第21話「合同作戦会議」
文字数 3,492文字
村の将来の為、自分達の夢を叶える為……
頑張れば、道は開ける……かもしれない。
道のりは困難だが、得る物も大きいからだ。
意外にと言ったら失礼だが、領主でもあるオベール様とイザベルさんの気合も半端ではない。
夕食後の会議にも参加すると申し入れして来た。
もはやオベール家と、ボヌール村は一心同体なのだと感じてしまう。
今回、イザベルさんは大きな決意をしており、ある事をしたいと申し入れて来た。
当然ながら、夫オベール様から事前のOKも貰っているとの事。
問題は全くないし、願ってもない事。
なので、俺は事前にイザベルさんから申し入れを受け、その場で了承していた。
事後報告となったが嫁ズにも伝え、逆に歓迎されている。
……結果、俺の部下にと告げられたアンリとエマさんを入れて、会議に出席する者は総勢10名という人数になった。
村において通常このような会議は、リゼットが進行役をやる事が多い。
だが彼女の、アンテナショップに対する知識と経験はまだ不十分である。
自然と、『言い出しっぺ』の俺がやる事となった。
いかなる会議でも、目的となる議題と話す順序、そして講じる手段を明確に、そして説明する内容は……
簡潔に、且つ分かり易くが鉄則である……と思う。
「ではエモシオン開店予定のボヌール村アンテナショップに関して、会議を行います。ひと通り説明しますので、質問と提案はその後に願います」
俺が会議の開始を告げると、9人の視線が集中した。
「まず開店時期ですが、いろいろ準備がありますので、とりあえずは3か月後としておきます。営業形態ですが、人と経費の問題もあります……あくまで仮決定ですが、週に数日だけとし、営業時間も夜はなし、朝遅めから夕方までとしておきます」
店舗は決まったし、当座の資金も捻出した。
ただ、まだ品ぞろえとか、オペレーション、働いて貰う人の手配等やる事は多い。
かと言って、開店する日と営業形態を想定しないと計画が立たない。
「次に店の場所ですが、オベール家から無償貸与して頂いた店舗のひとつとします。我々が選んだのは中央広場最寄り、2階建ての店舗です」
ここまでは、問題なし。
「販売する商品ですが……ボヌール村特産品は、蜂蜜、ハーブ等を中心に考えています。エモシオンの特産品は鱒の加工品がメインとなります」
これらも問題ない。
嫁ズの意思統一は勿論、オベール様夫婦の了解も得ている。
「商品はまだあります。クラリスの作る衣服、そして絵画も売ろうと思います。絵とはボヌール村とエモシオンの風景画です。クラリスのキャパの問題もありますが、店の壁に掲出して、お客さんの視覚に訴えます」
クラリスの絵は、俺が思いついたアイディア。
店の壁に彩りを加えるし、ボヌール村とエモシオンのイメージのアピールになる。
更に、購入希望者には、商品としてそこそこの値段で売れるから。
これも問題なし。
全員が頷いている。
次は、店で働く人だ。
「そして、人の問題ですが……俺の方で提案と相談があります。イザベルさんに店の経営及び運営指導、監督管理をお願いします。長年、ボヌール村で大空屋を経営された経験を活かして頂ければ大きな力となります」
これもOK。
先程の申し入れとはこれ。
俺達は普段、エモシオンに居ない。
エモシオン在住のイザベルさんに、店を見て貰えば、心配なし。
本当にありがたい話である。
それに、何と言っても、イザベルさんは商いのプロだ。
領主の妻という仕事は日々多忙だが、無理をせず上手く両立させると宣言したのである。
そして、人事に関してはまだある。
「次も、人に関して提案だ。……ちょっといいかな? アンリとエマさん」
「何でしょう、ケン様!」
「はい、お聞きします」
アンリとエマさんは、相変わらず「はきはき」した返事をした。
俺の部下になると告げられているから、尚更であった。
俺は、にっこり笑って言う。
「いきなりの話で悪いけど、店で案内役兼販売役をやってみないか?」
「え? 騎士の私が、案内役?」
「私も販売役?」
予想通り、ふたりとも吃驚。
当然、補足説明をする。
「ああ、ふたりともこの城館に住み込みだろう? で、あれば丁度いい。もし仕事に不向きだと思ったら、すぐ相談してくれ」
事前に話があったイザベルさんと違って、アンリとエマさんには初耳の話。
だから、意思確認は必須である。
アンリはと見れば……少し不満そうである。
「私はケン様の部下です。命令に逆らう気はありません。ですが……本音は違います……わ、私はケン様について、村へ行きたいのです」
おお、嬉しい事を言ってくれる。
うん、お前の意思は良く分かった。
「そうか、ありがとう……じゃあ、エマさんはどうだ?」
「私もケン様の部下です。奥様にそう命じられましたし、与えられた仕事は頑張りたいと思います。ですが……この町や村を知らない私が、そんな大役を務める事が出来るのでしょうか?」
首を傾げるエマさんに、俺はフォロー。
「大丈夫、大役なんて力まず、気楽に出来る仕事さ。それに不明な点はすぐイザベル奥様に聞けば良い。奥様は村のご出身だから、町と村両方について良くご存じだ」
そう、イザベルさんに入って貰うメリットは大きい。
ボヌール村、エモシオンと両方に通じているもの。
「な、成る程。では安心です」
まだ不安があるらしく、ぎこちないが……
エマさんは、笑顔を見せた。
この町でちゃんと居場所を見つけられたという、安堵が感じられる。
「ああ、じゃあ頼むよ。当然他にも人を雇うから」
「はい! 了解しました」
元気な返事でOK。
あとは……
「で、アンリ。お前への答えだが……」
「は、はい!」
「安心しろ、希望すれば、ボヌール村には必ず連れて行く。そして少しの間、暮らして貰う。お前には、俺達の村の事を良く知って欲しいから。ただエモシオンの事も良く知って欲しい。だから暫くは城館詰めで、頑張ってくれないか」
「どうしてですか?」
なおも、食い下がるアンリ。
俺は、ちゃんと理由を告げてやった。
「うん! 警護の従士は別につけるが、お前がまず騎士として、奥様とエマさんを守れ! 今回の事件もあったしな、これは宰相としての業務命令だ」
「え? わ、私も守って頂けるのですか?」
ここで、驚いたのはエマさん。
俺は、微笑みながら、頷く。
「そう、アンリは奥様とエマさんを守るのさ。騎士として、
「は、はい!」
「でも奥様だけじゃない。エマさんに対しても、アンリは同じ家に仕える仲間として、アンテナショップの同僚として、守らせる。騎士修行……いや俺の部下としての修行だ」
「う、嬉しいです! 頼もしいです。アンリさん、お願いします!」
悪党を倒したのは、俺だが……
あの時、エマさんを実際に助けたのはアンリだ。
まだエモシオンという町に、大きな不安を持つエマさんを身近で守ってやれば、彼女も心強いだろう。
「わ、分かりました。エマさん、こちらこそ宜しくお願い致します。……頑張ります」
アンリは了承しながらも、まだ少しだけ残念そう。
話してみて良く分かったが、アンリは聡明な少年である。
俺の、意図と気持ちも分かってくれたみたいだ。
ならば……
「ここで……改めて言おう。だから聞いてくれ、アンリ」
「な、何でしょうか?」
「オベール様の了解はもう取ってある」
「了解? 了解って何でしょう?」
「何、簡単な話さ。もしボヌール村を気に入って、俺と共に村で働きたいのなら、お前を村民にしても良いってさ」
「え?」
俺の提案に吃驚するアンリ。
全くの想定外だと顔に描いてあるのが、微笑ましい。
「お前の、未来への選択肢は騎士だけじゃない。あまり思い込まずに様々な経験をしてみるんだ。もし村で暮らしたいのなら、俺達は、いつでもお前を迎えてやるから」
「わ、分かりました! 頑張りますっ!」
ようやく納得し、心の底から笑顔を見せるアンリを、俺達は温かく見守っていたのである。