援課所属のB級神だ』

 おお、生まれて初めて俺、自分から『神様』って名乗ったよ。
 やっぱり凄く感動した……

 名乗る時は結構、緊張したけれど、幸い「噛まず」に済んだ。
 でも……何となく恥ずかしくなった。
 顔が、火照っているのが分かる。

 そんな俺に対し、サキは鋭く? 突っ込んで来る。

『ケン? それって変なのぉ? 貴方、全然神様らしくない名前ね』

 神様らしくない名前?
 サキは、何を基準にそう言っているんだろう。
 ん……まあ、確かに。
 ゼウスとか、オーディンとは響きが違う。
 人間臭い。
 自分でも、そう思うから、ま、いっか。

 ちなみに、現在の俺の風貌はケン本来の『素顔』じゃない。
 西洋風異世界に自然に溶け込めるよう変身、違う『外人顔』となっている。
 髪はまま、黒髪だけどね。
 恰好は案の定、異界に居た時と同じく、濃紺革鎧に細身のミスリル剣。

 いや、それよりサキの名前だ。
 サキ・ヤマトって……
 もしかして、同郷だろうか?
 でも彼女は外人顔……だよな。
 
 まあ今の俺だって、素顔は勿論、『神』としての顔も擬態した外人顔。
 なので、サキからは……
 「ケン? その名前、もしかして貴方は私と同じところの出身?」とは多分言われない。
 そもそも『ケン』って、外人さんにも多い名前だし。

『俺の名前が神様らしくないか、まあそうかもな』

 「尤もだ」とも感じたので、俺はサキに同意した。
 だが彼女の言い方には、露骨に『とげ』があった。

 その証拠に、俺が「頷く」と、サキはますます調子に乗って来た。
 神様なのに低姿勢で、反論せずに大人しく見える俺が、「(くみ)しやすい」と思ったのだろう。

 かさにかかって、機関銃のように、容赦ない毒舌をぶっ放して来た。

『でも、ケン。なぜ来たのが貴方なの? B級神で、平凡な普通顔じゃない?』

『…………』

『こんなに超可愛い私には、S級の神様が相応(ふさわ)しいわ。まあ最低でもA級神以上の美人か、イケメンが当然でしょ? 地味~な貴方なんか、全然私に相応しくない』

『…………』

『超不適格だわ……要らない』

『…………』

 超不適格?
 そして要らないって……
 おいおい………それは『言い過ぎ』だろう?
 それにこいつ、「郷に入っては郷に従え」って言葉を知らないのか?
 
 転生時には、学校を卒業したてで、全然世間知らずだった俺でさえ……
 管理神様や女神様達には、凄く気を遣っていたのに。
 
 まず、神様を『呼び捨て』はマズい。
 次に、無知から生じたとはいえ、神様に対する『理不尽な軽蔑』はヤバイ。
 そしてサキの顔は、まあまあ可愛いけど……
 勘違いともいえる、根拠のない自信は本当に痛い。
 
 そうか、納得。
 サキは……非常識な『痛い子』なんだ……

 思わず俺は、呆れて苦笑した。
 しかしサキは、俺の『どっちらけ』に気付いていない。

『管理神様も一体何、考えているのかしら? 私はね、凛々しい麗人みたいな、美女神さまが第一希望だって言ったのに……がっかり!』

 凛々しい麗人みたいな、美女神さまが第一希望?
 俺で、がっかり?
 あんた、何様?
 俺様?
 ……でも、その『望み』は、いずれ叶うぜ、サキ。

 ちょっとだけ「ムッ」としたが、俺は我慢、我慢。
 サキへ来たるべき『喜ばしい事実』を告げてやる。

『悪いな、暫く我慢してくれよ』

『暫く?』

 サキは、「きょとん」とする。
 俺の『話』が、すぐに理解出来ないみたい。
 どうやら、勘と洞察力は、そう鋭い子ではなさそうだ。

『ああ、俺は臨時の代理。もう少し経てば、君の本来の担当である凛々しい女神さまが来るよ』

 具体的に『これからの予定』説明してやると、さすがにサキは顔を輝かせる。
 更に、満面の笑みを浮かべた。

『へぇ! 良かったぁ、ラッキー! B級神も少しくらいなら、役に立つのね』

『…………』

 良かった?
 ラッキー?
 教えたやった礼も言わないのか、こいつは。
 あまりにも露骨だよ……目の前に俺が居るのに。
 そして相変わらず、傲岸不遜な物言い……

 「ムカッ」とした俺はまたも、無言になったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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